5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

コード進行がすごい! 歌詞とのシンクロがすごい! - NMB48『ナギイチ』


今回は、NMB48ナギイチ』のことを考えます。

渚で一番かわいいGirl
あなたはどの娘(こ)を指差すの?
ナギイチ はっきりしようじゃないか
夏の恋は 誰と…誰とする?
こういう歌詞の夏歌です。なあんだ、どこにでもあるような量産型の曲じゃん、って思った?
ねぇ思った??
私、この曲だいすきです。特にコード進行がステキです。歌詞とリンクしてるから!
今回はコード進行とか、そのへんも含めて、この曲を味わいたいと思います。まずはコードから。
『ナギイチ』歌詞(歌ネットへリンク)
『ナギイチ』コード(J-Total Musicへリンク)

コードにからめて

Key = G
【Aメロ】

I (G)V (D)VIm (Em)IIIm (Bm)
灼熱の砂浜寝そべった水着ショー
IV (C)IIIm (Bm)IIm (Am)V (D)
海のその青さ空まで染みる
Aメロの歌詞とコードを並べるとこんな感じ。上の段は、キーをGとしたときの度数表記でのコード。そしてカッコの中は実際に演奏されるコードです。
1行めは転回するとI→V on VII→VIm→IIIm on V、ってできます。ベースの音が1つずつ下がっていってますね。2行めまでそのまま続いて、IV→IIIm→IIm→Vって感じで、ベースの音は7回連続で1つずつ下がります。
これは、いわゆるカノン進行ってやつです♪(ほんとはそれを少し変形したものですが…)
カノン進行に関しては、マキタスボーツさんの説明がわかりやすいので引用します。
カノン進行というのは、規則性があって、ベースラインが「ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ」「ソ」を経過して「ド」に戻るというのを繰り返しているコード進行です。これを聴けば誰しもが心地いい気分になることを約束されるコード進行というもので、安心、安全、安定した音楽を作るための仕組みともいえます。
「ポップスには種も仕掛けもある」マキタスポーツが語る“ヒット曲の法則” - Real Sound|リアルサウンド

I (G)V (D)VIm (Em)IIIm (Bm)
散らばったジュエルがキラキラと輝いて
IV (C)IIIm (Bm)/VIm (Em)IIm (Am)/V (D)I (G)/III (B7)
目移りするなら盗んじゃえ!
続く部分も前半は同じです。
後半は少しだけ変えてあります。「するなら」のところはトニックの代理コードを繋げて退屈しないようになってるし、「盗んじゃえ!」のところはキレイなツー・ファイブ・モーション。
要は、少し違うけど、だいたい前半と同じ、ってことです。量産型のよくあるJ-POPのコード進行をしてますよ。
でもね。

Key = Gm
【Bメロ】

Im (Gm)♭VI (E♭)♭VII (F)♭III (B♭)
そばにいすぎて慣れてしまった
Bメロからは、同主短調に転調します。さっきに比べて少しダウナーな曲調になっているのがわかるはず。
循環コードの基本形がI→VIm→IV→Vなのだそうですが、それをVImから始めるとこの進行になりますね。

Im (Gm)♭VI (E♭)♭VII (F)/♭VI (E♭)♭VII (F)/♭VI (E♭)
大事なものがここにあるよきっ
♭VII (F)/♭VI (E♭)♭VII (F)
と…思いだせ
Bメロの後半も、最初は前半と同じ。ただ、後半は♭VIと♭VIIを行き来しています。旋律的短音階メロディック・マイナー・スケール)上のドミナントコードです。でも、このコードはどちらも玉虫色の役割しかないみたい。
と思ったのですが、これは同主長調ではIVとVにあたるなんの変哲もないコードだったのでした。
つまりこの2つのコードは、このGmというキーがまたGというメジャーなキーに戻りそうなことを暗示しています。
Bメロに入ってちょっとダルい曲調に変わったけど、それが元に戻りそうだってことが示唆されるのです。

Key = G
【サビ】

I (G)VonVII (DonF♯)Em (VIm)Bm (IIIm)
渚で一番かわいいGirl
IIm (Am)G (I)D (V)D (V)
あなたはどの娘を指差すの?
サビ! 予想通り、GmからGにキーが変わります。転調のところはE♭→F→Gと進行してします。メジャーコードが、キーを無視してぐいぐい音を上げていく感じ、サビの高まりとマッチしてて完全にステキです!
サビのコード進行は全体的にAメロと少し似ています。特に1行めは転回を除けばAメロと同じです。
つまり、サビの前半はふつう、ってことです。
III7 (B7)III7 (B7)VIm (Em)/D (V)C♯7-5 (♯IVm7-5)
ナギイチはっきりしようじゃない
Am (IIm)V (D)♭VI (E♭)/♭VII (F)I (G)♭VII (F)/I (G)
夏の恋は誰と…誰と する?
でもね。サビ後半は違うのです。私はこの部分の進行大好きです♥
まず「ナギイチ」の部分のノンダイアトニック・コードがいきなり最高! 「はっきり」のところは、III7のまま、オンコードでノンダイアトニック感を強調する感じに持っていってるみたいです。
そこからドミナント進行し、クリシェでベース音を下げていきます。C♯7-5は根音を半音下げればCになり、次のAmの転回形と繋がる、サブドミナントコード的な立ち位置なのだと思います。
2行めの最初は私AmじゃなくてCとしたほうがイイと思うんですよね…。直前のC♯7-5とのつながりもいいし、直後のつながりもよくなるから。
ここをIV (C)とすると、2行めはIV→V→♭VI→♭VII→Iとなって、メジャーコードがかたちそのままどんどん高くなっていくという進行がわかります。最初はサブドミナントからドミナントに移動するし、最後はきれいにトニックで終わるのでいいんですが、その途中が強引で、でもだからこそすごく爽快な感じ! ぐいぐいした感じが、夏らしさもあって最高なのです。
http://884yuu.com/2014/04/5majorchords/
この進行はハヤシユウさんに教えていただきました。ずっと困ってたことなのに、たまたまタイムリーに教えてもらえてびっくりしました(!)
ハヤシユウさんはこの進行を「メジャー・アップステア」と呼んでおいでだそうです。かっこよい!!

歌詞にからめて

で、この曲のすごいところは、コードがすごいだけでなく、それが歌詞とも連動しているってことです。
既述の通り、AメロはJ-POPの王道、カノン進行でできていました。
そしてこの部分の歌詞はというと、AKB48でさんざんやってきたような夏歌の系譜を完全になぞっています。
この曲はNMB48の曲ですが、歌詞の内容はAKB48のいつものパターンと同じ系列です。だからこういう王道な感じのコード進行が似合うのです。

灼熱の砂浜
寝そべった水着ショー
海のその青さ
空まで染みる
ほら、Aメロは、AKBグループのいつもの感じ。簡潔に歌詞の状況を設定するような歌詞になっています。こういう安定感が、コード進行ともよくマッチしています。
毎年進歩するふたりの関係-AKB48『ポニーテールとシュシュ』、『Everyday、カチューシャ』 - 5日と20日は歌詞と遊ぼう。
こちらもご参考まで。

ところが、Bメロには引っかかりがあります。
Bメロは、明るい感じのGのコードに変わって、少し翳った感じのGmに変わります。それに伴って歌詞の内容も

そばにいすぎて
慣れてしまった
と、少し引いた感じの歌詞に変わっています。
単にやたらと明るくて能天気なだけの世界ではありません。そこには恋愛へのアンニュイな感じもたぶんに含まれています。
でも、Bメロの後半はそうではありません。
大事なものが
ここに あるよ きっと…
思い出せ!
ってなります。ここにも「メジャー・アップステア」の後半が隠れていて「思い出せ!」によって広がる夏の空のような突き抜け感が、歌詞とも曲とも完全にリンクしています。
ちなみに2番はもっと顕著で、
友達じゃなく
恋人じゃない
という不安定な前半から、
自由な距離さ
いつの 日にか きっと…
わかるんだ
という気づきまで、きれいな移行がコードとも連携しているのがよくわかります。

で、サビなのですが、私、世の中のJ-POPのサビにはサビの後半問題が隠されていると思っています。
サビの後半問題とは、サビの後半が印象に残らない、という問題です。

ここで、被験者のhacosatoさんに来ていただきました。hacosatoさん、よろしくお願いします。
haco「よろしくお願いします」
——ではさっそくですが、JUDY AND MARY『そばかす』を歌っていただけますか?
haco「カンタンです! 『おもいでは〜いつもキレイだけど〜ふんふんふんふ〜ん』」
——サビの後半は歌えないんですか?
haco「ち、ちょっとど忘れしただけです!」
——では、AKB48『恋するフォーチュンクッキー』を歌っていただけますか?」
haco「今度こそ! 『こいするフォーチュンクッキー、みらいはそんなわるくないよ、へいへいへ〜い、…へいへいへ〜い!』」
——サビの後半は歌えないんですか?
haco「ち、ちょっとど忘れしただけですよ!」
そうですか、ありがとうございました〜。

おわかりいただけたと思いますが、ふつうそんなに興味を持っていない曲だったら、サビの前半は印象に残っていたとしても、後半はなかなか記憶に焼き付かないことが多いのです。これが、サビの後半問題です。
けど、NMB48にそれは許されません。なんとしてでも本店を超える印象を、みんなに焼きつけなきゃいけません。アイドルってそういうものです。
だからこの曲は、あの手この手で、サビの後半にフックを仕掛けます。

渚で一番かわいいGirl
あなたはどの娘(こ)を指差すの?
引用したのはサビの前半。「渚で一番かわいいGirl」という部分から、これが『ナギイチ』というタイトルの意味するところなのだ、と聴いてる人は思うでしょう。それは正解です。
ナギイチ はっきりしようじゃないか
だけど、そのあとに『ナギイチ』というタイトルそのものの言葉が登場します。これはもちろん「渚で一番かわいいGirl」のことです。でも、この曲を知らない大多数の人は、そんなこと知らないでしょう。ナギイチ』という言葉は、こうしてふたりの秘密になるのです。ふたりの秘密の言葉なら、忘れないでしょ?
しかもこの部分では、コードがIIIというノンダイアトニック・コードになっています。同主短調ドミナント。ちょっと普段は使わないコードだから、音だけでもおやっ?って思わせる仕組みがついています。そこに「ナギイチ」という秘密の言葉が乗るから、とてもいい効果を生んでいるのです。
その直後「はっきりしようじゃないか」もすごくイイですね!
AKB48『ポニーテールとシュシュ』とかだったら「君が走る(僕が走る)/砂の上」って感じで「君」と「僕」のふたりの世界はすでに完成していました。
NMB48ナギイチ』では違います。「渚で一番かわいいGirl/あなたはどの娘(こ)を指差すの?」という歌詞からわかるように、この曲はたくさんの「Girl」がいて、その中から私たちが主体的にひとりを選び取らないといけません。「はっきりしようじゃないか」という少しマニッシュな言い方で、女の子たちはその選択を迫るのです。私たちに、スピーカーを超えて。
夏の恋は 誰と…誰とする?
だからサビの最後は、少し背徳的で、思い切りが必要で、でも世界がからりと広がるような、そんな響きを持って私たちに届きます。
この部分のコード進行は、「メジャー・アップステア」。歌詞の内容は、ここでもコード進行と完全にシンクロしています。
サビの後半、こんなにたくさん語るべき工夫が詰まっているのです。「サビの後半問題」なんてぜったいに起こさないよ!っていう強い意志が、私、この部分から感じちゃうんですよね。

というわけで、NMB48ナギイチ』でした。
いままで、AKB48の曲は何曲か歌詞を読んだことがあるのですが、「支店」の曲は初めて。というか、AKB以外のアイドルの曲が初めてです。もっと読みたいな〜。

今回は初めてコード進行にがっつり手を出しました。別に専門でもなんでもないので、本を片手に書いていった感じです。参考にした本を挙げておきます。

コード進行の基本的な説明はこの本を参考にしました。3つに分冊になっているものも出ていて、私が手にしたのは分冊のほうです。ゼロから始めて、総合的なコード進行の知識が得られる本はこれ以外にあるのかな…。この記事を書く前に大型の本屋さんとか行ったのですが、芳しい成果はありませんでした。この本オススメ。
それと、実際の進行を見ながら、辞書のように引けるこの本は大活躍しました。今回は図書館で借りましたが、やっぱり買おうと思います。絶対いい。
コード進行に関しては、間違いがあったらぜひ教えていただければと思います。
これからもがんばります!
ナギイチ(劇場盤)

ナギイチ(劇場盤)

  • アーティスト:NMB48
  • laugh out loud records
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ナギイチ

ナギイチ

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次回は赤い公園『サイダー』をやります!