5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

YUKI『My Vision』 - ピンチアウトし続けると見える大切なこと

「かわいいおばあちゃんになりそう」っていう褒め言葉あるじゃないですか。

個人的にそれ一番言われるひと1位はYUKIさんなんですよね〜!

俺もそう思う。

ほかにもかわいいおばあちゃん側の人って何人かいるけど、実際におばあちゃんになる側の発話って思えばあんまり聞いたことありませんでした。

でも今回YUKIさんの曲を耳にして、あっこれってそっち側の歌詞では?って思ったのでした。

きょうはそれを書きます!

YUKI『My Vision』歌詞

ピンチアウトし続けると見える大切なこと

Aメロの歌詞はこういう感じ。

大好きでやめられない 朝のコーヒーに読書
めくられるページの匂いごと 光が照らす

わたしはこの2行ですでに、老後のYUKIおばあちゃんの姿を見ています。

趣味読書なんだね、ロッキングチェアに座っててほしい☕️

歌詞はその先、手元にフォーカスが移ります。

かげりのない 文字の羅列
夢見がち クレイジー作家の願いを読む

タイトルにもある「Vision」の話に近づいてきます。

Vision」は視界とか視力とかって意味ですよね。

続くAメロはさらに踏み込んで、文字の内容にフォーカスしていきます。

月曜日はいつも通り 少し憂鬱になるけれど
楽しみにしている マンガの続きがある

こんな風にこの歌詞は、引きの絵からどんどん内面への視点を深めていきます。

これがMVの映像表現ともリンクしていて好きなところ。

ところが。

Web magazine いうやつ 画面からのブルーライト
眩しさに眉しかめ 目が痛い

内面への潜り込みは、サビの直前で妨げられます。

理由は「目が痛い」から。

ここで初めて出てくる視界の妨げ(=目が痛い)が、歌詞の中にずっと生まれていた映像的表現の妨げとリンクします。

痛みが日常生活を邪魔するのとパラレルで、痛みは歌詞の流れを邪魔しているのです。

流れが変わったところでサビです。

ああ できるのなら 裸の瞳で
小さな 文字を読ませて
ああ できるのなら 裸の瞳で
君を見ていたい

主人公はいまや矯正なしで「小さな 文字」が読めません。老眼です。

サビって、一番強い感情を、一番強い言葉で描かれる部分だって聞きますけど、それでいうとこの曲の中心は、裸眼でものを見たい!って気迫だってわかります。

それを引き立てるAメロとBメロがあって、行き着いたサビにこんなメッセージが乗るなんて見慣れない感じがします。でもおもしろい!

おもしろいけれど、でもそれを「裸の瞳で/君を見ていたい」とパラフレーズされてるから、なんだか急にJ-POPです。不思議な感じ。たのしい、おもしろい!

拡大をして よく見えるから
紙にも つい ピンチアウト

ピンチアウトはこれまでのこの歌詞の構成自体にまつわる言葉でもありました。

だけどこの歌詞のテーマは同時に視力のことでもあって、それを束ねられる一言として選ばれていてとても好きです。

1番は単に「Web magazine」が読めないだけでしたが、2番では歌詞が別の軸からピンチアウトされていきます。

ドラッグストアのサプリメント
ボトルの成分が読めない
スポーツジム ボディシャンプー
髪を洗うことがあるかい?

ここで出てくるエピソードは、「Web magazine」に視力が追いつかない話ではありません。

もっと根源的に、生活するための能力に少しずつ支障が出ている主人公の様子です。

主人公はいろんなものが見えなくなり、できなくなっても、こう歌います。

大切なものなら 少ししかないんだ
君の微笑みならば よく見える

1番では視力の悪化の曲だと思っていたけど、2番では身体のいろんなところに支障をきたしていて、それで大切なものがあぶり出されていきます。

ああ 戦わずに 抗いもせずに
世界を 面白がるよ
ああ 忘れないよ 今まで見てきた
愛しさをすべて

1番の途中で止まったと思っていたピンチアウトは実はずっと続いていました。

視界の話かと思っていたことは実は身体全体の不調の話で、身体全体の不調の話は根源的に大切なものが何なのかを照らし出すのです。

幻のような人生ならば
霞んでも ぼやけてもいい

「霞む」「ぼやける」はどちらも視界不良に使う言葉だけど、もっと抽象的な意味にも使えます。

不明瞭だったり、捉えどころがなかったりするときの言葉です。

主人公はその言葉を使って、「霞んでも ぼやけてもいい」と歌います。

これがこの歌詞のピンチアウトの一番奥深くに眠る言葉だったと、わたしは思いました。


YUKI『My Vision』でした。

思えばvisionって英単語を『ウィズダム英和辞典第2版』(←古い)こういう項目があります。

1U視力, 視覚(eyesight); 見ること; 視界, 視野 2C«…についての»未来像, 理想像, ビジョン«of, for, about»; [しばしば~s]«…という»空想, 想像«of» (後略)

今回の歌詞の最後に出てきた境地も、1というより2の意味で捉えられるものなのだと思います。

この変遷もピンチアウトって感じがするんですよね〜〜。

YUKIの歌詞、いままでこのあたりを考えてきました!

hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com

ちょうど噛み締めやすい硬さの歌詞の良さで、YUKIの歌詞めっちゃ好きなんですよね〜またいっぱい読みたい!

My Vision

My Vision