SUPER BEAVER『人として』の歌詞の話です。
この曲の冒頭、こういう感じです。
人は騙す 人は隠す 人はそれでも それでも笑える
人は逃げる 人は責める 人はそれでも それでも笑える
「人は騙す」って、テーマ、すげぇでかくないですか?
でかいテーマの話をしようとすると、一般には足がかりのない、心に刺さらないような歌詞になりがちだと思います。
だけどこの曲はそんなことなくて、というかその逆なんですよね。
それは、主人公の“0m”を描いているから。
きょうはそういう話をします!
内面に向かって
人は騙す 人は隠す 人はそれでも それでも笑える
人は逃げる 人は責める 人はそれでも それでも笑える
歌詞の冒頭は「人は」から始まります。
なのでここの部分は、わたしとかあなたとか、そういう世界とは別の、極度に一般化された世界の話をしています。
ところが続く連はこういう描写。
あなたに嘘をついて 後悔をした
僕も騙されているかも しれないけど
疑って 暴くよりも 嘘ついた人が気付いて
傷付いて 解るほうが いいと思うんだ
「あなた」という人物が出てきます。
また1行目の「後悔をした」は「僕」であるように読めます。
1連目の圧倒的に一般化された世界から、「あなた」と「僕」の身近な世界へと、シーンは移動します。
これは、どちらかがよい描写だとか、どちらかがあるべき描写だとか、そういう話ではありません。
ただ、単にはっきりとシーンが移動している、ということが、わたしたちの元に伝わってきます。
そして、続くサビはこういう感じ。
そうなんだよ
信じ続けるしかないじゃないか
愛し続けるしかないじゃないか
身に覚えのある失敗を どうして指差せる?
身近な世界の話から、内面の決意へと話題は変わっていきます。
この曲では、一般的な話題→身近な人間関係の話題→内面の決意の話題、というように、曲が進むにつれてだんだん歌詞が中へ中へとこもっていっている、という特徴があります。
一般的に、サビでは歌詞の描写って広がりがあるほうが多いと思います。
そこが一番人の目に触れるからキャッチーなほうがいいし、メロディにサビらしい起伏がつくならそれに釣り合う歌詞の方がきっとバランスがいいからです。
ところがこの歌詞ではそうではありません。
だけど、サビが鬱屈して見えるかというとそんなことはないんですよね。
それは内面の決意が大きくて広がりがあるからです。
サビの最後はこういう感じ。
人として 人として かっこよく生きていたいじゃないか
というように、Aメロと同じ「人」というものを文頭に立てられるような、一般的な広がりがあるからです。
主人公の“0m”
前に、歌詞の半径の話を引き合いに出したことがありました。
Bメロ→半径0m:内面の話
サビ→半径100m:自分から離れた世の中一般の話
こんな風に歌詞の中で、身近なところから内面の描写に移動し、そして一般的な話題に広がったところでサビになる、というのはひとつの型になっていると思います。
該当する曲もたくさんあります。
たとえば、back number『高嶺の花子さん』とか。
たむらぱん『ちゃりんこ』は少しバージョン違いで0m→5m→100mの例。
どちらにしても、サビのところで大きく100mを持ってくるところは共通しています。
ということは? サビでは100mの描写が来がちってこと?
かというとそういうわけでもありません。
サビで100mの描写がないことはたくさんあります。
はぁ?うっせぇうっせぇうっせぇわ
あなたが思うより健康です
一切合切凡庸な
あなたじゃ分からないかもね
Ado『うっせぇわ』は5mのサビです。
グッバイ
君の運命のヒトは僕じゃない
Official髭男dism『Pretender』は0mのサビです。
こんな風に、サビが100mでない例はたくさんあります。
でもこの2曲は両方とも、そもそも歌詞の中に100mがほとんどないんですよね。
その点で、今回のSUPER BEAVER『人として』は独特です。
100mの描写(つまり文脈から離れた一般的な描写)があって、かつそれがサビでないところに出てくる、という点に、この曲の大きな特徴を感じます。
そんなことをしたら釣り合わなくなりそうなところ、スケール感のある0m描写をすることによって、ちゃんとかっこいい曲になっているから、そこがいいなと思いました。
ということで、SUPER BEAVER『人として』でした。
きれいにまとまった(つもり)なので1番までの引用で止めていたんですけど、続きの部分ちょっとだけ触れさせてください〜。
2番の冒頭、こういう感じなのです。
僕は迷う 僕は悩む
だけど逃げたくないし 自分を棚に上げたくはないし
1番は「人は騙す 人は隠す」だったのに、2番は「僕は迷う 僕は悩む」になるんですよ〜。
1番は100mだったのに、2番は5mになるのです! マジで!?!?
2番になった瞬間に、わたしは急にボーカルの渋谷さんと親しくなったような気持ちになったのでした。
それは、世間一般の話をしているのかと思ったら実は「僕」の話だったから。
そういう点でも、この曲は歌詞の半径についてとてもすごくいいなぁ〜って気持ちになるのでした。
THE FIRST TAKEのもいいよね〜。
きょうも楽しかったです!