突然ですが、好きな品詞ってありますか?
前提としてすべての品詞が組み合わさらないと文にはならないので、すべての品詞は大切です。
また、拠って立つ文法体系によって品詞の認定もさまざまです。形容動詞の話はここではやめよう。
なのですが、その上で、わたしが好きな品詞は助詞です。
助詞ってごく短い1語でもたくさんの事柄を前提としているものがあって、長さに対するコスパが高いところが好きです。
あるいは、発話時間に対するタイパというか。
あるいは文字に占める面積に対するボリュパというか。
その中でも今日は「さえ」についてお話ししましょう! 「さえ」は副助詞です。
Official髭男dism『異端なスター』の歌詞の話をします。
「さえ」の話
いったん国語辞典を引いてみます。
ふだんであれば『三省堂国語辞典』に当たるところですが、こういう項目は煙に巻かれた気持ちになりがちなので今回は『新明解国語辞典』を引いてみます。
助詞としての「さえ」の最初の項目はこうです。
これこれ! 私が言いたいのはこれです。
語釈に続いて用例も載っています。
「専門家の彼さえ知らなかった」
「自分の名前さえ書けない」
最初の用例であれば子供という(極端にもののわからなそうな存在であっても)わかることだ(から、大人ならわかることは言うまでもない)、という含意がありますね。
基礎語については専用の辞書を引くという手もあります。
たとえば森田良行『基礎日本語辞典』を引いてみます。
この本すごいんですよ〜見て見て〜!
「さえ」の見出しが右ページの下段にあって、解説も含めて5ページに渡ります。バグ。
解説の冒頭はこんな感じ。
つまり「さえ」というのは極論です。
極論として取り上げられるものには、話者の考えが出ます。さっきの「子供にさえ分かることだ」だったら、子供はあまりものごとをわかっていない、というのが話者が考えていることです。
こんな風に話者がどう考えているかが浮かび上がってくること、それがわたしが「さえ」を好きな理由です。
歌詞の話
Official髭男dism『異端なスター』の歌詞の話をしましょう。
歌詞の冒頭はこういう感じ。
ねえ聞いて
面白くなけりゃダメで
見た目が良くなきゃダメで
そうやって選ばれたスター 人気者さ
面白くて見た目が良い、そういう人がスターになっていく、どこにでもそういうコミュニティはあることでしょう。学校とか。
僕らは後ろをついてまわって
照らすライトの1つとなって
それが「人生」 醜いリアルだ
一方で大半の人はそういう「スター」になることはありません。
主人公も例外ではなく、その後ろをついて回る「ライトの1つ」になぞらえられています。
いつからか
薄っぺらい友情や
寂しさ予防の恋愛があふれかえる街で
主人公はそういう現状に満足しているわけではありません。
「スター」を目指しているわけではないけれど、「薄っぺらい友情」や「寂しさ予防の恋愛」で、ちょっと背伸びした人間関係は築いていこうとする向き合い方があります。
非難の声恐れて
無難な生き方貫いて
自分らしさにさえ無関心になって
ここの「自分らしさにさえ無関心になって」の部分に「さえ」があります。
さっき辞書で引いた内容に立ち返ると、「さえ」は極論を示していました。
それに則るとこの歌詞で歌われていることは、こうです。
自分らしさは無関心になることはほとんどなくて、たいていの関心を捨て去ったとしても自分らしさへの関心は残るものだけど、だけど今の自分は自分らしさにも無関心になってしまった。
この歌詞の中では主人公は自分らしさへの関心が大切なものだと思っている、といっていいと思います。
それなのに大切な自分らしさを捨ててしまった、そんな愚かさに焦点を当てたのが、この曲です。
「さえ」では極論が引き合いに出されます。
だから「さえ」に注目すると、主人公が何を極端だと思っているかがわかります。
極端さはボーダーラインのぎりぎりのところにあります。今回ではその評価軸は大切さ、です。
つまり今回は「さえ」に注目すると主人公が自分らしさを大事に思っている(のにそれを軽率に手放してしまう自分を嘆いている)、という一段遠くが見えるようになるのでした。
助詞に注目するとそういうことがわかるから楽しいですね。
Official髭男dism『異端なスター』でした。
前回はEve『僕らまだアンダーグラウンド』について考えつつ、助詞ではなくて副詞について考えていました。
こちらもよければ併読してほしい〜!
Official髭男dismの歌詞は肌に合うから好き。
いままでにもこんな感じで考えてきましたのでこちらもよければ!
hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com hacosato.hatenablog.com
