5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

猫になった「んだよな」部分の良さみがたまらないんだよな - DISH//『猫』

こんにちは😺

DISH//『猫』の話をします。

夕焼けが燃えてこの街ごと
飲み込んでしまいそうな今日に
僕は君を手放してしまった

という始まり方の失恋ソング。

失恋ソングにも吹っ切れたやつからずっと引きずるやつまでいろいろありますが、この曲は主人公の描写がじっくりじっくり変わっていくところに、この曲ならではの味わいがあります。

夕焼けってずっと見ていると、太陽の位置がどんどん変わって、空の色がどんどん変わって、景色がどんどん変わっていくので意外と変化があってにぎやかです。

この曲で描かれる失恋は、そういう夕焼けの感じに似ています。

きょうはそれを、いっしょになぞってみたいです!

↑こちらはTHE FIRST TAKEのバージョン。

DISH//『猫』歌詞

ゆれる

この曲は、もうだめだぁ!!という熱量のある自分と、とはいっても落ち着こう…という冷静な自分が交互に出てきます。

夕焼けが燃えてこの街ごと
飲み込んでしまいそうな今日に
僕は君を手放してしまった

その観点で1連目を見ると、ここは明らかに冷静な側です。

「僕は君を手放してしまった」なんて描写はひとりごとではなかなか言わないだろうし、まるでナレーションのように突き放した描写に見えます。

ところが。

明日が不安だ とても嫌だ
だからこの僕も一緒に
飲み込んでしまえよ夕焼け

続く連は明らかに感情的な側に立ちます。

「明日が不安だ」のところは曲のメロディも少し崩れて、感情的な部分がさらに露わになります。

このゆれが、この曲のいちばんの見どころだと思います。

さらに続きを見てみます。

だけどもそうはいかないよな
明日ってウザいほど来るよな
眠たい夜になんだか笑っちゃう

3連目で改めて主人公は冷静になります。

夕焼けに飲み込まれるなんて、そんなわけないじゃん、と自分にツッコミを入れるし、それに対して「なんだか笑っちゃう」ような余裕もあります。

それをわざわざ口にするところもやはり冷静です。「なんだか笑っちゃう」は、ほんとうに爆笑の渦の中にいるときには冷静に言えないことばだもんな。

Aメロを3周してていねいにゆれを描いたあとで、曲はBメロに入ります。

家まで帰ろう 1人で帰ろう
昨日のことなど 幻だと思おう
君の顔なんて忘れてやるさ
馬鹿馬鹿しいだろ、そうだろ

「帰ろう」「帰ろう」「幻だと思おう」と同じ語尾で自分に言い聞かせるような表現は冷静さに欠きます。

また「馬鹿馬鹿しいだろ、そうだろ」なんて物言いも、クールなときの主人公だったら言わないセリフだと思います。

やはりこのBメロは、冷静さの揺り戻しで感情的になっているように見える部分です。

ゆれるだけでは終わらない

ところが、この曲はいつまでもゆれているわけではありません。

この曲は最後に、そのゆれの外側に着地するのです。

テーゼとアンチテーゼの対立の先にはアウフヘーベンがあるわけだからな!

サビの歌詞を引用します。

君がいなくなった日々も
このどうしようもない気だるさも
心と体が喧嘩して
頼りない僕は寝転んで

ここの歌詞でもゆれの要素があります。

2行目の「気だるさ」と3行目の「心と体が喧嘩して」のあたりとかには対の関係を感じます。

が、アウフヘーベンはこれではなく、その先です。

猫になったんだよな君は

ここ!!

「猫になったんだよな君は」の部分は、タイトルでもあるし、メロディとしてももっとも盛り上がる部分といっていいと思います。

この歌詞めっちゃいいですよね、「君」が失恋した相手なのだとすると、猫になったわけないんだから。

だけどここで唐突なこの結論を出してしまうことによって、そうでもしないと心がもたない感じが差し迫ってきてぐっとくるんですよね〜〜🐱

という点で、ド定番だけどここはとってもとっても好きな歌詞です。

あと「んだよな」って語尾がとてもいいですよね。

作詞作曲のあいみょん『生きていたんだよな』という曲でも同じ語尾を使っているので口ぐせのようなところがあるんだと思うんですけど、これがこの部分にぴったりはまっています。

「んだ」のもととなる「のだ」は説明に使われるのだ、とはよく言われます。

説明しよう! のだ文は、説明によく使われるのである!

って感じで使えます(「ので」は活用しているだけで「のだ」と同じ機能)。

ところで説明は他人に向けるものですが、この言葉は自分自身に向けることもできます。説明を自分に向けると、それは納得というかたちになります。

この歌詞、

君は猫になったな

って歌うだけだと、主人公は「君」が本当に猫になったと思い込んでる感が出るかもしれないです。サイコパスか?

そこを

君は猫になったんだよな

って変えるとだいぶちがって響きます。

主人公は「君」が猫になったと自分に言い聞かせて自分を納得させようとしている、という感じが出るんですよね!

さらに、

猫になったんだよな君は

と倒置することで冷静じゃない感じも出ます。やっぱりこの表現が好き…😻

さらに続き。

いつかフラッと現れてくれ

猫は主人の意向など意に介さず、フラッと出て行ったり戻ってきたりするもの。

それが「フラッと現れてくれ」という表現に使われています。

そして1番最後の1行。

何気ない毎日を君色に染めておくれよ

これさ、曲の1行目の、夕焼けが街を飲み込む部分とシンクロしていると思うんですよね。

最初は冷静な主人公が、街を上から見下ろして、夕焼けが街全体を飲み込むのを眺めていたんだと思うのです。

そして主人公の内面はそれと連動していて、自分の毎日が君色に染まるのを心に描いていたんですよね……!


ということで、DISH//『猫』でした。

このブログでは前にもこの曲について書いたことがありました。

前回は歌詞の内容にはぜんぜん踏み込まずに発音について考えました!

hacosato.hatenablog.com

『猫』をカバーしているいろんな歌い手によって発音の癖がどういうふうに出ているかを考えたよ〜こちらもよければぜひ✨

途中で出てきた「のだ」の話については、森田良行『日本語の類義表現辞典』を参考にしました。

「「用事があります」か「用事があるのです」か」という項目を今回読んだんですが、他にも

  • 「練習する」か「練習をする」か
  • 「食欲をそそられる」か「食欲をそそらせる」か
  • 「仕事を求めにくる」か「仕事を求めてくる」か
  • 「先生も賛成らしかった」か「先生も賛成だったらしい」か

って感じの見出しが並んでてねぇめっちゃよくないですか?

分析が読み物風に楽しめる体裁になっているとても楽しい本です! よかったらぜひ!!

猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜

猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜