「春」は1つじゃないんだよ! 「春」は3つあるんだよ!
今日は松任谷由実『春よ、来い』を取り上げます。
歌詞はこんな感じ。
春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに春が懐かしさと結びついているのがわかります。実際にやってくる春と、心の中の懐かしい春。この曲には、そんな2つの春があるみたいです。
愛をくれし君の なつかしき声がする
…って思っていたのですが、よく見てみたら2つじゃなかったです。この曲には春は3つあります。
今回はそんなことを考えました。
歌詞(歌ネットへリンク)
実際の春と、思い出の春
1連から引用してみます。
淡き光立つ 俄雨「俄雨」、「沈丁花」と、風景の描写からこの曲は始まります。
いとし面影の沈丁花
溢るる涙の蕾から
ひとつ ひとつ香り始める
Wikipediaによると、沈丁花は「2月末ないし3月に花を咲かせる」とのことですから、この歌詞もきっと春が間近な時期が舞台になっているのでしょう。描かれているのは、実際の春です。
それは それは 空を越えて2連と3連では、一転して主人公の内面が取り上げられます。主人公が思い出しているのは「愛をくれし君」の思い出です。それはきっと春のことで、春がめぐるたびに主人公はそれを思い出すのでしょう。
やがて やがて 迎えに来る春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする
実際の春がやってくるたびに、主人公は思い出の春を思い出しています。2つの春がリンクし合っています。
君に預けし 我が心は4連では、思い出の春が描写されます。主人公は「君」に心を奪われて、思いを伝えたんだ、と私は思いました。けれど「君」からいい返事はもらえませんでした。主人公はいまでもそれを思っていて「今でも返事を待っています」と言っているように読めます。
今でも返事を待っています
どれほど月日が流れても
ずっと ずっと待っています
だから春が来るたびにやってくるのは、懐かしいだけでなくビターで切ない恋心です。春は、そんな郷愁とリンクしています。
思い出の春と、未来の春
でも、主人公にとっての春が思い出にまみれたものだけだと捉えると、大事なことを見落としてしまいます!主人公にとっての春は、思い出の春のほかにもうひとつあります。未来の春です。
つまりこの歌詞には春は3つあって、こういう構図になっていると思うのですよ。
それは それは 明日を越えて5連は、未来の春を示唆する部分です。「明日を越えて」とか「いつか いつか」のあたりに未来っぽさがにじみ出ています。
いつか いつか きっと届く
でもまだふわふわした描写なのであまりよくわかりません。未来の描写が決定的に見えてくるのはここから。
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるときサビの冒頭、「春よ まだ見ぬ春」という表現に注目です。
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く
1番ではここは「春よ 遠き春よ」という表現でした。「遠き春」という言い方から、春が遠い過去のものであることが暗示されます。
2番では「春よ まだ見ぬ春」に変わります。「まだ見ぬ春」ということは、春は過去ではなくて未来のものだということです。
表にまとめると、
時制 | 歌詞 | |
---|---|---|
1番 | 過去 | 春よ 遠き春よ |
2番 | 未来 | 春よ まだ見ぬ春 |
こんな感じなのですよ! ドヤ!
ところで、思い出の春は遠い恋の切ない記憶です。未来の春はどうでしょうか。
私は、主人公が夢の叶った未来を思い描いているのだと考えています。
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき「肩を抱く」という身体を感じる表現が、夢が現実になることと強いつながりがあるように思えるからです。
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く
最後に、現在について
この曲には、思い出の春と未来の春が登場します。過去と未来です。
では、現在はどこへ…。
お答えします。現在が出てくるのはこの歌詞の7連です。
夢よ 浅き夢よ 私はここにいます「います」という時制が現在っぽい!
君を想いながら ひとり歩いています
流るる雨のごとく 流るる花のごとく
ここには、巡る季節と巡らない主人公の、対比があります。
春は毎年やってきます。「流るる雨」や「流るる花」と同じです。そして、主人公は春が来るたびに、古い思い出をひもときます。
春は毎年新しくやってくるのに、思い出は古いまま。この対比は残酷です。
いつまで経っても恋人ができない私の隣に、失恋してもどんどん新しい恋人ができる友だちがいたとしたら、私の悲惨さが際立つじゃないですか!
だから主人公は夢へ「私はここにいます」とアピールしています。私に気づいて、と言っているわけです。
それは、私の恋心に気づいて、と言っていることにもなります。
その思いをもっと短く言うと、たぶんこんな感じになります。
「春よ、来い」って感じに。
というわけで、松任谷由実『春よ、来い』でした。
ユーミンの曲は過去、ほかにも読んだことがあるので、よければそれもお楽しみください。
荒井由実『卒業写真』
荒井由実『やさしさに包まれたなら』
↑なんだこの変なURIは…。
次回予告::次回はkemu feat.GUMI『敗北の少年』を取り上げます! 1周年だしね!