5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

SEKAI NO OWARI『RPG』

ほんとうは怖いし、ほんとうは一人
「RPG」 (アールピージー)通常盤
今日はSEKAI NO OWARIRPG』の歌詞を読みます。

空は青く澄み渡り 海を目指して歩く
怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない

サビの歌詞はこんな感じ。
今回、私はこの後半「怖いものなんてない」と「僕らはもう一人じゃない」に注目してみました。
「怖いものなんてない」って言うのは、どういうシチュエーションのときでしょうか。「僕らはもう一人じゃない」はどうでしょう。どちらもかなり限られた状況下でしか意味をなさない言葉です。
それが分かってくれば、きっとこの歌詞全体も見えてくるはず。
という感じで、この歌詞を読んでみることにしました。

歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND143976/index.html
構成はこちら→サビ-A-B-サビサビ-(間奏)-A-B-サビサビ-B-サビ-サビサビ

「怖いものなんてない」

「怖いものなんてない」って言葉が似合うのは、どういうときでしょう。
私が考えたのは、例えばこんなシチュエーションです。
小学生の男の子と女の子がいます。いま肝試しをやっていて、ふたりは懐中電灯を片手に、夜の学校を回ろうとするところです。ふたりはいよいよ校舎に入ろうとしています。ところが、男の子は足がすくんで前に進めません。女の子はぜんぜん平気です。
「あ、怖いんでしょう?」
女の子はにやにやしながら言いました。男の子は答えます。
「こ、怖くないさ。怖いものなんてないし!」
…。
えーっと。もうひとつ考えてみます。
入院しているおばあちゃんのところに、孫娘がおみまいにやってきました。翌日には大きな手術が控えています。別に手術といったって死ぬわけではありませんが、孫娘の脳裏には死がちらついて離れません。孫娘はおばあちゃんに言いました。
「おばあちゃん、死ぬのって怖い?」
思いも寄らぬ発言に、孫娘のお母さんは顔色を変えました。でもおばあちゃんは平然として答えました。
怖いものなんてないさ」
…。
あといくつ考えても、だいたい似たような系統になるでしょうからやめます。まとめ:「怖いものなんてない」って言葉が使われるのは、だいたい何かが怖いときです。
直感としては、いやいや、そんなわけないでしょう、ってリアクションになると思います。でも、そんなことはありません。
石黒圭をちょっと引用してみます。


肯定文は、どんな文であれ、単独で何らかの情報を有しています。
(中略)
一方、否定文は、それ自体では何らの情報も持たず、対になる肯定文を否定することで初めて表現としての存在意義を持つようになります。そのため、対になる肯定文が、話し手と聞き手の双方のあいだにごく自然に想定される内容でなければ、否定する意味を持ちません。対になる肯定文が常識的に想定される内容だからこそ、それを否定する価値が生まれるのです。
(石黒圭『よくわかる文章表現の技術〈3〉文法編』)
今回の例でいうと「怖いものなんてない」という発言の前に、私は2度とも「怖いかどうか」を問題にするようなセリフを仕込んでいます。怖いものがあるかないかの話が事前にないと「怖いものなんてない」という発言が唐突になってしまうのです。そして、怖いものがあるかないかの話なんて、もう怖い話をしているのとほとんど同じです。
否定文のこういう特徴は、AKB48『10年桜』とか、サンボマスター『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』を読んだときとかに生かしていますので、よければ見てみてくださいね。
さて、SEKAI NO OWARIRPG』に戻ります。

空は青く澄み渡り 海を目指して歩く
怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない

先ほども引用した冒頭の歌詞です。2行めに「怖いものなんてない」が出てきます。いままでの話の流れを踏まえると、それより前に「怖いもの」が出てくるはず。ということは、1行めが怖いのだとしか考えられません。
「空は青く澄み渡り 海を目指して歩く」の、なにかが怖い、のです、たぶん。私たちにはまだその怖さが分かりません。でもここに、きっとなんらかの怖さが潜んでいるはずです。前半は、ここまで。

「僕らはもう一人じゃない」

さて、後半です。
いままでの話の流れを踏まえると「僕らはもう一人じゃない」の部分は「僕らは一人だ」的な言い回しの否定ということになります。なにか、主人公が一人になるような状況が描かれているでしょうか。ちょっと探してみます。

大切な何かが壊れたあの夜に
僕は君を探して一人で歩いていた
あの日から僕らは一人で海を目指す
「約束のあの場所で必ずまた逢おう。」と

2番のAメロを引用しました。ここには2度「一人」という言葉が出てきます。幸いにもどっちも肯定文です。やった、どんな文であれ、「単独で何らかの情報を有」するぞ!
私が注目したのは「僕は君を探して一人で歩いていた」というところです。よく似た部分がほかにあるのです。

大切な何かが壊れたあの夜に
僕は星を探して一人で歩いていた

1番のAメロを引用しました。「僕は星を探して一人で歩いていた」とあります。「君」が「星」になっただけで、さっきの部分とほとんどいっしょです。
ひとつの歌詞の中では、軸はそんなにぶれません。主人公が何かを探していたら、探すものはほとんどひとつのはずです。
この歌詞の中では、主人公は「君」を探し、「星」を探しています。私は思いました。「君」=「星」なんだろうな、と。そして、人物が星になるというのは、死のメタファーじゃないですか!
この歌詞は、入水自殺を描いていると私は思いました。「君」は、この歌詞よりも前に水難で亡くなっています。主人公は「君」に会おうと思い、入水自殺を決心しています。そんな設定を想定して、改めて歌詞を見直してみます。

空は青く澄み渡り 海を目指して歩く
怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない

基本的に、この主人公にはもう、その決心に迷いがありません。だから「空は青く澄み渡り」という描写が似合います。まっすぐな気持ちは晴れた空のよう。もし迷いがあるのなら、あいまいな曇り空になるところだったはずだから。

大切な何かが壊れたあの夜に
僕は星を探して一人で歩いていた

この部分は時制が過去になっています。たぶん「大切な何か」とは、主人公と「君」との約束のようなものだったと私は夢想しています。それが壊れてしまったのは「君」がいなくなってしまったからです。だからこの部分は、君の死に触れたときの回想みたい。その日の夜、主人公は家を飛び出すわけですが、これはサビの部分とちょうど対になっています。

空は青く澄み渡り 海を目指して歩く

僕は星を探して一人で歩いていた

  現在 回想
時間
(空は青く澄み渡り)

(星を探して)
人数 一人じゃない 一人で

こんな感じになっていますね。主人公が「君」を失ったときにはなかったものが、現在ではもう揃っていることが分かります。

「方法」という悪魔にとり憑かれないで
「目的」という大事なものを思い出して

私の妄想に基づけば「方法」とは入水自殺のこと、そして「目的」とは「君」と再会することです。
亡くなった人と再会する方法として、死を選ぶのはほめられたやり方じゃありません。けれど主人公は自分の「目的」とよく向き合って決めたこの「方法」にもう迷いがありません。
私はいま「迷いがありません」と書きました。この文章の前半までの流れでいえば「迷いがありません」というからには迷いがあるはず。
そうなのです。主人公には確かに迷いがないけれど、でも隠そうと思ってもにじみ出てきてしまっているのです。迷いが。恐怖が。

空は青く澄み渡り 海を目指して歩く
怖くても大丈夫 僕らはもう一人じゃない

途中から、サビの後半にこういうフレーズが付け加わります。「怖いものなんてない」が「怖くても大丈夫」に変わります。やっぱり怖いんだ。
でも、主人公は怖くてもへっちゃらです。なぜなら一人じゃないからです。主人公はいま海の奥深くまで進んでいます。身体はもうすぐ波に飲まれていくでしょう。完全に飲まれきるまでの恐怖です。だって、波に飲まれて海の泡となれば、
主人公は「君」との再会を果たせるんですから。



というわけで、SEKAI NO OWARIRPG』でした。
こちらの歌詞も読みましたので、よければあわせてどうぞ。

オフラインの「君」を見ながら - SEKAI NO OWARI『眠り姫』 - 5日と20日は歌詞と遊ぼう。

それにしてもSEKAI NO OWARIのメンバーはなんか全員すげーかわいいですねなんなの♪ Saoriフリークのこのまとめ、まとめてるヒトがすごく楽しそうでテンション上がります。こういうの大好きです。
https://itunes.apple.com/jp/album/rpg/id639531479?i=639531563&uo=4&at=10lrtS
次回の予告をしたいところですが、次回は未定です。読めるやつからがんばります♪