なんかつよい気持ちがあって、それを強調したいとき、どんな言葉を選んだらいい?
その表現の最前線の一端が歌詞にはあります。
だから歌詞観察たのしいんですよね。みんなも歌詞たくさん読んでほしい!
そんなわたしから今回プレゼンしたいのは強調の表現。
「very」にあたる単語、日本語でも「とても」は大正時代くらいまで「とても〜ない」の形でしか使わなかった新参者だし、ここ25年くらいに限っても首都圏で「超」が流行って、さらに関西で「ごっつ」を押しのけた「めっちゃ」が首都圏にまで広がって「超」を圧迫してたりで、とても不安定ですね。
— LingLang@言語学好き (@linglanglong) 2018年11月28日
もともと強調の表現にはバリエーションがたくさんあって、しかもすぐに古びてしまうからどんどん新しい表現が生まれます。
新陳代謝が活発な分野はジャンルを問わず見ていて楽しいんですよね〜!
君はかわE 越して かわF やんけ!
魅力、溢れてこぼれるやんけ!
今回は「かわいい」の表現の強調に特化したヤバイTシャツ屋さん『かわE』がたのしいよ!ってお話です。
その気持ちに名前をつけてよ
関ジャムとかにもたびたび登場している作詞家のいしわたり淳治さんは、名前がなかった気持ちに名前がつくような歌詞がよい歌詞だ、という趣旨のことを繰り返し言っています。
これ、いしわたりさんが使っていたたとえなんですが、LINEスタンプのことを想像してください。
わたしたちの日常の会話の中で「ありがとう」や「了解」を伝えたいシチュエーションは、とても頻繁に起こります。
そういうとき、LINEで会話していたとしたらわたしたちにはスタンプを押すという手段があります。
スタンプが私たちの気持ちを代弁してくれるから、文字だけのコミュニケーションに彩りが生まれます。
そんなスタンプの代わりになるのが、よい歌詞だということです。
「ありがとう」を伝えたいときに「ありがとう〜って伝えたくて〜」って口から出てくるなら、それは「ありがとう」の代わりに使えるよいスタンプです。
花束を贈りたいときに「愛をこめて花束を〜」が口から出てくるのも同じです。
こうしてひとびとの口に住み着いて、いざってときにぱっと出てきたらそれは定着のしるしだし、たくさんの作詞者はそこを目指しています。
さて。
わたし、“かわいい”をもっと強調する語彙を求めています。
証拠はこちらをご覧ください。
そんなわたしに、この歌詞ですよ!!
名前がなかった気持ちに名前がつくような、マネしたくなる、自分で使いたくなる表現こそが、人気の歌詞にはつきもの。
— ハコサト📦 (@hacosato) 2018年11月21日
そんな話をある作詞家のかたが言ってたよ。この曲がまさにそれ!
かわいい、をもっと強めたいときの表現は何がいい?
かわE/ヤバイTシャツ屋さん #utanet https://t.co/irAyfFnqNG pic.twitter.com/0qemfm19Ud
君はかわE 越して かわF やんけ!
魅力、溢れてこぼれるやんけ!
恥ずかC 越えて 恥ずかD やんけ!
気持ちE 越えて 気持ちF やんけ!
EがランクアップしてFになり、CがランクアップしてDになるんですね! 理解した!!
わたしはこの歌詞を見て、一瞬で内容を理解したし、これめっちゃ使えるやん、って思いました。使い勝手E。いやF。
こうしてわたしは、“かわいい”をもっと強調したい気持ちに新たな名前をつけ、果てしないインフレの旅へと歩みを進めるのでした。
プライドを捨てて、利便性を取ってよ
ところでわたしヤバT好きなんですけど、去年こういう曲がありました。
あれ?なんかちょっといい感じやん? 君ら相性あっちゃう感じやん?
やっぱり出会いって奇跡やん? 運命とか信じるタイプやろ?
ウチが取り持ってあげる!
ノリで入籍してみたらええやん 君らお似合いやん それハッピーやん
二人 これから一生ずっと 一緒に居ろや 速攻、婚姻届 役所に届けよう
入籍してみたらええやん 後のことは責任取らんけど
きっと上手くいくよ 何となくそんな気がしてるんだ
という感じで、(わたしの見立てが合っていれば)いい感じのふたりを冷やかして付き合わせようとする、っていうような曲です。
いままでこういうテーマの曲はほかにあんまりなさそうだし、いい感じのふたりを冷やかして付き合わせようとする、というシチュエーションにおいては最強スタンプです。
だけどこの曲には照れ隠しがあります。
この曲にはこういう場面があるんです。
入籍してみたらええやん 多分2年以内に別れると
心のどこかで 思っているけど秘密にしておくね
ということはどういうことかというと、この曲ほんとうの結婚式には使えないのです。 2年で別れるとかふつうに縁起悪すぎじゃん。
これ、わたしはわざとだと思っています。結婚式なんてマジメで退屈なところあるし、そういうところから降りるほうが自由だからです。
でも一方で『かわE』はちがいます。
あーあ 焦ったフリしてだらりと過ごしていたら 運命の出会いさ
あんたに出会ったんや ちゃんと 気持ち伝えへんといけへんなあ
「だらりと過ごしていた」りして、気を抜いているけれど、でも「運命の出会いさ」「あんたに出会ったんや」とまっすぐに歌います。
甘くて ぬるくて くさって とろけそう
王道ラブソング 照れくさいね
覚悟を決めて 歌ってみたいけど
まだふざけていたい ギリで歯向かう
それっぽい言葉 それっぽく俺が
並べても 伝わらないから 今日は
アルファベットを使った古典的な表現で挑む 最後の平成
「まだふざけていたい」とひねくれて、「古典的な表現」と自虐するけれど、でも結局、最後まで「かわE」が「かわいい」であることを降りません。
「ほんとはかわD(かわE未満)だけどね」とか言うこともできたのに。
「かわZ(安易なインフレ)だわ〜」とか言うこともできたのに。
でもヤバTは、今回はそういうことをしません。
こうなっていることによって、この曲はほんとうの告白にでも使えるようにできています。
これが、前回の『ハッピーウェディング前ソング』とはぜんぜんちがうところです。
前回の曲も能天気だしたのしくてだいすきだけど、今回の歌詞のこういうところ、わたしはとってもいいと思います。
ひねくれたりしないことによって、安心して「かわE」のスタンプを押すことができるから、です!
ヤバTは照れを捨てたことで、こうしてめっちゃ便利なスタンプに仕立てることができたんですね!
ヤバイTシャツ屋さん『かわE』でした。
ところで「かわE」という表現自体はヤバTが生み出したものではなさそうです。
今回わたしが探してみた感じ、2011年7月までさかのぼることができました♪
【補足】「かわE」のようにあらかじめ「C」ランクを越えている表現の場合、「かわF」のような使い方ではなく「かわD」のように用いることでかわいさのレベルをやんわり下げられますので便利です(かわD/そこそこかわいい、かわB/どっちかというともうブス寄りです、かわA/おせじです)
— ERI KIKUTA (@eri_kikuta) 2011年7月14日
解説風のツイートありがたい…Twitterは現代の閉架書庫として末長く健康でいてほしいと思ってるよ…!
次回はBUMP OF CHICKEN『記念撮影』の歌詞の話をするよ!