5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

言葉にできないことを言葉にする - HoneyWorks feat. Hanon×Kotoha『恋文』

HoneyWorks feat. Hanon×Kotoha『恋文』の歌詞の話。

歌詞の冒頭はこういう感じ。

私はナシですか?
どうすればアリになれますか?
嘘だっていいから
あの二文字だけ だけ

「あの二文字」ってなに?

それはこの歌詞の冒頭では出てきません(「だけ」のことではない)。

言わないことによって、言うことよりもつよい印象が残る、っていうのが今日の話。

HoneyWorks feat. Hanon×Kotoha『恋文』歌詞

言葉にできないことを言葉にする

カンタンに口にできたらいいのに、口になんかできないこと、世の中たくさんあるじゃないですか……。

そんなときでも、歌詞はいろんな方法で、それを表現しようとしてくれます。

たとえばわたしたちのコミュニケーションのだいじな場のひとつがLINEです。

駆け引きは苦手だし
スタンプにすぐ逃げちゃう
ねぇ既読が付いてから
画面ばかり気にしてる

LINEには、言葉にしないことを伝えるための手段がいっぱいあります。

スタンプをつけることとか、既読だけをつけることとか。

そうすることによって伝わるメッセージは、
あなたのメッセージはちゃんと読んだよ
かもしれないし、
いちおう形式上返事はしたけど、これ以上LINE送らなくていいよ
かもしれません。

言葉でそれを表現するよりも、スタンプのほうが角が立たなかったりするし、既読スルーであとは察してよって意味を暗に伝えたりすることができます。

ほかの方法もあります。

長い髪好きだって聞いたから
似合わないかもだけど伸ばした

たとえば、行動や見た目で、それを伝えることもできます。

じぶんは長い髪が似合わないかもと思っていても、わざと髪を伸ばしてみせたりするのは、メッセージだもんね。

「何怒ってんの?気に障ることしましたっけ?」
「ヒント:なんか今日は違う気がしませんか?」
「わかった!気にしないでいいよ太ったこと」
「殴るよ?15cm切った髪に気づけ」

hacosato.hatenablog.com HoneyWorks『東京サマーセッション』でも、髪を切ったことに気づいてほしい、というエピソードが出てきていましたね。

話は戻りますが、こんなふうに『恋文』は、言葉にできないことを、言葉ではない方法でなんとか伝えようとする、その引き出しがたくさん出てくる曲です。

この曲の前半には、「言葉によって言葉を描く」という部分ももちろんあります。

「言葉によって言葉を描く」というのは、うれしさを表すときに「うれしかった」とかいうタイプのやつです。

君の好きな 私になりたいよ
今はきっと友達でしょ?
欲しがりになってる
彼女でもないくせに

1番のサビはまさに「言葉によって言葉を描く」タイプの部分。

でも主人公は「君」に対しては言葉にできない想いを持っています。

だから「言葉によって言葉を描く」のは、相手への投げかけではなくて、自分自身の気持ちだけになります。

私はナシですか?
どうすればアリになれますか?
嘘だっていいから
あの二文字だけ… だけ

その結果、おんなじことばばかりをぐるぐるしてしまう…わかるよ…そうだよね…。

この曲は、そのぐるぐるを抜け出すところまでの描写があります。

基本的にはハニワは物語に推進力があって、曲の最初と最後で状況が異なることが多いんですよね。

この曲もそう。

最後の方のサビを引用します。

君からのメッセージ
ぎこちない敬語交じりで
初めて呼び出され
文字じゃない言葉で

主人公は「君」に呼び出されます。

いままでのやりとりはおそらくLINE上だけで、そこには「文字」しか介在しませんでした。

ここから「文字じゃない言葉」が登場します。声です。

「好きです、大好きです」
溢れ出した大粒涙
私だって伝えたい
『彼女にしてください』

なんかわかんないけど、よくわかるんです。

文字じゃ言えないこと、声でだったら言えたりしますよね。あれなんなんだろ。

こうして直接会ってコミュニケーション取ることによって、ふたりの関係は一変します。

いままで文字で言えなかったことが、お互い言えるようになるのです。

これからは毎日
文字でも言葉でもちょうだい
嘘なんて嫌だよ

いままでは「嘘だっていいから」と歌っていた部分が「嘘なんて嫌だよ」に変わります。すごい変化。

そしてこの曲のいいところは何と言っても最後のこれ。

いままではこうでした。

あの二文字だけ… だけ

それが最後ではこうです。

この二文字だけ… 好き

「二文字」って「好き」のことだったんですよね。

そんなのわざわざ確認しなくてもこの歌詞の雰囲気からわかるんだけどさ、いままで文字にできなかった気持ちにかたちがつくとかマジでとうといにもほどがある…ちゃんとわきまえてほしいよ……(早口)


ということで、HoneyWorks feat. Hanon×Kotoha『恋文』でした。

hacosato.hatenablog.com

ある種の“ない”こと、から抜け出る感じは米津玄師『ドーナツホール』にもちょっと似てるかも。

言えなさは歌詞の中でとても重要なテーマという感じがします。

ヨルシカ『だから僕は音楽を辞めた』にも同じテーマありますよね。機会があったら書こう。

恋文 (feat. Hanon & Kotoha)

恋文 (feat. Hanon & Kotoha)