抱きあうよの描き方
こんにちは![asin:B002Y3DFKS:image]
今回はずっと前にLeoさんからいただいたリクエストにお応えしまして、YUKI『うれしくって抱きあうよ』を取り上げます。
YUKIといえばYUKI『COSMIC BOX』、YUKI『ひみつ』を読んだことがあるので、今回で3つ目になります。よければこれまでのもご覧くださいませ。私の中では割と会心の読みができてるつもりです♪
さて、今回の『うれしくって抱きあうよ』は、
ハナ唄で閃いた! 希望の咲く丘目指せ シグナルは青になる
うれしくって抱きあうよ
うつむいたり叫んだり 忙しい僕らの宴 ありがとうに出逢う街
うれしくって抱きあうよ
って部分がタイトルを想起させる、ゆったりした一曲。サビのところで転調するのがすごく好きです。
うれしがって、抱きあってるこの曲、特に難しいことが描かれてるオーラもないんですが、私は常々、YUKIの歌詞ってほんとにレベルが高いなぁって思っているのです。今回はどんなところにそのハイレベルがにじみ出ているのか、その辺を考えていきたいなと思っています。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND88726/index.html
構成はこちら→ABサビABサビBサビ
図鑑型の抱きあうよ
前回ゆず『からっぽ』のときにまとめてみましたが、曲の歌詞には図鑑型と物語型の2種類があると思います。図鑑型っていうのは、ひとつのものごとをいろんな側面から描いたようなタイプの歌詞、物語型っていうのは順を追ってひとつのストーリーを追いかけていくようなタイプの歌詞です。今回の『うれしくって抱きあうよ』は、どちらでしょう?
これはまっすぐの図鑑型だと私は思います。
図鑑って、あるものごとをいろんな側面から描いたものです。例えば、Wikipediaはとっても図鑑的。Wikipediaで「YUKI」を調べてみましょう。
今回の『うれしくって抱きあうよ』は、図鑑のそういう特徴ととてもよく似ています。それぞれの文はとても短くて、散発的で、脈絡がないように見えるけれど、一つの大きな世界をちゃんと描いています。特に、文の短さは驚異的です。
➊風に膨らむシャツが 君の胸の形になるのさ
➋甘い匂いを撒き散らして 僕らはベッドに潜り込んだ
➌たなびくサイレン ➍愛撫のリフレイン ➎茹だるようなビート
➏少し震えているのかい?
➐捧げたい僕を 君の広い宇宙に ➑在るだけの夜に 在るだけの花びら
歌詞の最初のAメロとBメロを引用してみました。この部分で文がいくつあるのか、カウントしてみたのが丸数字の内容です(引用中の丸数字は私が書き加えました)。歌詞を文できっちり分け直すのは難しいので、人によっては数にばらつきが出るとは思いますが、私が数えた感じでは、ここまでの範囲で、文が8つあるっていうことになりました。歌詞全体だと54文でした。歌詞は全部で702字なので、1文の平均は13字だと分かります(ぴったり割り切れました)。
1文の平均が13字。これはとてつもなく短いです。
直近で取り上げた5曲について、歌詞全体での文の数、歌詞の総文字数、そこから分かる1文の平均字数をまとめて、表にしてみました。こんな感じです。
曲 | 文の数 | 1文の平均字数 |
---|---|---|
YUKI『うれしくって抱きあうよ』 | 54 | 13 |
ゆず『からっぽ』 | 12 | 26.25 |
きゃりーぱみゅぱみゅ『ファッションモンスター』 | 25 | 15.4 |
サカナクション『アルクアラウンド』 | 23 | 18.17 |
mihimaru GT『幸せになろう』 | 52 | 14.60 |
(『ファッションモンスター』の英語の歌詞の部分は除外してカウントしました。『幸せになろう』の英語の歌詞の部分は、日本語の文法の文の中に織り込まれているのでそのままカウントしました。)
という感じ。『うれしくって抱きあうよ』の1文の短さがどれだけなのか分かると思います。この曲、文章はとても短いので、ふつうはその分ばらばらな印象になってしまいがちだと思うのです、よほどしっかりした軸がなければ、ね。
風の抱きあうよ
でもこの曲には、しっかりした軸がちゃんと見受けられます。もう、こんなに有り体な言葉遣いでいいのかよく分かりませんけど、
エロいですよね、この歌詞。
私は、この歌詞の主人公は男子で、ヒロインの女の子とラブラブする話なのではないかと思いました。思いましたというか、多くの人はこれを読んで同じことを考えるんじゃないかと…∩(>◡<*)∩
風に膨らむシャツが 君の胸の形になるのさ
甘い匂いを撒き散らして 僕らはベッドに潜り込んだ
最初の2行を引用しました。「胸」だの「ベッド」だの、もう冒頭から分かりやすいボールを投げまくってくれます。だからBメロとかで少し遠回しな言い方に変わっても、読んでいる私はちゃんと捉えることができ続けちゃいます。
捧げたい僕を 君の広い宇宙に 在るだけの夜に 在るだけの花びら
わー!「僕を捧げたい」ってそういうイミなのかー!
とか、
夜も花も単に「在るだけ」であって、そこに意味はないのね! あんなことやこんなことを考えてしまうのは私たちが悪いのね!
とか、読んでいる私はそういう気持ちにスイッチが入ってしまうのでした。「バカいうやつがバカ」の論法でいくと、エロいって言ってるほうがエロいはずです。大変残念な論法です。
えーところで、“こういうこと”を描くのにあたって、図鑑型はとても効果的です。もしこの歌詞が図鑑型ではなくて、これが物語型で描かれていたとしたらどうでしょう? どろどろした卑猥さはリアリティをもって私たちに迫ってきます。それは甘美だし、魅力的だけど、ポップスとしてはちょっと重いし、アーティストとしてはちょっと冒険です。
でも図鑑のような描き方なら、ひとつひとつの描写はあくまでさらっとしていられます。それに描写が深追いしない分、私たちの想像の中のアダルトなイメージが行間を埋めてくれます。ストレートな描写がなくてもイメージを十分に伝えられるのは、図鑑型のほうです。たぶんYUKIはそれを分かっていて、こういう描き方をしているんだと思います。あえて単語を並べるだけにしたり、文章を短く区切ったりすることによって、突き放した描写をする分、この曲にはべたべたした感じがぜんぜんないのです。
さらに言葉の選び方もすごくステキです。「風に膨らむシャツ」「甘い匂いを撒き散らし」「たなびく」「ハナ唄」「煙」なんていう空気感のある言葉が多く並びますね。だから歌詞には陰湿な感じがぜんぜんなくて、とてもからっとした性愛を描くことに成功しています。
それにタイトル『うれしくって抱きあうよ』も秀逸です。「抱きあう」っていったら“そういう”系の意味も確かにありますけど、普通は単にハグするところを想像するのではないかと思います。「うれしくって」がつくならなおさら。だからとても自然なイメージ。
これがこの歌詞のすごいところなのです。
なんてことを思いながら、私は1番の最後の方まで歌詞を読んでいきました。
僕をあげよう 溢さないよう 火の無い場所 煙は立たず
欲しいものなら手に入れたんだ 僕と君を繋いだ ハレルヤ!!
あー「僕をあげよう 溢さないよう」はエロいなぁ♪とか、「ハレルヤ!!」はふたりを結びつける秘密のキーワードなんだろうなぁ、とか思いながら1番が終わって、2番の歌詞が始まって、私はめっちゃビビりました。
乱れ髪 ほうき星 なんて卑猥なんだ君の唄
「なんて卑猥なんだ君の唄」って! 読まれてる! 私の心が読まれてるぞ!!
たぶん私たちがこういう想像をするところまで、YUKIにはお見通しだったのでした。
というわけで、YUKI『うれしくって抱きあうよ』でした。
最近いろんな方からコメントいただいたり、Twitterでフォロー?していただいたり、張り合いがあって楽しくなってきています♪ スマートフォンでアクセスくださる方が最近大勢いらっしゃってうれしいのですが、パソコンやiPadとかで見ると色がついたりしてより分かりやすくしてあるつもりですので、お時間があればそういう環境でもぜひアクセスくださいませー。
次回は未定ですが、アレかアレをやりたい的な目ぼしはつけてあります。年末になると音楽番組も増えるので、できれば今年の曲を読みたいですっっ。
https://itunes.apple.com/jp/album/ureshikutte-baokiauyo/id570010304?i=570010510&uo=4&at=10lrtS
↑ここクリックするとこの曲ももっと長く聴けるし「全曲プレビュー」を選べば「POWERS OF TEN」(ベストアルバムです)の全曲合わせて40分も試聴できます。iTunesさんすごすぎです。(2015/12/05加筆修正しました。)