こんにちは!
back number『水平線』のお話をします。
サビの歌詞はこういう感じ。
水平線が光る朝に
あなたの希望が崩れ落ちて
風に飛ばされる欠片に
誰かが綺麗と呟いてる
単語のひとつひとつがとても明るくてきれいです。
「水平線」「光る」「希望」「欠片」「綺麗」
だけど、ここにひとつ、不穏な言葉が紛れ込んでいます。
「崩れ落ちて」です。
これがあることで、このサビ全体が実はきれいなだけではないことがはっきりします。
きょうはそんなところから。
あなたの不幸せは誰かの幸せ
この曲はずーっと、あなたの幸せは誰かの不幸せで、あなたの不幸せは誰かの幸せかもしれない、って歌っています。
水平線が光る朝に
あなたの希望が崩れ落ちて
風に飛ばされる欠片に
誰かが綺麗と呟いてる
「誰かが綺麗と呟く」、その対象は「風に飛ばされる欠片」です。
その「欠片」は、「あなたの希望が崩れ落ちて」できたものです。
つまり「あなた」の希望が崩れたことが、誰かの「綺麗」に結びつくのです。
「あなた」の不幸せが、誰かにとってはそうではないということが、この世の中では頻繁に起こります。
それがこのサビの歌詞の中で、きらきらした言葉で描かれていることです。
逆もあります。
2番のサビです。
透き通るほど淡い夜に
あなたの夢がひとつ叶って
歓声と拍手の中に
誰かの悲鳴が隠れている
1番では「あなた」は不幸せな側だったけど、2番はちがいます。
ここでは「あなたの夢がひとつ叶って」とあるから、2番では「あなた」は幸せな立場の人。
それを周囲の人は喜んで、歓声を上げて拍手を送ってくれます。
だけどその中に、「誰かの悲鳴が隠れている」と、この曲では歌われます。
「あなた」の幸せが、誰にとっても同じように幸せだとは限りません。誰かにとっては悲鳴に値する不幸せなのだ、とこの歌では描かれるのです。
でもこの曲、人は他人とは違うんだね、では終わりません。
サビには続きがあるのです。
1番のサビは、こうです。
水平線が光る朝に
あなたの希望が崩れ落ちて
風に飛ばされる欠片に
誰かが綺麗と呟いてる
悲しい声で歌いながら
いつしか海に流れ着いて 光って
あなたはそれを見るでしょう
1行目では、水平線が光って見えました。
「あなた」はその輝きとは対照的に、自分の希望が崩れていくところでした。
ところが最後から2行目で、もう一度「光」が出てきます。
いつしか海に流れ着いて 光って
あなたはそれを見るでしょう
ここで光るのは、崩れ落ちた「あなた」の希望です。
それと同じ輝きを、「あなた」は自分自身の崩れた希望にも見出すのです。
最初綺麗に見えていたものは、単に綺麗で明るくて輝かしいだけではなくて、誰かの希望のが崩れたものなのかもしれないと、「あなた」は思い知るのです。
1番の最後、この歌詞はこういうふうに終わります。
あなたはそれを見るでしょう
その輝きの出自について、この歌詞では仄めかすだけで何も語りません。いいこととも悪いこととも言いません。
単に「それを見るでしょう」というだけ。
崩れた希望は美しいのでしょうか。それとも、希望が希望だったころの名残を感じて悲しくなるものなのでしょうか。
それはこの歌詞には書いてありません。
だけど、そういう投げかけ自体が、わたしたちを一段高いところへ連れていってくれます。
よい問いを作ることが一番難しくて、問いを見出すことができればその先への道筋は自ずと見えてくるからです。
表現の話
中島みゆき『糸』の話を少しだけ引き合いに出したいと思います。
この歌詞は、こんなふうに始まります。
なぜ めぐり逢うのかを
私たちは なにも知らない
いつ めぐり逢うのかを
私たちは いつも知らない
文末は「ない」とかだから、ですます調ではなくてだ・である調。敬語ではなくてタメ口です。世の中のほとんどの歌詞はこれと同じです。
ところが、『糸』の最後の部分は少し違います。
縦の糸はあなた 横の糸は私
逢うべき糸に 出逢えることを
人は 仕合わせと呼びます
最後だけですます調になってる!
しかも、ぎりぎりまで「あなた」と「私」の話をしていたはずなのに、最後の最後に「人」一般の話に広がる瞬間に合わせてですます調に切り替わるんですよね。
この、世界が広がる瞬間に口調が切り替わる感じ、back number『水平線』もまったく同じです。
改めて1番のサビを引用します。
水平線が光る朝に
あなたの希望が崩れ落ちて
風に飛ばされる欠片に
誰かが綺麗と呟いてる
悲しい声で歌いながら
いつしか海に流れ着いて 光って
あなたはそれを見るでしょう
最後だけ「だろう」ではなくて「でしょう」になってる!
それによって、この部分の視野の広がりが、口調の面でも支持されるということだと思うんですよね。
というわけで、back number『水平線』でした。
海には波があるけれど、遠くに見える水平線は真っ平らに見えます。
だからこのタイトルの『水平線』って、人々が平等であることのメタファーだとわたしは思っています。
でも、平等というのは同じだとか均質だとか違いがないとかってことではありません。
誰かの幸せは誰かの不幸せだし、その人の幸せは別の誰かの不幸かもしれません。
平等の中のそういう差異を描こうとしたのが、この曲なんだろうなと思って、書きました。
back numberはいままでにこんな歌詞のことを考えたことがありました。
hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com
好きな曲ばっかり…back numberつよすぎ……