杏沙子『アップルティー』の歌詞の話をさせてくれ!🍎
最初の部分はこういう感じ。
きんこんかんこん いつもより明るい鐘
ほらね たぶん スカートもちょっと短い
冒頭なんですけどこれもうすでに良くないですか?
「きんこんかんこん」「スカート」とかで、たぶんこの曲は学校を舞台にしている、っていうのがこの時点でわかるからです。
学校が舞台のラブソング。すき要素しかねぇ…(個人の好みです)。
こんな風な感じで、この曲はモチーフを持ち出した説明がとっても上手なのです。
それはタイトルの「アップルティー」もそう。
きょうはそういう話をさせてください!
登場人物の性格を描写するとき、性格自体を言葉にして書くんじゃなくて、その行動とか感情の判断とかによって浮き上がらせるようにするといいよ、というのは、作詞とか小説とかの講座でよく聞くやり方です。
「妹みたいな君」と書くよりも*1、妹らしい行動を描くほうが具体的です。
それに、そういう描写によってリスナーに
「妹かよ!」
って言わせるほうが相互作用が生まれて、曲に愛着を持ってもらえると思うんですよね(突然の作詞講師ムーブ)。
そういう観点でいくと、この部分は出色です。
窓から思い切り体伸ばし
ほらね 見えた あなたは隣のクラス
窓から体を伸ばすとかやめなよ、あぶないし。
だけど主人公はそういうことをしちゃうひとです。
この描写によって、歌詞でわざわざ「恋に前のめりな私」とかダサいこと言わなくても、ちゃんと主人公がこの恋愛について前向きだってことが伝わるんですよ!
Aメロよすぎるんですけど。なんなんだ…。
でも、よいのはAメロだけではないのです。
誰も知らない寡黙なあなた
アップルティーが好きなこと
今日もノート閉じて夢見てる
あなたのことを
この「アップルティー」の入り方天才じゃない…??
この曲のタイトル「アップルティー」は「あなた」の好きなものだということがこうして明らかになり、ここからふたりの恋愛はこの「アップルティー」になぞらえられていきます。
それがBメロにある、ってところが、この曲のよさみの一端だと思うんですよ。
だってそういうモチーフが、Aメロにあったらちょっと唐突だし…。
よくある例として、サビにそういうモチーフが入ってくるパターンはあります。
HKT48『メロンジュース』とか、 www.uta-net.com
藤原さくら『Soup』とか、 www.uta-net.com
がその感じ。これだとモチーフ(『メロンジュース』なら「メロンジュース」)の特徴を一点突破で貫いていく感じのつくりになりがちです。
でもこの曲ではちがっていて、タイトルの「アップルティー」がBメロにあるんですよね。
そうすることによって、
という、アップルティーのふたつの面が、歌詞の構成に収まらないかたちで自由に描かれていくって感じが出てると思うんですよわたしは!!
そしてこの歌詞には、そういうのが似合うと思いませんか!! ねぇ!!
興奮しすぎた。
あともうひとつ言うと、この「アップルティー」を歌うところでコードがノンダイアトニックになるとこも、おっ??という感じが出ていてとても好きです🍎
さてサビです。
きっとあなたに抱きしめられたら
溶けてゆくの 角砂糖みたいに
あまいあまいあまいアップルティーの中
さっき出てきたアップルティーが、さっそくふたりの恋愛の描写の一端として使われるわけ。
アップルティーってあまいけど、500ミリとかの紙パックのアップルティーは確かに男子高校生よく飲んでるイメージあるし、あまい高校生の恋愛のモチーフに確かにぴったりなんだよな…。
あなたがもしキスをしたら…
考えるだけで壊れそう!
あなたのせいで今までで1番暑い夏
「キスをしたら」というのもめっちゃよくて、これアップルティーをストローで飲んでる彼を見ながら言ってるんですよね、主人公ちゃん。
表面的には出てこないけど、ここもふたりの恋愛がアップルティーになぞらえられてる部分なのだと思います。
最高の1番でした。よいものを見せていただいた……。
さて。
ところで、わたしこの歌詞のずっと見てて、2番については思っていたことがあるんです。
2番を引用するとこういう感じです。
きんこんかんこん あたしの背中押す鐘
ほらね ぎゅっと ポニーテール結んで
みんなのひやかしをくぐり抜けて
ほらね 今日は ふたりきりの帰り道
あれ、アップルティーは?
誰も知らない照れてるあなた
ふたり乗りの下り坂
広い背中 ずっと夢見てた
あなたが好きよ
Bメロにも出てこない……。
そうなのです。
主人公は「あなた」との距離を詰め、冷やかされながらもふたりの時間を手にし、「あなたが好きよ」なんてフレーズまで刻み込んできました。
しかし、そこにはアップルティーの姿はありません。
なんでよ? 同担拒否だからか??
このあとサビではおざなりな感じで(なぜなら描かれ方が1番と同じだから)アップルティーのことが出てきていますが、そんな程度で、もうこの曲の中にアップルティーの居場所はないように思われました。
1番であんなに見事に恋とアップルティーの両立を果たしていた主人公だったけど、ほんとはさいしょからアップルティーのことなんか興味なかったのね!!
と(なぜかアップルティー側に肩入れして)やさぐれていたわたしです。
ところが。
この曲の最後を引用します。
りんご色に染まるふたり
溶けてゆくの 真夏の空にあなたのせいで今までで1番甘い夏
あなたのせいで今までで1番暑い夏
「りんご色に染まるふたり」。主人公は、アップルティーのことも忘れてなかったのです。
そういえばここまで「あなた」が選ぶ飲み物の特徴として、「角砂糖」という要素しか使われてませんでした。
それだったらカフェオレでもレモンティーでもいいじゃん、ってなるわな……。
ところがここ! 「りんご色に染まるふたり」!!
これによってアップルティーの要素は余すところなくこの歌詞に取り入れられ「あたし」と「あなた」は角砂糖のようにふたりの世界へ溶けていったのでした。
というわけで、杏沙子『アップルティー』でした。
歌詞と歌の組み合わされ方もとてもよくて、この曲すっごく好きです。
冒頭の「きんこんかんこん」はちゃんとチャイムの音階の上下関係に合ってるし。
「あまい夏」のところは「あんまいなつ」、って感じでmの閉鎖を多めにとって甘ったるさが強調されているのもいい感じ。
あとさ、わたし音づくりのこととかよくわかんないんだけどさ、
この! 3分42秒のところで響いてるシロフォンみたいな音について言わせてくれる??
これ、恋に落ちるときに鳴る音じゃん!!!
ってなったのでぜひ聴いてほしい…できれば10秒ぐらいさかのぼってから…。
*1:ただの例示として出したつもりだったのに「妹みたいな君」で歌詞サイトを検索したら、自分がパッと思い浮かんでいた1曲だけしかヒットしなくてめっちゃ笑った