FRUITS ZIPPER『ハピチョコ』の歌詞の話です!
この曲のサビはこういう感じ。
うんっとっ
あまいあまいあまいあまいの
すきすきすきすき
っていう私が選んだ君はとびきりのスイート
あまいあまいあまいあまい
一年で一番の贅沢でもしちゃいましょうよ
「私が選んだ君」って書いてある「私」ってだれ?「君」ってだれ?
って話を今日はします。
なぜかというと、この曲には「私」と「わたし」が出てきて、「君」と「あなた」が出てくるからです。
曲には「みんな」もいるから登場人物は少なくとも5人います。多すぎん?
それを整理できたらいいな〜〜と思ったので考えていました。お話ししましょう!!
「私」と「君」のストーリー
まず「私」と「君」について。
サビを引用します。
うんっとっ
あまいあまいあまいあまいの
すきすきすきすき
っていう私が選んだ君はとびきりのスイート
あまいあまいあまいあまい
一年で一番の贅沢でもしちゃいましょうよ
ここに「私」と「君」が出てきます。
ここでは「君」はチョコレートのことだと考えました。
主人公「私」はショコラトリーでチョコレートの一つを選んで、それを「君」と呼んだのです。
このチョコレートが自分用であることは明確です。続きを読むとわかります。
ちょっちょちょっと
ちょこっとは予算とカロリーとかはオーバーでもね
予算はともかくとして、他人にあげるチョコレートに対してカロリーがオーバーかどうかはふつう気にしないと思います。
これって自分用なんだ、って予感は確信になります。
ちょっちょちょっとチョコレート、
わたしの恋とかに
ごほうびをあげたい
「私の恋とかに/ごほうびをあげたい」って表現で、さっき選んだ「君」がそのごほうびの内容なのだと繋がります。
この曲は、自分のごほうびのためにチョコレートをあげる、そういうシーンが描かれた曲です。
もう今日だって!
だいたいは決めました
ご自宅用ですか?
ってなんでわかったの?
続く部分もその予感を補強してくれます。
ところで。
この曲にはそれとはぜんぜん別のストーリーもあります。
「わたし」と「あなた」のストーリーです。
「わたし」と「あなた」のストーリー
1番のBメロを確認します。
今日が本番なんてうそうそ
大事なのはここから一ヶ月でじれったいな
大人になったって、ドキドキしてたいもんだって
両思いの先払い
ここってさっきと違うシーンが描かれていそうに見えます。
バレンタインの曲なんだとすると「ここから一ヶ月」というのはホワイトデーのことを指していそう。
「両思い」みたいなフレーズも出てきていて、これは自分用のチョコレートの話というよりも、バレンタインにまつわるラブソングの様相があります。
2番のAメロ2回し目はこう。
そうでもやっぱ
みんなそわそわしちゃうの
そりゃそうだけどね、余裕見せたら
それも変かな
2月14日のそわそわが描かれています。
これもやはり前半に取り上げた「私」と「君」とのストーリーとは別の物語を感じます。
2番Bメロはこう。「なぁぜなぁぜ」の元になったと言われるフレーズの部分です。
ねえ呼び出しなんてなになに?
きょうのところは帰って楽しみたいのにな
でもあれわたしが、ほしかったかわいいやつじゃない?
気になる、これ片思い?
ここには「わたし」が出てきて、「片思い」という1番でも出てきたキーワードが登場します。
「わたし」は(「私」と違い)ラブソング側の登場人物です。
まって
あまいあまいあまいあまいの
すきすきすきすき
そんなわたしにあなたがくれたとびきりのサプライズ
やばいやばいやばいやばい
そんなこと想像もしてなかったの、眠れないね
「わたしにあなたがくれたとびきりのサプライズ」ってフレーズ、「私」と「君」のストーリーの中には同居できないと思います。
この日2月14日、「わたし」は「あなた」にサプライズされたみたいに読んじゃいますよね……。
一ヶ月も悩むなんて
そんなの無理じゃない?
私、毎日が本命全力
そういうのが好きでごめん
「一ヶ月も悩むなんて」って部分はどう考えたらいいでしょうか?
「わたしにあなたがくれたとびきりのサプライズ」って部分で、主人公は「あなた」に告白されたんだと思いました。
で、ホワイトデーまでに返事をしなきゃ、ってことの描写が「一ヶ月も悩むなんて」に出ているんだと思いました。
主人公は告白されて、返事をする側です。
「わたし」と「あなた」の関係は、好かれる側と好く側の関係です。
一般にひとりの人間でも多様な顔を持っています。
この曲の場合、主人公は「私」の顔と「わたし」の顔、二つの面が描かれています。
「私」は選んで“あげる”側の立場です。この曲の中では消費者として「君」というチョコレートを選びます。
一方で「わたし」は選んで“もらう”側の立場です。この曲の中では「あなた」に選ばれて告白されています。
こんな風に、バレンタインという1日の中に重なり合う二つの立場を描いたのがこの曲なのだと思いました!
FRUITS ZIPPER『ハピチョコ』でした。
去年、バレンタイン曲を通時的に182曲読み込んでいたことがありました。
そのときには2023年リリースの曲は対象外にしていたので、この曲は存在だけ知っていたんですけどちゃんと歌詞見てなかったんです…見ておけばよかった〜〜!
とはいえ、こんなにステキな曲に触れることができたのでハッピーです💝
ところでつい先日書いた虹のコンキスタドール『君のこと好きなのバレてます!?』も『ハピチョコ』と同じくヤマモトショウさんの作詞によるものです。
共通点がひとつあって、どちらも自分のことをメタ的に見る描写が出てくるんです。
『ハピチョコ』だとたとえばここ。
一ヶ月も悩むなんて
そんなの無理じゃない?
私、毎日が本命全力
そういうのが好きでごめん
「一ヶ月も悩むなんて/そんなの無理じゃない?」という部分が主人公の内面をそのまま描写した部分。
それに対して続けて「私、毎日が本命全力」と、もう少し一般化して言い換える、というメタ的な目線があります。
さらにもう一段「そういうのが好きでごめん」って歌い、言い換えを「そういうの」でさらに外側から見る視線があります。
虹のコンキスタドール『君のこと好きなのバレてます!?』だと、
やっば
君のこと好きなのバレてます!?
まった
ほんとはばれるようにわざとです!?
のあとに続く
やっば
そんなわけないことバレてます!?
嘘つけないから言うね、好き
の「そんな」がメタ的描写の指標になるし、そのあとさらに、
ここまできたらさ、
と歌い、幾重にも重なったメタ表現の内側に本音を隠しています。
カッコつけたりしたあとにメタ的な視線をあえて組み込んで照れ隠しをしたり歌詞を一段広く描写するやり口、最近よく見るように思っています。
アイドル以外にもそういうのがあって、たとえばAdo『唱』では、
もう伽藍洞は疾っくの疾う淘汰
Aye 繚乱桜花 御出座しだ
のあとに
格好つけてるつもりは NO NO
って歌詞が続きます。
メタ的な描写を定量的に示すのは難しいかもしれないけど、最近気になっていることでした!