5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

見上げる見下ろす - ヨルシカ『ただ君に晴れ』

ヨルシカがまた「君」の不在を歌ってる…。

ヨルシカ『ただ君に晴れ』歌詞(YouTubeへリンク)

見上げる見下ろす

最初の連をご覧ください。

夜に浮かんでいた
海月のような月が爆ぜた

主人公は水面に浮かんだ月の光を見つめています。

それが海月のようにゆれて、大きな波によって形が崩れていきます。

バス停の背を覗けば
あの夏の君が頭にいる

だけ

「君が頭にいる/だけ」ということは、主人公の前にほんとうの「君」はいません。

「頭にいる」のは現在で、「あの夏の君」がいるのは過去です。

この曲には現在過去の対比があります。

続く連を見てみます。

鳥居 乾いた雲 夏の匂いが頬を撫でる
大人になるまでほら、背伸びしたままで

ここは回想シーン。過去のシーンです。

「鳥居」と「乾いた雲」には共通点があります。

両方とも「見上げるもの」ということです。

遊び疲れたらバス停裏で空でも見よう
じきに夏が暮れても
きっときっと覚えてるから

ここも過去のシーン。

そして「空でも見よう」というフレーズが出てきます。見上げてる…!

追いつけないまま大人になって
君のポケットに夜が咲く
口に出せないなら僕は一人だ
それでいいからもう諦めてる

だけ

次は現在のシーン。

ここでは「君のポケット」というモチーフが出てきます。

ポケットは見下ろすものです。

夏日 乾いた雲 山桜桃梅 錆びた標識
記憶の中はいつも夏の匂いがする

続く連は「記憶の中」の話だから過去のこと。

ここに出てくるモチーフは「乾いた雲」「山桜桃梅」「錆びた標識」。

すべて見上げるものです。

まとめ!

この歌詞には、現在と過去とでモチーフの場所に塗り分けがあります。

時間 現在 過去
「君」 いない いる
視線 見下ろす 見上げる
モチーフ 海月のような月、ポケット 鳥居、乾いた雲、空、山桜桃梅、錆びた標識

こんな感じ。すごくきれい。

そして、過去のほうには「君」がいます。

不在のひとがいる方角ってだいたい上の方じゃないですか。

hacosato.hatenablog.com

そういう点でもすごくしっくりです。

偶像崇拝

写真なんて紙切れだ
思い出なんてただの塵だ
それがわからないから、口を噤んだまま

主人公は「写真」や「思い出」について、「紙切れだ」「ただの塵だ」と辛辣です。

なぜなら「写真」や「思い出」は過去のよすがであって、過去そのものではないからです。

口に出せないなら僕は一人だ

口に出せないまま坂を上った

だから主人公は「口に出せない」と繰り返します。

口にすればするほど、現在と過去は隔たっていくから。

主人公は「君」といた過去を大切に思っています。

言葉とか、写真とか、思い出とかは、過去そのものではありません。

だからそういうまがいものから、遠ざかるように、現在の主人公は行動します。

それはわかる、それはわかるんです。

でも、そうだとすると、この歌詞の最後はちょっとちがう感じです。

口に出せなくても僕ら一つだ
それでいいだろ、もう

君の想い出を噛み締めてるだけ

あれっ、あんなに回避してた想い出、噛み締めてるじゃん…。

これをどう捉えたらいいか、この歌詞の中でははっきりわかりません。

でも乱暴にまとめるなら、この曲の最後で「君」は「想い出」の中に収まった、ということだと思うんです。

きれいにいえば「諦めてる」ところを抜けたのだといえるし、悪擦れていえば「大人になった」のだとわたしは思いました。


というわけで、ヨルシカ『ただ君に晴れ』でした。

ヨルシカ、前にも読んだことがあるんです。

hacosato.hatenablog.com

このときにも「君」の不在が歌詞の中心になってるわけで、ヨルシカの通底したテーマを感じます。

hacosato.hatenablog.com

それかわたしがそういう歌詞が好きすぎるだけか、どっちかだな。

今日のうた - 歌ネット

歌ネットの「今日のうたコラム」にもヨルシカ『ヒッチコック』が出てきたことがあってビビった♪

次回はちょっと毛色の違うやつをやります!