虹のコンキスタドールの的場華鈴さん、根本凪さんが卒業されることとなりました。
わたし、ちゃんとメンバーのひととなりがわかる状態で、卒業というのに触れるの初めてなんですよ……。
新しい経験をするといままで気づかなかった新しいことがわかることがあって、きょうはそういう話です。
何か言いかけたの?
今 何か言いかけたの? 風の音でよく聞こえないよ
隣 歩くだけなのに 見透かされているみたい 高くなる空
これ、的場さんが根本さんのことを歌っている曲に聞こえるのです。
根本さんがおどけて何かを言って、的場さんが「今 何か言いかけたの?」って返すようなやりとりです。
あの日の君の瞳 きらきらに輝いて まだ見ぬ世界に胸踊らせていた
それは時に優しく 君はとても美しく
足を止めないで歩いていく 旅の途中
この曲のすごいところは、ひたすら「君」のことを歌い続けているということです。
たとえば小説を書くとします。視点の取り方は一人称か三人称かの2種類あって、
- 私は聞き返した。
- 華鈴は聞き返した。
のように、どちらかを選ぶのが基本とされるようです。
だいたいそういう場面では注釈のように、
- あなたは聞き返した。
のように二人称で表現することもできるけれど、それは例外的です、みたいなことが書かれています*1。
歌詞では二人称ばかりが登場することはそれほど珍しいことではありませんが、この歌詞に特徴的なのはそればかりが出てきて、一人称がなかなか出てこない点にあります。
その目線はサビになってもずっと続きます。
哀しみが頬を伝い 風向きが変わっていっても
君にしかない力を誇れますように
根本さんが的場さんを慕うように、的場さんはずっと根本さんの悲しみも変化も見つめていて、「君にしかない力を誇れますように」と歌います。
ずっと相手のことを見つめて、相手のことを描き続けるのは、愛だと思うんですよね。
この歌詞では「愛」は1個所しか出てこないけど、でもちゃんとその愛情は目線から伝わってくるように感じます。
暗闇に追い越され その瞳が曇る日も 星へ続く梯子を登れますように
あの時 聞き間違いでないのなら 風の中 「大丈夫」 そう聞こえたよ
「星へ続く梯子を登れますように」というのは、眠れないようにもあの子が眠れますように、という想いであるように感じます。
よく見てみるとこの曲のサビ、全体的に暗い言葉がたくさん出てきます。
哀しみが頬を伝い、暗闇に追い越され、その瞳は曇っていきます。
それでもまったく暗い感じがなく、むしろとてもまぶしいのは、それを塗り替えていく確かな愛があるからです。
そこには、8年を共に歩んできた信頼関係に裏打ちされたすごみがあります。
相手のことをずっと描いてきたこの曲が、内省に向かうのは2番に入ってからです。
でたらめな午前5時 折り鶴潰さないように そっと歩いた
この部分から、的場さんの私生活と重なり合って見えてきます。
折り鶴というのは的場さんの年の離れた弟が作ったもので、部屋に散らばる折り鶴を踏まないように仕事に出ていくシーンではないかと思いました。
早く起きて仕事に行かねばならない的場さんと、折り鶴を散らかして眠る弟との対比が見えます。
すれ違う人の傘 ぶつかる度に 跳ねる 大都会の魚
続くシーンは家ではなくて東京で、アイドルとしての的場華鈴さんが雨の日に働いているところ。場所も服装も役割も違うけれど、慎重に歩かないといけないところだけが朝のシーンと重なります。
互い違いのボタンかけ間違えたまんまじゃあ
おいしい夢だけ食べて生きられないよ
それは時に厳しく 道を踏み外してしまう
愛を止めないで気付いてく 旅の途中
アイドルっておいしい夢の部分だけ見せる仕事みたいなところあると思うんです。
だけど「おいしい夢だけ食べて生きられないよ」と主人公は歌います。午前5時に、大都会に、そっと歩くような毎日は続けていけないってことです。
ふわふわの雲に乗り いたずらに穴を開けて
とびきりの変顔を待受けにしよう
的場さんと根本さんのとびきりの変顔が待受けだったらいいよな(妄想)。
並んだ2つの影どこまでも伸びていくよ
頑張る理由 それなりに考えたけど
影が伸びていくというのは、日が暮れていくということです。
日が暮れていくということは一日が終わっていくということだし、一日というのはライフイベントと重ねられるものです。
「素直で明るいだけで人には価値がある」と
誰でもいい もう少し早く教えてよ
わたしこれ、なんの根拠もないけど「素直で明るい」って、的場さんが現場の大人とかに言われることなのではないかと思っています。
「素直で明るいんだけど、芸能人としてはそれだけじゃ武器が足りないよねぇ……」
というようなことを偉い人から言われたりすることはありそうだな…と思っています。
風の中で的場さんが根本さんにそう言われたんだ、と言い、根本さんがこう返すのです。
「素直で明るいだけで人には価値がある」
と。
はぁぁ〜〜〜〜〜
歓びに頬を緩め 朝焼けに 足るを知る 私にしか歌えない歌があるんだ
暗闇に追い越され その瞳が曇る日も 星へ続く梯子を登れますように
1番のサビはあんなに暗い言葉が多かったのに、最後のサビはこんなに開放的な言葉が並びます。
1行目にある「私にしか歌えない歌があるんだ」が、この歌詞に唯一出てくる「私」です。
ずっと「君」を歌っていた主人公が、初めて自分に目を向けることになるのです。
あの時 聞き間違いでないのなら 風の中 「大丈夫」 そう聞こえたよ
あの時 聞き間違いでないのなら 風の中 「大丈夫」 そう聞こえたよ
この曲のかぎ括弧は、そうだとすると全部根本さんの言葉ということになります。
それが的場さんの耳に届いたときに、初めて二人は「大丈夫」への道を選んだんだろうなと思っています。
槇原敬之『聞き間違い』にまつわる妄想の話でした。
今回はYouTubeに公式動画がある槇原敬之バージョンを表題にしましたが、こちらもともとYUKIさんの曲です。
わたしはYUKIバージョン先に聴いててめちゃくちゃ大好きな曲でした。
証拠なんですが、おれの2020年のSpotifyのプレイリスト見る?
そんなわけなんですが、今回新しい経験に触れて、いままで知ってたはずの曲の知らない面を見てしまったなぁって思ったので、忘れないようにしたいなと思って書きました。
*1:視点の話と文法上の主語の話が混ざっているような気はしています……