5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

更新されつづける“会いたさ” - 西野カナ『会いたくて 会いたくて』


今回は西野カナ『会いたくて 会いたくて』の歌詞を考えます。

会いたくて 会いたくて 震える
君想うほど遠く感じて
もう一度聞かせて嘘でも
あの日のように“好きだよ”って…
インパクトのある重たい歌詞が、すごく有名だし、それゆれよく叩かれたり揶揄されたりする歌詞です。逆張りエントリもたくさんあります。
今回私は、逆張り気味のことを書こうと思います。この曲は、会いたいという気持ちの重さを、すごく効果的に描いていると思うのです。

西野カナ 『会いたくて 会いたくて』歌詞(歌ネットへリンク)

「震える」ほど会いたいって、どれぐらいの強さ?

今日は記念日 本当だったら
二人過ごしていたかな
きっと君は全部忘れて
あの子と笑いあってるの?
1連を引用しました。「本当だったら/二人過ごしていたかな」という反実仮想の部分から、ふたりは「会っていない」ということがわかります。この曲の主人公はひたすら「君」に会いたいと歌っていますが、それは主人公が「君」に会えていないからです。
この曲のテーマは、会えない「君」に会いたい気持ち、です。この曲はいろんな手練手管を使って、その“会いたさ”をアピールします。今回のこの記事のテーマは、その手練手管を味わうことです。
最初は「震え」に注目してみましょう。
この曲の「会いたくて 会いたくて 震える」という部分は、この曲のキーになるのと同時に、揶揄されがちな個所でもあります。
会いたくて会いたくて震えるコピペ|My dearest
だからこういうことになりがち…。
でも、会いたくて震える、という表現は、従来あまり使われてこなかったし、すごく特徴的で、会いたさがよく伝わる表現です。
ここで、国立国語研究所のNLBを使って、コーパスを調べてみましょう。
これを使うと、今まで日本語で書かれた小節や新聞記事やブログの文章などから、条件に合う言い方にどんなものがあるのかがわかります。「動詞+て震える」コロケーションは44種類ありました。この中から最初のひとつを抜き出すと、こうです。
「亮成丁は青くなって震えている。」(酒見賢一著 『後宮小説』, 1989, 913)
「て震える」という言い方のひとつとして、「亮成丁は青くなって震えている。」といった用例があることがわかります。
すべて引用すると数が多いので、今回はこの中から、2001年以降の用例をリストアップしました。以下のようになります。
    宿の人たちは青くなって震えている。(曽我部泰三郎著 『二十世紀の平和論者水野広徳海軍大佐』, 2004, 289)
    真っ青になって震えている男を尻目に、(小宮卓監修 『耽溺』, 2004, 913)
    女よりも男の方が真青になって震えていた。(小宮卓監修 『耽溺』, 2004, 913)
    井原だけではなく、祐美子も真っ青になって震えている。(綺羅光著 『美虐』, 2002, 913)
    牛尾が訪ねて行くと、予備校生は蒼白になって震えだした。(小説宝石, 2001, 文学/芸術)
    久美子が指さしたのは、真青になって震えている福井だった。(赤川次郎著 『その女の名は魔女』, 2004, 913)
    アペルは、敵艦の主砲の威力の凄まじさを前にして震えていた。(竹内誠著 『太平洋最終決戦・不沈空母「硫黄島」』, 2002, 913)
    私はぼうっとして震えながら血だらけのハンカチで頭を押えているフランシスのところへ、様子を確かめるためにひきかえした。(リチャード・レイナー著;吉野美恵子訳 『天使の街の地獄』, 2001, 933)
    靴を脱ぐのももどかしく、二階の自分の部屋へ駆け上がった圭子は、ベッドの中に潜り込んで震えた。(谺健二著 『赫い月照』, 2003, 913)
    伽奈は蒼ざめて震えはじめた。(多島斗志之著 『症例A』, 2003, 913)
    康幸は腰をやや浮かせて震えだした。(葛西涼著 『姉の濡唇、妹の幼蕾』, 2001, 913)
    布団を被って震え続けていると、何か幽かな異臭が鼻を衝き、圭子はそっと身を起こした。(谺健二著 『赫い月照』, 2003, 913)
    ズーッと裸足で走って家に帰って、自分の部屋でカギかけて布団かぶって震えてた。(千葉紘子著 『あした、青空』, 2003, 368)
    緊張して震える(Yahoo!ブログ, 2008, 芸能人、タレント)
    去年の冬なんか、昭二は十二月になっても秋物の薄いジャケットを着て震えていた。(宮部みゆき著 『模倣犯』, 2001, 913)
    彼らが、自分の教室でこの本を開いて震えながら読んでいる姿や深夜一人でビデオを見ている姿を想像すると、私も涙が出そうになってきます。(川合正著 『いま、子供たちが変だ』, 2001, 379)
    アニーは料理を押しのけて震えはじめた。(パトリシア・ローズムーア作;伊坂奈々訳 『二人のあなた』, 2003, 933)
    かじかんで震えててもおつりが落ちないように手を添えてくれたり、荷物が多かったときに「もしよかったら、使いますか?(Yahoo!知恵袋, 2005, 本、雑誌、コミック)
これを見ると、「て震える」という表現は、非常に強い心理的な感情を伴うときに使われることがわかります。一番多いのは「真っ青になって震える」系。私は医療は素人ですが、顔が青くなるとか、きっと生理的にヤバいことはだいたいイメージできます。
それ以外の用例でも「足元もさだまらないまま」というような茫然自失の状態や、「靴を脱ぐのももどかしく」というじれったい慌てた気持ちが見て取れます。
どんな文脈なのかよくわからない「康幸は腰をやや浮かせて震えだした。」も、さらに前後を見ると
「あっ、あっ…も、もうダメだよ、茜さん!」  康幸は腰をやや浮かせて震えだした。  尻の筋肉がつりそうなくらい強張り、もう息をするのも辛くなっている。
となっており、謎は深まるばかりですが、大変なことが起きているのはさすがに想像できます。
ここに「会いたくて 会いたくて 震える」という用例が並ぶと、その特徴が際立ってきます。従来、会いたい気持ちは一般に、震えるほどではなかったのです。「震える」という言葉は、もっと心理的にも切迫したときだけに使う表現でした。
それを「会いたい」って言葉とコロケーションさせたことは、この曲の発明だと思います。
「震えるほど会いたい」という表現は、私たちが知っている会いたさの度合いより、ずっと強いことを伝えられるのです。

メロディとコードに見る“会いたさ”

次に、メロディとコードに注目してみます。
この曲のサビの部分の一部を楽譜に起こしてみました。

まずはメロディ。
この部分の前半は「会いたくて/会いたくて/震える」という、3つの文節でできています。
メロディは、この3つの文節に合わせて、ゆるやかなカーブを描いています。曲と歌詞がシンクロしているから、聞き取りやすくて、感情がこもりやすいイメージがあります。
でもこの3つの文節は、似たり寄ったりのメロディに乗っているわけではありません。歌い出しの拍が違います。
最初の「会いたくて」はアウフタクトです。4拍めの最初に歌い出しがあります。
次の「会いたくて」もアウフタクトですが、さっきよりも8分音符ひとつぶんだけ遅く始まります。
最後の「震える」はアウフタクトではありません。小節の始まりに合わせて単語も始まっています。
こんな風に、この部分は、単語の始まる位置がすべて違えてあるのです。
こういう曲を聴いて、私たちは、それぞれの単語を違う側面から突きつけられます。「会いたくて」や「震える」という言葉を、いろんな切り口から聞かされます。私たちは、通り一遍じゃない「会いたい」主人公の気持ちをこうして知るのです。
みんながこの曲に食傷してしまうのは、きっとこのためです。でも食傷させるぐらいの強い気持ちが伝わるこの表現は、ほんとに非凡です。
それから、コード進行に注目しましょう。
この曲のコードはほぼすべて「サイクル・オブ5th」というコード進行で成り立っています。
サイクル・オブ5thとは、強進行だけで構成されている進行です。非常に基本的で力強く、聞いていてすごく自然な感じがします(正確には減5度の部分が1個所あるのですが、ドミナントスケールから外れないので、大勢に影響ありません。)。
コード進行が当然な顔してぐいぐい進行するから、私たちはその強引さに浮かされてしまいます。「会いたい」という気持ちが「震える」ほどなのは、今までの私たちの感覚だとちょっとありえないものでした。でもこんな力強い必然性のあるコードに乗っていると、なんだかその「震える」ような気持ちも、必然のような気になってしまうのです。
この曲の歌詞とメロディは、こうやって補完し合って、強大な“会いたさ”を私たちに運んでくるのです。



というわけで、西野カナ『会いたくて 会いたくて』でした。
西野カナはいままで2回読んだことがあります。

西野カナ『GO FOR IT!』 - 5日と20日は歌詞と遊ぼう。

西野カナ『if』 - 5日と20日は歌詞と遊ぼう。
特に『GO FOR IT!』は好きな曲だし、読みも気に入っているので、よければお読みください。
ところで、この記事は『コード進行スタイル・ブック』を片手に書きました。
決定版 コード進行スタイル・ブック

決定版 コード進行スタイル・ブック

コード進行について安直に後ろ盾がほしくなる私にぴったりの本です♪

前回ゴールデンボンバー『ローラの傷だらけ』に続き、今回も歌詞の内容にはほとんど立ち入りませんでした…。次回はちゃんと歌詞を「読みます」ので、今後ともよろしくお願いします。

↑PCからクリックすると「Love Collection ~mint~」の全曲を高音質で連続再生試聴できます♪ 楽しいよ〜。
会いたくて 会いたくて

会いたくて 会いたくて

次回予告:次回は一青窈『もらい泣き』の歌詞を取り上げます。「もらい泣き」って、泣いてるわけじゃないと思うんです。次回はそれについて書きます。お楽しみに。

この文章は、国立国語研究所とLago言語研究所が開発したNINJAL-LWP for BCCWJを利用しました。

広告を非表示にする