5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

荒井由実『卒業写真』

過去と現在はあなたと私
こんにちは。えー、だいたいいつも写真写りは悪いほうです…υ
COBALT HOUR
今回 取り上げるのは、荒井由実『卒業写真』です。ユーミン荒井由実『やさしさに包まれたなら』(去年の5月)以来。1年前に取り上げた曲たちと見比べてみると、意識してやっているわけではないのに、だいたい同じような時期に似た曲を取り上げたりしていて、こじつけのすばらしさを感じます(違)。
今回は『卒業写真』。6月に取り上げているというのに季節外れな気がしますが、これも次の曲への大きな伏線なのです。今年の2月に取り上げたZONE『secret base〜君がくれたもの〜』とちょうど逆ぐらいな感じなので、もし夏を前にした曲を読みたい!って気分でしたらそちらもぜひ!
さて、『卒業写真』の歌詞は、

人ごみに流されて 変わってゆく
あなたはときどき 遠くでしかって

というサビのメッセージが中心にあるような世界です。1行めは「私」が主題。2行めは「あなた」が主題です。この曲はずっと、「私」と「あなた」の対比が維持されたまま進んでいきます。だって、さくっと歌詞を見てみてください。どの連も2行でひとつですよね。その2行がそれぞれ対照的な意味を持っているっていうこと、この文章を最後まで読めば分かるはず。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND43930/index.html
構成はこちら→A-A-B-A-A-B'

現在と過去

いきなり結論を言いましょう。この曲はずっと、現在と過去の対比で組み立てられています。
最初の連を読んでみますね。

悲しいことがあると 開く皮の表紙
卒業写真のあの人は やさしい目をしてる

1連めはこんな歌詞。「皮の表紙」って、文脈的に考えたら卒業アルバムのことでしょう。悲しいことがあって、卒業アルバムを開いているのは、“いま”に足を付けている歌い手自身です。
それに対して、「あの人」は卒業写真の中の存在ですから「あの人」は過去の世界に属しています。上に引用した部分でいったら、1行めが現在、2行めが過去のことを指している歌詞だとはっきり分かりますね。

  現在 過去
1行め 2行め
人物 あなた
感情 悲しい やさしい

表にまとめるとこんな感じになると思います。全体に、きれいに対比が作れる構造が読み取れますね。
この後の連も、ひたすらに2行1組が続きます。そして必ず、どちらかが現在を、どちらかが過去を示しています。

町で見かけたとき 何も言えなかった
卒業写真の面影が そのままだったから

「見かけた」のは現在でしょうね。それに対して、「卒業写真の面影」は過去への言及。だからこの連は、1行めが現在、2行めが過去のことを指しています。

人ごみに流されて 変わってゆく私を
あなたはときどき 遠くでしかって

人ごみに流されて変わっているのは現在です。それに対して、「あなた」が所属している「遠く」とはどこでしょう? これは過去ですよね。だからこの連もやっぱり、1行めが現在、2行めが過去のことを指しています。
そしてもうひとつ、大事なことがこの連から分かります。それは、「私」が常に現在に所属していて、「あなた」が常に過去に所属しているということ。「私」はいまここに軸足を置いています。それに対して「あなた」はノスタルジーの世界に住んでいるのです。

あなたと私

町で見かけたとき 何も言えなかった
卒業写真の面影が そのままだったから


人ごみに流されて 変わってゆく私
あなたはときどき 遠くでしかって

2連分まとめて引用してみたのには理由があります。「あなた」と「私」のことで、すごく対照的な描写が見えるからです。それは、変化について。
「あなた」は「卒業写真の面影がそのまま」でした。でも翻って「私」はというと「人ごみに流されて変わってゆく」のです。「あなた」はそのまま。でも「私」は変わってしまいます。
そんな「私」はしかられる対象です。ということは、そのままでいるのが望ましい姿だということです。変わってしまうのはいけないということです。
学校を卒業してから、久しぶりにその学校の仲間に会うとしましょう。そのときに必然的に浮かび上がってくるのは、変化です。新しい友だちができたり、新しい恋をしたり、会わない間にお互い、知らない面をたくさん積み上げているはず。
そして、土岐麻子『Gift〜あなたはマドンナ〜』とかでも出てきましたが、昔の友だちに会うことは昔の自分に会うことでもあります。相手の知らない面を知ってしまうたび、自分の変わってしまった面を繰り返し思い知らされるものなのです。
そうして過去が恋しくなって、卒業してから今までの出来事なんてぜんぶ捨ててしまいたくなってしまう気持ちを郷愁って言います。『卒業写真』のテーマはたぶん郷愁なんじゃないかなって私は思いました。
でもね。
この曲、単語の単位で区切ってみると、そういう懐かしい感じを想起させるものはほとんどなにもありません。「話しかける」…ふつうの単語ですね。「柳」…怪談しか連想できない。「道」も「電車」も、とくにノスタルジーをくすぐられるようなコトバじゃないですね。でも、

話しかけるように ゆれる柳の下を
通った道さえ今はもう 電車から見るだけ

なんですかこの郷愁わっ!
この曲には懐かしい系の単語はほとんどありません。しいていえば「卒業写真」ぐらいです。でも、そんな言葉に頼らなくても、単語の組み立て方でユーミンは私たちに懐かしいイメージを喚起させます。これって本当にすごいことだなあと私はしみじみ思ったのでした。

つながリンク

前回このダイアリーで取り上げたのはJUDY AND MARY『小さな頃から』。今回の荒井由実『卒業写真』との共通点は、「人ごみ」です。
先に今回の曲のほうから。『卒業写真』では、

人ごみに流されて 変わってゆく私を
あなたはときどき 遠くでしかって

というサビの部分に「人ごみ」が出てきます。「人ごみ」は歌い手を、昔の自分自身から遠ざけるような存在です。でも歌い手はそれに逆らうでもなく、流されていってしまっています。そしてそれをしかられるようなことだと感じているみたい。人ごみに流されてしまうことを、大人になることのかなしみと重ね合わせるJ-POPはあまたありますが、もしかしたら『卒業写真』は、その嚆矢なのかもしれないですね。
さて、JUDY AND MARY『小さな頃から』では、歌詞の最後の連に「ひとごみ」が出てきます。

ただ 歩く ひとごみにまぎれ
いつも なぜか 泣きたくなる

私が注目したのは「ひとごみにまぎれ」でした。『小さな頃から』に出てくる「ひとごみ」にも流れがあると思うのに、この曲では流れに乗るとか逆らうとか、そういう表現はしません。単に「まぎれる」という表現を使っています。
こうすることによって、ひとごみの切なさにさらにスパイスが効いてきます。もう流れに乗るとか乗らないとか、そういう話からも降りてしまって、単に泣きたくなってしまっている歌い手の気持ちには「まぎれる」ほうがきっとずっとしっくりくるのでしょうね。



ところで、島村楽器のお題に答えてみようと思います。今月のお題は「楽器に関する思い出」
私は楽器関係は習ったことがなくて、中学のときとか、音楽の授業が始まるまでの短い休み時間の間に音楽室のグランドピアノを弾いてる男子を横目で見ながら、自分も弾けたらいいのに(弾けるわけないケド)、なんて思っていました。ずっと思っていました。
それから長い年月が経ちました。なぜか私の家には電子ピアノがあって、ついさっき、『卒業写真』をさらっと弾いて楽しんだりしてきたところです。右手でメロディ、左手でコードを押さえるぐらいなら自分にだってできるのです! すごい!
『卒業写真』はすごくカンタンだったので適当に弾いてもコード分かりましたが、aikoとかだとさっっぱりわかんなくなります(汗)。そゆときには、コードも表示される歌詞サイトとか、コード進行を取り上げてるブログとかのお世話になります。いろいろ勉強にもなるし、コードと歌詞のつながりを発見したりもします(たむらぱん『ちゃりんこ』とか)。中学を卒業したって、しかってくれる人がいなくたって、楽しいことはちゃんと広がるのです。
それからこっそり。次回はflumpoolを取り上げる予定です。予習はこちらから。
Neue Musik

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  • アーティスト:松任谷由実
  • ユニバーサル ミュージック (e)
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