ヨルシカがまた「君」の不在を歌ってる…。
見上げる見下ろす
最初の連をご覧ください。
夜に浮かんでいた
海月のような月が爆ぜた
主人公は水面に浮かんだ月の光を見つめています。
それが海月のようにゆれて、大きな波によって形が崩れていきます。
バス停の背を覗けば
あの夏の君が頭にいるだけ
「君が頭にいる/だけ」ということは、主人公の前にほんとうの「君」はいません。
「頭にいる」のは現在で、「あの夏の君」がいるのは過去です。
この曲には現在と過去の対比があります。
続く連を見てみます。
鳥居 乾いた雲 夏の匂いが頬を撫でる
大人になるまでほら、背伸びしたままで
ここは回想シーン。過去のシーンです。
「鳥居」と「乾いた雲」には共通点があります。
両方とも「見上げるもの」ということです。
遊び疲れたらバス停裏で空でも見よう
じきに夏が暮れても
きっときっと覚えてるから
ここも過去のシーン。
そして「空でも見よう」というフレーズが出てきます。見上げてる…!
追いつけないまま大人になって
君のポケットに夜が咲く
口に出せないなら僕は一人だ
それでいいからもう諦めてるだけ
次は現在のシーン。
ここでは「君のポケット」というモチーフが出てきます。
ポケットは見下ろすものです。
夏日 乾いた雲 山桜桃梅 錆びた標識
記憶の中はいつも夏の匂いがする
続く連は「記憶の中」の話だから過去のこと。
ここに出てくるモチーフは「乾いた雲」「山桜桃梅」「錆びた標識」。
すべて見上げるものです。
まとめ!
この歌詞には、現在と過去とでモチーフの場所に塗り分けがあります。
時間 | 現在 | 過去 |
---|---|---|
「君」 | いない | いる |
視線 | 見下ろす | 見上げる |
モチーフ | 海月のような月、ポケット | 鳥居、乾いた雲、空、山桜桃梅、錆びた標識 |
こんな感じ。すごくきれい。
そして、過去のほうには「君」がいます。
不在のひとがいる方角ってだいたい上の方じゃないですか。
そういう点でもすごくしっくりです。
偶像崇拝
写真なんて紙切れだ
思い出なんてただの塵だ
それがわからないから、口を噤んだまま
主人公は「写真」や「思い出」について、「紙切れだ」「ただの塵だ」と辛辣です。
なぜなら「写真」や「思い出」は過去のよすがであって、過去そのものではないからです。
口に出せないなら僕は一人だ
口に出せないまま坂を上った
だから主人公は「口に出せない」と繰り返します。
口にすればするほど、現在と過去は隔たっていくから。
主人公は「君」といた過去を大切に思っています。
言葉とか、写真とか、思い出とかは、過去そのものではありません。
だからそういうまがいものから、遠ざかるように、現在の主人公は行動します。
それはわかる、それはわかるんです。
でも、そうだとすると、この歌詞の最後はちょっとちがう感じです。
口に出せなくても僕ら一つだ
それでいいだろ、もう君の想い出を噛み締めてるだけ
あれっ、あんなに回避してた想い出、噛み締めてるじゃん…。
これをどう捉えたらいいか、この歌詞の中でははっきりわかりません。
でも乱暴にまとめるなら、この曲の最後で「君」は「想い出」の中に収まった、ということだと思うんです。
きれいにいえば「諦めてる」ところを抜けたのだといえるし、悪擦れていえば「大人になった」のだとわたしは思いました。
というわけで、ヨルシカ『ただ君に晴れ』でした。
ヨルシカ、前にも読んだことがあるんです。
このときにも「君」の不在が歌詞の中心になってるわけで、ヨルシカの通底したテーマを感じます。
それかわたしがそういう歌詞が好きすぎるだけか、どっちかだな。
歌ネットの「今日のうたコラム」にもヨルシカ『ヒッチコック』が出てきたことがあってビビった♪
次回はちょっと毛色の違うやつをやります!