5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

素直さのゆらめきの最後に - back number『クリスマスソング』

こんにちは。

今回はback number『クリスマスソング』の歌詞を考えます。
この曲、『クリスマスソング』っていうものすごい直球なタイトルのわりに、歌詞の中身がいまいち直球じゃないところが気になります。

どこかで鐘が鳴って
らしくない言葉が浮かんで
寒さが心地よくて
あれ なんで恋なんかしてんだろう
主人公は恋の世界にどっぷり浸かっちゃっているのではなくて「なんで恋なんかしてんだろう」って急に我に返っちゃったりしています。
この曲には、素直な気持ちの主人公と、斜に構える主人公が交互に出てきます。
今回はそのゆらぎを味わってみようと思います。

2色の塗り分け編

どこかで鐘が鳴って
らしくない言葉が浮かんで
寒さが心地よくて
あれ なんで恋なんかしてんだろう
1番のAメロはだいたい斜に構えた主人公が主役です。
「らしくない言葉」とか「恋なんか」とかっていう部分が、斜に構えた感じをよく表現しています。
でも、気持ちはとってもわかります。クリスマスってだけの理由で浮かれた気持ちでいるの恥ずかしいし「俺仏教徒だし!」とか言いたくなる気持ちわかる。めっちゃわかる。

聖夜だなんだと繰り返す歌と
わざとらしくきらめく街のせいかな
だから「聖夜だなんだ」「繰り返す」「わざとらしく」っていう表現を使って、主人公はクリスマスと正面から向き合ったりしません。クリスマスと正面から向き合わないということは、「君」と正面から向き合ったりしないということです。大事なことから逃げるように「街のせいかな」なんて歌っています。

会いたいと思う回数が
会えないと痛いこの胸が
君の事どう思うか教えようとしてる
でも、サビになると素直な気持ちの主人公が顔を出します。
「会いたいと思う回数」や「会えないと痛いこの胸」という表現は、少し他人行儀で、なんだか別のものにかこつけているみたいですけど、それでもちゃんと「君」に会いたい気持ちを歌にしています。Bメロの主人公が「向き合わない」主人公なら、サビの主人公は「向き合う」主人公です。

いいよ そんな事自分で分かってるよ
 
サンタとやらに頼んでも仕方ないよなぁ
唐突に出てくる「いいよ」は、なんだか投げやりな感じ。「サンタとやら」って言い方もどこかトゲがあって、この部分はどちらかと言うと斜に構える主人公がまた頭をもたげます。

できれば横にいて欲しくて
どこにも行って欲しくなくて
僕の事だけをずっと考えていて欲しい
再びサビのメロディに戻ると、歌詞の世界も素直な気持ちが優勢になります。
この連では「欲しい」って言葉がすべての行に登場します。サビの冒頭では「会いたい」っていう表現があることから、主人公の素直な気持ちは「want」という動詞にドライブされていることがなんとなく見えてきますね。

でもこんな事を伝えたら格好悪いし
 
長くなるだけだからまとめるよ
君が好きだ
このサビの締め方かっこいいわぁ〜〜。
この部分、前半と後半で、主人公の気持ちがちょっと違うんですよね。
「こんな事を伝えたら格好悪い」なんて表現には照れがあるし、「長くなるだけだからまとめる」って表現も、恋愛というよりなんか商談みたい。ビジネスって感じ。どちらも斜に構えた主人公が表に出てきています。
でも、サビの最後だけは違うんですよ!
「君が好きだ」なんて、これ以上ないぐらいに直球なメッセージじゃないですか!!

主人公は、クリスマスに際して、斜に構えたり素直になったりと紆余曲折を経て、結局素直な気持ちで「君」に告白することを選ぶんですよね。最高かよ。
塗り分けを全部やってみるとこういう感じ。青がだんだん減って、赤がだんだん増えるのがわかりますね。
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1文の長さ編

ところでですね。
この歌詞、言い切らないところがめっちゃ多いんですよ。

どこかで鐘が鳴って
らしくない言葉が浮かんで
寒さが心地よくて
あれ なんで恋なんかしてんだろう
1連目を引用しました。行の末尾を見てみると「鳴って」「浮かんで」「よくて」「だろう」となっています。前から3つはすべて連用形。最後だけは終止形です。
わたしの感覚だと、連用形で文が終わることはたまにはあるけど(女性向けのファッション誌とか料理の本とかのコピーによく出てくるよね)、基本的には文末には使いません。だからこの4行は、4行でひとつの文なのだと言えます。

聖夜だなんだと繰り返す歌と
わざとらしくきらめく街のせいかな
1行目の行末は「歌と」とあります。これも倒置法でなければふつう文末ではありません。この部分も、2行で1文です。

会いたいと思う回数が
会えないと痛いこの胸が
君の事どう思うか教えようとしてる
この3行も、まとめて1つの文です。

こうして考えると、この歌詞は1つの文が非常に長いことが見えてきます。
以前、歌詞の中での文の長さについては数えてみたことがあるので、それと比べてみます。

文の数 1文の平均字数
クリスマスソング 22 29.05
YUKI『うれしくって抱きあうよ』 54 13
ゆず『からっぽ』 12 26.25
きゃりーぱみゅぱみゅ『ファッションモンスター』 25 15.4
サカナクション『アルクアラウンド』 23 18.17
mihimaru GT『幸せになろう』 52 14.60

ご覧ください、この長さ!
グラフにするとこうなります。
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以前YUKIうれしくって抱きあうよ』の歌詞を考えたときに、YUKI曲の1文の短さについて語ったときの数字と比べてみました。
ゆず『からっぽ』は近い長さありますが、それでもback number『クリスマスソング』がいちばん長くなっていることがわかります。

どうしてこんなに1文が長いのかというと、ひとえにこの曲の主人公が歯切れ悪いからです。

できれば横にいて欲しくて
どこにも行って欲しくなくて
僕の事だけをずっと考えていて欲しい
やっぱりこんな事伝えたら格好悪いし
長くなるだけだからまとめるよ
君が好きだ
最後から2番目のサビを引用しました。
この部分は、さっきの塗り分けで言えば素直な気持ちの主人公が全面に出てきている部分です。
主人公は素直です。
でも、ここには拭い切れない緊張感とか、照れとか、そういうものが見えます。
その証左が、この長過ぎる1文です。
できれば横にいて欲しくて
どこにも行って欲しくなくて
僕の事だけをずっと考えていて欲しい
この部分とか、3文に分けることができるし、っていうかそっちのほうが文としては自然なのですよね。
でもこの3行がつながってしまっていることによって、わたしたちは主人公の朴訥な告白を感じることができます。それがいいところ。
そして最後。
聞こえるまで何度だって言うよ
君が好きだ
ここでさっと歯切れがよくなるところが、ほんとに心底かっこいいです。
「君が好きだ」って、助動詞の終止形「だ」があるのがポイント。
「だ」が入るのは一般に文末だけです。この「だ」があることによって、わたしたちははっきりした文末を感じることができます。
せっかくの告白、煮え切らないこと言われたくないじゃないですか。
いままで素直になってるときも、なんとなく早口で、かっこよくはなかった主人公が、最後の最後に「君が好きだ」ってずばっと言うのですよ! こんなのいいに決まってるじゃないですか! うるせえ! 最高かよ!!😡😡😡


というわけで、back number『クリスマスソング』でした。
話は飛びますが、わたし昔一度だけ、小学校で俳句を習ったことがあるんですよ。
そのときに、わたしはなんか一句詠んだんですね。内容は忘れちゃいましたが、なんとかっていう気持ちを風船に乗せて飛ばせたら…みたいなやつでした(風船は春の季語です)。
そしたら、先生をやってくれたおばちゃんに言われたんですよ。
「この『飛ばせたら』は『飛んでゆけ』ぐらいのほうがいいわよ!」
って。
それと同じだと思うんです。
あーあの人、トナカイのツノ生やしちゃって、よく人前でできるよな…いや別に、羨ましくなんかないけどとかってスタンスよりも、「君が好きだっ!!」ってずばっと言ってくれたほうが、気持ちがいいんですよね。
歌詞を読みながら、わたしは昔のことを思い出したのでした。
ちなみに、斜に構えるなら構えっぱなしの歌詞でも、それはそれでとてもいいと思います。
hacosato.hatenablog.com
この曲好きだし♪
https://itunes.apple.com/jp/album/kurisumasusongu/id1053481747?i=1053482200&uo=4&at=10lrtS次回は、2015年にわたしが歌詞を読むのにあたって足を運んだイベントとかまとめようと思っています。今年最後だしね!