5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

にしな『ヘビースモーク』 - サビで「拘束する」って急に難しい言葉出てくるじゃん、って感想

きのうVIVA LA ROCKに行ってきました!

フェスって、いままであんまり知らないアーティストにも出会えるところがいいところ。今回もそういうことがありました!

最初は見るつもりがなかったにしなのアクト。

たまたまやってるときに近くにいたので聞くともなく聞いていたんですけど、そのときわ!こういう歌詞なのか!って気づいたので記しておきます。

にしな『ヘビースモーク』歌詞

歌詞見てみて気づいたんですけどこの曲「タバコ」って言葉出てこないんだな……。

歌詞のことばは難しい

この曲、基本的には簡単な言葉で書いてあります。

たとえばAメロの歌詞はこういう感じ。

銀色の灰皿に強く押し付け
新品のセブンスターまた手を伸ばして
君はヘビースモーカーやめられなくて
四角い箱が手放せない

「銀色」「灰皿」「強く」「押し付ける」とかはどれも難しい言葉ではありません。

「セブンスター」はタバコの銘柄、「ヘビースモーカー」はタバコをたくさん吸う人、ぐらいのところは少し難しいかもしれないけど、ほかは聞いて困るような言葉はほとんど出てきません。

表現としても口語的な、やわらかくて身近な感じの語がほとんどに見えます。

ところが、サビは違います。

ヘビースモーク
手持ち無沙汰ならば
両の手を私が握って拘束する
ヘビースモーク
それか深く吸い込んで
貴方色に私もなりたい

最初に目を惹くのは「ヘビースモーク」。

この言葉はわたしが見た範囲の国語辞典では載っていませんでした。

また、TwitterGoogleで探してみても、この曲のタイトル以外での用法はほとんど見つかりません。

この言葉はおそらくこの曲で作られた造語で、多くの人はこの曲で初めて「ヘビースモーク」という語を知るのだと思います。

だけどAメロには出てきていた「ヘビースモーカー」から簡単に類推できる語でもあり、そういう点では難しい言葉ではありません。

問題は3行目です。

両の手を私が握って拘束する

「拘束する」!?

いままでこの歌詞では日常会話に出てくるような易しい言葉が中心に出てきたのに、突然のインパクト。

「拘束する」は簡単な言葉じゃないよな……。

サビの1巡目が終わるところのいい位置に、印象的な言葉が来るようになっているのはセンスだなって思います!

センスには理由がある

そのセンスには理由があります。

歌詞のAメロから立ち返って内容を見てみます。

銀色の灰皿に強く押し付け
新品のセブンスターまた手を伸ばして
君はヘビースモーカーやめられなくて
四角い箱が手放せない

主人公はこの歌詞の「君」が気になっています。

そんな「君」はヘビースモーカーで、セブンスターのボックスを吸っていることが描かれています。これ割と年上感ある銘柄ですよね……?(わたしの父親が吸ってたので……)

綺麗なその声もしゃがれて
空っぽの煙をただ見つめて
彼女ができたらやめるって笑って
言葉が宙に舞った

「綺麗なその声もしゃがれて」っていうのは期間を示すのかも、と思いました。

そうだとすると、主人公は「君」の声が綺麗だったころから知っていることになり、それなりに長い期間の付き合いがあると示唆されます。

「君」は「彼女ができたらやめる」って言って笑う描写があります。

これはきっと主人公が「君」に対して「タバコやめなよ」って言ったことに対する返事なのだと思います、そうじゃないとやめるとかって話にならないし。

ここからわかることは、主人公と「君」は、それぐらいのやりとりはできる関係性ということです。

でもそこから先へは簡単には進めないけど。

ところで、ここまでずっと描写は主人公と「君」のふたりが引きの画で描かれる描写でした。

目に見えるもの(たとえば灰皿)や、耳に聞こえる会話(たとえば「彼女ができたらやめる」)でできています。

この先、サビの描写は主人公の内面に突入します。

ヘビースモーク
手持ち無沙汰ならば
両の手を私が握って拘束する
ヘビースモーク
それか深く吸い込んで
貴方色に私もなりたい

まず目を惹くのは「貴方」です。

いままでこの歌詞では相手方を「君」って呼んでいました。

だけど主人公は内面では相手を「貴方」と呼んでいます。

当人に直接言うときと、心の中で呼ぶのとで、言い方に区別があるのだと思います。

また内面の描写なら、直接相手に言うのとは違うから断定を避ける和らげの表現も不要です。

そこへ出てくるのが「両の手を私が握って拘束する」です。

Aメロまでと違って、表現に遠慮も配慮もいらないから、ここまで強い表現にできる、ってことです。

それが曲のサビとして強さになるのだとも思います。

タバコの多様性

あとひとつ好きなところの話!

本当は分かってる
掴もうとしたら消えちゃうくらいの
煙みたいな女に貴方は依存する

「煙みたいな女」って部分についてです。

この曲では、タバコは相手から見ると手放せない存在で、私から見ると取って代わりたいライバル的存在で、かつ宙に舞った言葉と重なる存在で、しかも彼が惹かれる女性のように掴もうとしたら消えちゃう存在です。

タバコ(の煙)がこれほどまでに多様な写像に支えられていることが、この歌詞を強固にしているのだと感じました。

素敵な素敵な歌詞だよね〜!


にしな『ヘビースモーク』でした。

ところで、jReadabilityというシステムがあります。

「日本語文章難易度判定システム」です。

これに『ヘビースモーク』の歌詞をそのまま投げてみます。

そうすると、単語ごとに難しさを色分けして表示してくれます。見てみましょう。

くすみピンクか赤であれば「上級」の単語ということになり、本文で触れた「拘束する」のあたりが上級の後になると期待されます。

結果はこう(拡大して見てくださいごめん……)。

「拘束」は「中級後半」でした。そうなん??

しかも不服なのは「中級後半」と同じランクの単語が結構いっぱい出てきており、

「押し付け」「伸ばし」「手放せ」「空っぽ」「煙」「見つめ」「スモーク」「拘束」「吸い込ん」

が同じランクとなっています。なんでや!「伸ばし」とかべつに初級やろ!!(他人の判定に口出しすな)

また「拘束」よりも上位ランクの「上級」の単語もあり、

「舞っ」「手持ち」「咥え」

が上位でした。J-POPではわりとひんぱんに舞っていますが?(聞いてない)

というわけで「日本語文章難易度判定システム」についてはわたしの感覚と合わないところもありますが、目的が違うためこれ以上言及できません。

わたしの感覚だと、文語的/口語的の言い分けを難易度と混同しているところがあるため、前者を測りたいなら別のツールを使う必要があるかもしれないですね!

よいGWを!