ヨルシカ『だから僕は音楽を辞めた』の歌詞の話。
歌詞の冒頭はこう。
考えたってわからないし
青空の下、君を待った
風が吹いた正午、昼下がりを抜け出す想像
ねぇ、これからどうなるんだろうね
進め方教わらないんだよ
君の目を見た 何も言えず僕は歩いた
この部分の後半、譜割りをリズムだけ起こすとこういう風になるはずです。
今の時点では、これだけ見てもとくになにも感じないと思います。
ところが呼応するメロディの続く部分を見てからここに立ち返ると、あることに気づくと思います。
結論を先取りすると、それは「君」の不在です。
不在の歌い方
歌詞の冒頭をもう一度引用します。
考えたってわからないし
青空の下、君を待った
風が吹いた正午、昼下がりを抜け出す想像
ねぇ、これからどうなるんだろうね
進め方教わらないんだよ
君の目を見た 何も言えず僕は歩いた
この部分の文末はほとんど「た」の形で終わっています。
この連、基本的に過去のことを歌っているように見えるんですよね。
過去、主人公は「君」と共にいます。
しかし。このあとにはそのあとかなり長いこと「君」は出てきません。
「君と別れた」「君はいなくなった」みたいな表現をせずとも、単に「君」を描かないという手法によって、「君」の不在をこの歌詞は表しています。
でも、それだけでは不在が引き立ちません。
リスナーに対してそこへ意識を向けさせるために、この曲には別のギミックがあります。
それが歌詞に穴を空ける方法です。
続く部分を引用します。基本的なメロディはさっきと同じです。
考えたってわからないし
青春なんてつまらないし
辞めた筈のピアノ、机を弾く癖が抜けない
ねぇ、将来何してるだろうね
音楽はしてないといいね
困らないでよ
さっきは6行。今回も6行。字数はだいたい同じように見えます。
でもここには空白があります。
譜割りを起こしてみると、こうなります。
真ん中の4小節がすっぽり抜け落ちています。
この抜け落ちは目立ちます。
全体的にこの曲は16分のリズムで言葉をつぶやくように畳み掛けているのに、4小節まるごと、主人公は黙るのです。
この沈黙には、圧倒的な不在の匂いがします。
しかもこの部分、元々最初の連では「君の目を見た」という部分だったのです。
ここでやはりはっきりします。抜け落ちたのは「君」だったのです。
しかも歌詞の内容もそれに呼応します。
ここは「音楽はしてないといいね」という投げかけに対して、言いよどむシーンなんですよね。
答えに窮している、という状態を、実際に答えに窮することを再現して音楽の上に表しているのです。
昔の思い出のほうに視点を戻してみます。
歌詞の冒頭の方では、「これからどうなるんだろうね」という投げかけでした。なんだか「音楽はしてないといいね」と似ています。
でもここでは主人公は言いよどむことはありませんでした。
その代わりに歌われた内容はこうです。
君の目を見た
そう、主人公は昔は、言いよどむような投げかけがあっても、「君」に水を向けることでずっと乗り切ってきたのです。
しかしその後に視線を戻すと、主人公が水を向けることのできる「君」はもういません。
だから主人公は、ここで黙ってしまうしかなくなってしまうのです。
というわけで、ヨルシカ『だから僕は音楽を辞めた』でした。
この曲では言いたいことたくさんあるんですが、今回は「君」の不在と歌に空けられた穴にフォーカスしてみました。
じつはほかにも見どころがほんとうにたくさんあるんですよね…。
たとえば、この曲ではまだ、同じメロディが登場します。
将来何してるだろうって
大人になったらわかったよ
何もしてないさ
ここにもやはり空白があって、その空白は「何もしてないさ」という歌詞と呼応するんですよね。
こんな風に、たくさんの穴ぼこが歌詞の内容とリンクしている、という視点だけでもこの曲あと3倍ぐらい味わえる……さいこうかな……。
機会があったらまた続き考えたいな〜。
hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com
ヨルシカは過去にもいくつか歌詞を見てきました。どれも大好きだけど、今回の曲がとりわけ情報量があるように思えますね。
ほかにも気になる曲がたくさんあって、いつも注目しています✨
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