5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

ギャップを乗り越える瞬間 - まふまふ『女の子になりたい』

まふまふ『女の子になりたい』の歌詞の話をします。

この曲の冒頭はこういう感じ。

ねえ 女の子になりたい
お願いいいですか?

ねぇ策士すぎませんか? かわいいんだが??

さて、いまさらわたしが言うことでもないですが、歌っているまふまふさんは成人男性です。

かわいく歌えばかわいいのに、いままでどストレートにそれを取り上げていかないスタンスでずっと来ていたまふまふさんですが(それはそれで需要ある)、この曲でいきなり直球かわいいを投げてきたよね、というのがわたしの所感です。ちがうかもしんないけど。

でもこの曲のすごいところは、そういうコンテキストに裏打ちされたところだけではないんですよ!

って話を今日はします。コンテキストの話はわたし不得意だからね……。

まふまふ『女の子になりたい』歌詞

冒頭のたった2行で勝利を収めるコンテキスト

さて、改めて引くんですけど、冒頭の歌詞はこういう感じ。

ねえ 女の子になりたい
お願いいいですか?

たったこの2行で、この曲のテーマがわかる、というところがまず注目ポイントです。

この曲を聴く人は、聴く前に「【MV】女の子になりたい/まふまふ」というタイトルを目にすることが多いはずで、まふまふさんがどんなひとだか知っている人だったら既に述べたようなコンテキストがわかっているはずなんですよね。

そうすると、冒頭の2行でこの曲のやりたいこともほぼわかるのだと思います。

まふまふさんはしばしば自分でネタにするように成人男性だけど、今回ついについにつーいーにかわいい楽曲を歌いやがったぞ、というように。

そのコンディションを整えて、この歌詞があるだけで、もうこの曲“勝って”いるんですよね…🏅

いまから一般論の話をします。

音楽って聴かれる場所によって、それに合わせた表現があると思うのです。

たとえばRADWIMPS『前前前世』の場合。

冒頭にたっぷり20秒のイントロがあってから、冒頭の歌詞はこうです。

やっと眼を覚ましたかい それなのになぜ眼も合わせやしないんだい?
「遅いよ」と怒る君 これでもやれるだけ飛ばしてきたんだよ

正直、この2行だけでは歌詞のシチュエーションはつかめないと思うのです。

だけど、それはまったくだめなことではありません。

この曲は『君の名は。』という映画の主題歌になっていて、映画を観るひとが映画の文脈と合わせてこの歌詞を聞き取るはずなので、その状況を踏まえるとこの感じで正しいと思うのです。

あとそもそも、「やっと眼を覚ましたかい」の部分で、自分は眠ってたけど相手は起きていたっぽい…ということがわかります。

そうだとすると自分をおいてけぼりにして相手がちょっと前のめりに進んでいく感じは、むしろ状況とぴったり合っているよねというのがじわじわ感じられる仕掛けになっています。よくできてる〜〜!

しかし、まふまふ『女の子になりたい』はそういうタイプの聴かれ方をするのではありません。

ニコニコ動画YouTubeに動画として配信されるものです。

そういうサイトには、ほかの動画というライバルがめちゃくちゃたくさんいて、まふまふさんといえどもライバルを相手にして動画を見て聞いてもらわないといけません。

そのためにはできるだけ早く、視聴者のハートをつかんでおきたいんですよね。

そこへ来てこれです。

ねえ 女の子になりたい
お願いいいですか?

ここまで開始から6秒。手際がいい…。

サブスクや動画サイトで音楽が聴かれるようになってから、イントロの時間は短いほど好ましくなった、みたいな話はよく聞きます。

わたしはこの話は半分信じてない(手早く聴き手のハートを奪わないといけないのは、路上ライブとかでも同じでは?)のですが、でもこの曲の手際のよさはやっぱりいいなと思うんですよね〜〜🎶

なりたい自分になる

さて、そんなわけでたいへん手際のいい導入だったわけなのですが、続くAメロはこういう感じ。

チョコレートの森をくぐる
オレンジかぼちゃの馬車
乗せられて 連れられて
ミルク色のお城

「童話の中のヒロイン」とのちに出てくるように、最初は「なりたい」の内容が歌われています。まあそうなるよね。

っていうか『女の子になりたい』というタイトルがあったら、どんな風になりたいかを歌うのは必然という感じ。

あとはたぶん、なりたい理由が出てくるはずのところ。

という予想でBメロも見てみます。

ナイショの気持ち ホントの気持ち
ちょっと話しちゃおう
ワンツースリー 魔法をかけて
新しいボクになりたいのです お願い!

理由じゃなかった。手段だわ。

じゃあサビは?

やっぱりボクも可愛くなりたいな
あの子みたく可愛くなりたいな

再現部だわ。

というわけで、この曲にはなりたい理由のようなものは、なかなかはっきり出てきません。

もしかして理由はないのか?

そうも思うわけなのですが、2番Bメロで意外な要素が描かれます。

この曲の歌詞に奥行きを持たせている、わたしのとても好きな部分です。

大人になれど下がらない
可笑しな声のトーンと
何しても 何しても
うまくいかない今日だ

これは過去のエピソード。名前をつけるなら、経緯です。広義の理由と読んでもいいかも。

この部分、とってもいいと思うんですよね。

主人公は少年のころは少年らしい高いトーンの声だったのだと思います。

そして、大人になったら声が低くなるだろうと予期していたのでしょう。

しかし、大人になっても下がらない声のトーンに、違和感を覚えています。

これって、理想である自分と実際の自分との間に、ギャップを感じているということだと思うのです。

本当は大人の男性らしく低い声でありたいのに、実際の自分がそうならない、という悩みです。

何しても 何しても
うまくいかない今日だ

それを、実際の自分のほうを矯めることによってなんとかしようともします。でも、そんなのうまくいくはずありません。

ならば!
束の間でも夢の中に
ボクを見つけてみようかな
少しだけ 少しだけ
変われる気がする

「ならば!」と主人公は発想を変えます。

自分の声のほうに、なりたい自分を寄せる方針を思いつくのです。

これってアイデンティティの話なんですよね。

そこには理想と現実のギャップがあって、悩みがあって、でもギャップを乗り越える瞬間がこの曲には描かれています。

それがとてもとても魅力的で、そういうところがだいすきな曲なのでした。


ということで、まふまふ『女の子になりたい』でした。

まふまふさんは「なりたい」の曲をいくつか書いています。『リア充になりたい』もそのひとつ。

hacosato.hatenablog.com

こちらもアイデンティティの話だと思うんですよね〜〜。

After the Rainも1曲だけあります。

hacosato.hatenablog.com

こちらもよければぜひ読んでほしい〜⏰

ところできょうはまふまふさん、東京ドームで無観客無料配信ライブやるんですよねやば……

『女の子になりたい』もやるかな〜やるといいな〜〜👠

女の子になりたい

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