5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

SOUR『日々の音色』

-カラフルなとまどい?-
こんにちは。雨上がりが大好きなhacosatoです。雲がびゅんびゅんするような雨上がりだとなおよいですね。とはいえ、これから冬になると私の住むあたりでは雨は少なくなるわけなんですが。ちなみに冬の雨は嫌いです(ぉぃ)。
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さて、今回はSOUR『日々の音色』を取り上げようかなと思います。私よく知りませんでしたが、1年半前にリリースされて、すごく評判になった曲だったようです。評判になった理由は、ネットで調べてみればすぐにわかります。MVがすごすぎなのです。私はコトバを使って映像を語ったりできないので、ぜひ見てみてくださいね。

…ってわけ。
さて、この動画、いろんなブログとかからリンクされてるっぽくてネットで調べればほんとたっくさん見つかるわけなのですが、だいたいの論調はこうなのです。
「音楽もさることながら、MVがステキすぎ!」
でも、MV以外の面からこの曲を語ってるトコって実はほとんどないみたいなのでした。
特に、歌詞についてはね。
というわけで、このブログではいつもの通り、この曲の歌詞を読んでいこうと思います。一読して思ったのは、なんて透明感なのっ!ってこと。この透明感はどこから遣ってくるのでしょうね。音づくり? それもあるかも。じゃあ、歌詞の中から引用するなら、どこでしょう?
歌詞はこちら→http://listen.jp/store/artword_1173674_94991.htm
初めて歌ネットに歌詞が載っていない曲を取り上げる運びです。すごい!
構成はこちら→サビ-A-A-サビ-(間奏)-サビ-サビ-アウトロ

透明感のある歌詞

この曲、少なくとも単語の選び方にはすごくポリシーを感じます。具体的にいうと、光と水を想起させる単語がたくさん選ばれています。縁語を積極的に用いる曲っていったら、ここまで取り上げてきた中だったらポケットビスケッツ『Red Angel』とかが該当しますね。この曲だったらどうでしょう。ちょっと拾ってみると、

音色、鏡、色付く、色眼鏡、何色、虹色、輝く
水たまり、氾濫、波間、澄んだ

っと、こんな感じになりそうです。え、あんまり多くないって? 確かに表面上はそう見えるかもしれませんが、この曲の歌詞をよーく読んでください。単語そのものがそんなにたくさんないのです。歌詞には同じフレーズが繰り返しリサイクルされている中で、割合でいったらこれはかなり多いレベルだと思います! なお、体言全体に占める上記の単語の割合を調べようかなとちらりと思いましたが、大変なのですぐに挫折したことはヒミツにしてください。
せっかくなのでちょっと踏み込みますが、

ReggaeDubHiphopTechnoLatin氾濫する価値の波間に

って部分がAメロにあります。ここ、前半は語感を重視しつついろんな音楽のジャンルを挙げているわけです(「ReggaeDub」がすごく気持ちいいので口ずさんでみてください♪)。ここでは、「価値」がいろいろあるよね、っていうことを伝えたい個所なのでしょうね。でもそのあとがすごいです。
だって、「氾濫する価値の波間に」です。「氾濫」っていったら川とかが洪水になることですし、波間っていったら本来は波の間を指す言葉。どちらも水に絡めた縁語になっていますが、ここはこの言葉である必然性が本当はなかったのです。「氾濫する価値の波間に」は「多様な価値の間に」っていう歌詞でもよかったはず。
そこを、あえてアクアな単語でかためてくるところに、ただならぬものを感じちゃうのです。というわけで、私も真似して水分の多い言葉を使おうと思いますので、これからもよろしくお願いします♪

歌詞も曲調も図鑑型

さっき聴きながら構成をまとめていて思ったんですが、この曲、メロディの変化がかなり淡いですよね。と同時に、歌詞の変化の波も小さめです。


このブログでは、歌詞は物語型と図鑑型に分類できることがあると思っています。物語型っていうのは、歌詞の世界がどんどん変化して、それがひとつの物語になるような歌詞。図鑑型っていうのは歌詞の世界は変わらないままで、ひとつの状態をいろんな面から描くような歌詞。これについては、YUKI『COSMIC BOX』んときとかに語ってるのでよければどうぞ。
そういう意味では、この曲はとっても図鑑型なのだといえます。根拠はたくさん見つけられますけど、分かりやすく最初の1行と最後の1行を引用してみましょう。

そっと 水たまり鏡に写る心は 日々の迷路抜けた君の音色

これが1行め。

日々の迷路抜けて 奏でる君の音色

これが最後の行。ほら、意味がほとんど同じ。そして、「日々」と「」の押韻がパーフェクトです☆ ioioの流れがキレイですね。
じゃあ、前半のちょっとを聴けば後半は聴く価値のない退屈な曲なの? 違いまーす。
この曲の歌詞には、前半にいくつか疑問形がありますよね。後半でそれに答える仕組みになっているみたい。そんな風にして対話の仕組みができているから、読んでたってちっとも退屈なんかじゃないのです。

大切なものは 何?

あれやこれ 何色のメロディー?

いま何を思うの?

疑問の個所を連続して挙げてみました。それぞれ違うかたちに見えますけど、実際にはたぶん、中身は同じ内容です。だって全部「君の音色」のことを聞いてるし。

カラフルは困ることじゃない!

さっきの疑問文のうち、

あれやこれ 何色のメロディー?

これを考えてみましょう。なぜって、一番とっかかりやすそうだからです。
メロディーが何色か分からなくなってるみたいですが、それって2つの可能性が考えられます。

  • そもそも色が見えない。
  • いろんな色が見える。


数学でいうと解は不能不定っていう言葉と符合するんじゃないかと思うけど、自信がないから書かないでいようっと。あれ。
…と、可能性としては2つあるわけですが、この曲では答えは後者ですよね。だって、そのひとつ前の連で、「氾濫する価値の波間」におぼれそうになってたわけですから。いろんな色の波にもまれて、メロディーの色を見失ってしまっている、と考えるのがきっと自然です。
そういえば、当該の部分の1行前に「まわりまわる」って部分もあります。色ってほら、色相環があるように輪になって表現できるものです(色相については、という断り付きですが)から、私の頭の中で色相環がぐるぐるに回って結局どれなのー?って感じになってきました。この状態を表す言葉がさっきの直後にあります。「とまどう」です。まさにしっくり。
ところが4連には、

全ての違いを受け入れたら 虹色に輝く空を射す

という部分が登場します。あれっ? さっき出てきたいろんな色も、いろんなジャンルの曲も、「氾濫する価値」も、みんなネガティブなイメージじゃなかったんだっけ。…実は、そうではなかったみたい。それを「全ての違い」とひっくるめて、直後に「虹色に輝く空」をつなげちゃうのです。これ、どう考えてもポジティブな表現ですね。
間奏明けには、もっと具体的でストレートな表現が登場します。

何色にも見えるのは澄んだ気持ちのせいだ 気にすることなんかないよこのままゆこう

この歌詞の中でダントツに長い1行がこれです。今までぐるぐる回る色にとまどっていたけれど、それを「気にすることなんかないよ」と言ってくれているのです。いろんな色に見えることは、別にネガティブなことじゃなくて、気持ちが澄んでいる証拠だと励ましてくれているんですね!
と、ここまで私は、価値が途中から転換したかのような言い方をしながら書いてきました。そのほうが書きやすいからなんですが(汗)、ほんとうは価値が途中から転換したりは、してません。最初からこの曲は、カラフルなことをステキなことだと描いています。だって、

あれやこれ 何色のメロディー? とまどう時も

です。リアルタイムでとまどっていたら、とまどう“時も”とは、ならないはずだと思いませんか?
この疑問と答えはリアルタイムで発せられたものではありません。さっき私は、「じゃあ、前半のちょっとを聴けば後半は聴く価値のない退屈な曲なの? 違いまーす。」ってクサい自問自答をしてみせましたよね。これと同じで、この曲の疑問文は疑問の時点ですでに答えが想定されているのです。
そして、この章の最初で取り上げた疑問、6連の最後にはこうなります。

何色にも見えるのは澄んだ気持ちのせいだ 虹色に輝いて 君の音色

「君の音色」は、カラフルな輝きになって私たちの目のところまで泳いでくるんですね!

つながリンク

さて、前回の曲、RCサクセション『雨あがりの夜空に』とつながりましょう。前回の曲との共通点は、雨上がり。両者の雨上がりはどんな風に違う描かれ方をしているのでしょう?
RCサクセション『雨あがりの夜空に』のほうからいきましょう。

この雨にやられてエンジンいかれちまった
俺らのポンコツとうとうつぶれちまった

と始まるこの曲、雨に打たれてネガティブな気持ちにさらされているところからスタートします。その後、歌詞は進み、雨は上がるわけなのですが、気持ちまで晴れ渡るまでにはいきません。天気と気持ちってシンクロしがちですから、天気がよくなったら気分だってよくなるのが常。…というところを逆手に取って、雨上がり“なのに”こんな気持ちだぜと描くところにこの曲のツボがあるんじゃないかな。そんな風に読んだ一曲でした。
さて、『日々の音色』は曲のつむじからつまさきまですっかり雨上がりの色をしています。虹もちらほら見え隠れ。その状況は、

あれやこれ 何色のメロディー? とまどう時も

と、とまどいを生むようでもあります。でも、違うんだな。そのカラフルさをそのまま受け入れていいんだよ、そういうメッセージをこの曲は連れてきています。雨上がりの世界の、いろんな色がきれいに見える状況をこの曲は借りてきているわけなのですね。
たとえば「雨上がり」が出てくる詩を書いてください、っていう宿題とか出たとしましょう。私だったら雨が降ってゆううつだったけど、雨が上がったら気分も晴れやかになった、っていう流れの詩を書いちゃいそうです。J-POPの歌詞の中でも、たぶんそういう曲が一番多いんじゃないかと勝手に予想しています。でも、この2曲はどっちも違いますね。『雨あがりの夜空に』では、そんな紋切り型の捉え方を逆手に取ることで、ネガティブな気持ちをよりぐっとくるかたちで私たちに突きつけてきます。『日々の音色』では雨上がりの世界が持っている時間軸をわざわざ無視して、止まった世界を写真みたいにきらきらさせて捉えてきます。どっちもすごいなぁって思いますよね。



ということで、SOUR『日々の音色』でした。
SOURは今度、12月8日にニューアルバム「アンサンブル」をリリースするみたいです♪ そのアルバムにこの曲は…
入ってないわけなんですが(汗)。ひとつ前のアルバムに収録があります。よければぜひそちらも。
それにしても、今年の後半は私の好きな歌い手さんのアルバムが続くなぁ。BUMP OF CHICKEN[asin:B004A15KUK:title]」とかもそうだし。こゆのを知っていながらリアルタイムで聴こうとしないところが、私の悪いところなのだろうと思いますです。直さないけど。
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アンサンブル

アンサンブル

  • アーティスト:SOUR
  • N5-nest /zenith
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