5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

「大丈夫だよ」って言うのはどんなとき? - たむらぱん『しんぱい』

こんにちは。

きょうはたむらぱん『しんぱい』という曲の歌詞の話。

この曲、タイトルからして心配ごとがあるんだろうな、という印象を聴き手に与えると思います。

なのに冒頭はこういう歌詞です。

大丈夫だよ心配しないでね 体だけは大きくなったけど ありがとうの言葉

「大丈夫だよ心配しないでね」って歌詞で、タイトル『しんぱい』なの!?ってなるじゃないですか。

それについて考えました。

たむらぱん『しんぱい』歌詞

「しんぱい」ってどんな気持ち?

ものごとには本来的に、対になる相方が存在する場合があると思います(おそらくどこかの学問領域で、でがっつり研究している人がいるんだろうけどよく知らない)。

たとえばこの歌詞の中でいうと、「大丈夫」がそれです。

「大丈夫」って言葉が出るのは、大丈夫の前に『しんぱい』があるからです。ほんとうに大丈夫なときには大丈夫という言葉は出ないんだよな。

「大丈夫」は本当に明るくて力強くて安心できる言葉だけれど、たとえば辞書を引くとこう書いてあります。

不安や心配がないようす。問題が起こりそうでないようす。*1

「大丈夫」ってことばについて解説するために、その逆の「不安や心配」について言及せざるを得ないんですよね。

だから急に「大丈夫」って言われたら、なにか大丈夫じゃないことがあったんだっけ?って気持ちになると思います。

この歌詞の冒頭には、よく考えるとそういう違和感があるのです。

続きの部分はこういう感じ。

記念日になるくらい大切な日は 今までもたくさんあったけど
今日が人生最高の日になって行く様な気がした
  
愛情なんて そう 感じたことは 今までもたくさんあったけど
今日はなんだかいつもより特別な愛情な気がした

やっぱり明るくて輝かしい歌詞ではあるんだけど、「大丈夫」のことを考えるとよく見ると同じような翳りを少しだけ感じます。難癖みたいになるから明記しないけど。

続くBメロはこういう感じ。

広い空を見上げて 揺れる光 胸を染めて
たくさんの笑顔に見送られて 今幸せ感じながら

ここはよほど意地悪に読まなければ大丈夫でしょう〜Bメロは明るくてよかった!

そしてサビ。

大丈夫かな心配してるかな 体だけは大きくなったけど

「大丈夫」についての言及の仕方が冒頭から変わっています。

冒頭では「大丈夫だよ心配しないでね」だったのに、1番サビでは「大丈夫かな心配してるかな」に変わっています。

心配の心配をしているんだよな。

ありがとうの言葉だけ 伝えなくちゃ早く今出来るうち
やらなきゃ出来なくなる前に ただ心からありがとうの言葉だけ
本当に早くしなくちゃ 伝えられなくなる前に

感謝の気持ちを伝えなくちゃ!という歌詞はいろいろあるような気がしますが、『しんぱい』ではその切迫感が段違いのように思えます。

「出来なくなる前に」「伝えられなくなる前に」という畳み掛け重すぎん?

でもそんなふうにして1番が終わります。

わたしがこういう感じで歌詞の暗がりに注目するとき、次はだいたいその暗がりの中に足を踏み入れようとします。

だけどこの歌詞、その暗がりの先に道標はとくに見当たりません。

ただ暗がりに大きく『しんぱい』と名前がついているだけ。

これ、人生みたいだな、って思うんです。

生きてると人生の中の名シーンみたいな日ってあって、学校に入学するとか卒業するとか、恋人ができるとか別れるとか、あと3次元をやめてVTuberになるとかいろいろあると思うんです。

それぞれのシーンは明るく輝かしいものだったり、重苦しくて振り返りたくもないものだったりするんですけど、どれもほんとうは1色に塗れないものです。

栄光の1シーンの裏では、まだ見ぬ次のコマへの不安があるし、暗黒の1シーンの裏では、それでもお腹が空いちゃう気持ちが勝るかもしれないのです。

今回の曲は、輝かしいシーンを裏打ちする『しんぱい』が、タイトルに出てきて、わたしたちはそれを知ってから曲を聴いています。

でも『しんぱい』は歌詞の中では脇役です。歌詞の中ではそれを跳ねのけるようなきらきらがあるから。

そのきらきらを味わいながら、でもその裏で『しんぱい』をずっと感じているあたりが、人生みたいだな、って思う所以です。

思えばたむらぱんの歌詞って、明るいんだけど翳りがあって、でもその翳りが明るさを下支えしている、みたいなのがたくさんあるような印象をわたしは持っています。

その下支えの感じはさまざまだけれど、この曲の支え方はめずらしくておもしろくて好きだな、と思ったので、今回文章にしました!

とはいえ、

今日までの扉くぐり抜け さぁ行こう 新しい扉の向こう側へ
じゃあねと手を振るその笑顔に心からありがとう

その向こうも輝かしいようで、ほんとうによかった!


以上、たむらぱん『しんぱい』でした。

たむらぱんの歌詞はいままでにもたくさん考えてきました。

hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com

どれもだいすき!

最近たむらぱんさんはシンガーソングライターの活動はあまりしていない感じだけど、楽曲提供は続けてくれています。ありがたい〜✨

この曲はとくに『しんぱい』と同じにおいがあってうれしいな🚆

それぞれだいすきな曲です!

*1:三省堂国語辞典 第八版』