5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

西野カナ『if』

-偶然は偶然で、でもだからこそ-
こんにちは。今年は秋がないって本当ですかっ?
if
今回は西野カナ『if』を取り上げてみたいと思います。これまでのこのブログでの選曲を見ていただけると私がどんな曲が好きなのかなんとなく傾向がつかめるんじゃないかと思います。どうぞご覧ください。
で、翻って今回の選曲は西野カナ『if』です。これまでの流れを踏まえると、西野カナがいかに異質な選曲か分かっていただけるんじゃないでしょうか。うん、ちょっと遠征してみたのです☆

いつも通りの時間に
バスが来てたなら
君とは出会うことがなかったんだね

1連の後半を引用してみました。君との偶然の出会いをかみしめるような歌詞の世界です。小田和正『ラブ・ストーリーは突然に』を私は連想しちゃいました。けっこう古い曲ですが(ってか私もリアルタイムでは知らないんですが…)、きっと耳にする機会はいまでも多い曲ですよね。出会ったのって偶然だよね、そういう想いをかみしめた名曲です。
あれ、ちょっと脱線した。でもふたりが出会ったのってどうしてなんだろう? 偶然なのかな? それとも必然なのかな? 出会わなかったとしたらいま私は(あるいは君は)なにをしているんだろう? なんて、恋愛中は考えちゃったりするんじゃないかなあ。
この曲の歌い手「私」は、偶然のことについてどう考えているんだろう? 今回はそんなことを考えながら、歌詞を読み進めてみることにしましょう。
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/user/phplib/view_0.php?ID=98467

構成はこちら→AA-B-サビサビ-AA-B-サビ-サビサビ-C-サビサビ

出会いは、偶然

もしも少しでも
あの瞬間がずれてたら
ふたりは違った運命を辿ってしまってた

2連、Bメロです。いきなり私の疑問に答えてくれる部分が登場。ふたりの出会いは、必然ではなくて偶然だった、って歌っています。
ふたりの出会い方って、偶然として描くこともできるし、必然として描くこともできます。そのどっちだったとしてもちゃんとロマンチックになれると思うし、どっちの立場でもちゃんとラブソングになると思うんです。でもこの曲は偶然派のラブソングなんですね。

同時にメールしたり
同じこと思ったり
赤い糸で引き寄せられてるのかも

2番のAメロです。私は赤い糸に注目しました。
Wikipediaによると、「いつか結ばれる男と女は、足首を見えない赤い糸(赤い縄)で結ばれているとされる」ってことになっています。「日本では、「足首の赤い縄」から、「手の小指の赤い糸」へと変わっている」とも追記されているように、私たちは赤い糸っていったら、いつか結ばれる運命のヒトとは、見えない糸で“あらかじめ”つながれているっていうイメージを持っているはずです。西野カナだってぜったいそういうイメージは念頭にあるはずです。
でもこの曲、

赤い糸で引き寄せられてるのかも

という歌われ方をしています。引き寄せられている? 結んであるんじゃないんですね。…ってことは、運命の赤い糸は「君」が引き寄せている、ってことですね! 見えない大きな力によってつながれているのではなくて、偶然に出会った「君」が運命の糸を引いているのです。運命の赤い糸という“必然”の世界のモチーフを使いながら、それを“偶然”の世界のラブソングに仕立て上げてしまうところがステキです。

「いようよ」と「いたいよ」の違い

サビはひたすら2つのパターンを繰り返しています。第3連でそれが最初に出てきます。

君と同じ未来を
ずっといっしょに見ていたい
同じ星を 同じ場所で
見つめていようよ
君の描く未来に
私はいるのかな
同じ空を 同じ想いで
見上げていたいよ

こんなサビです。
見ても聞いても明らかですが、この部分は前半と後半に分かれています。同じメロディ、似た歌詞が2つセットになっていますね。前半と後半で分けてみていきましょう。
まずは前半。

同じ星を 同じ場所で
見つめていようよ

とあります。ふたりが斜面の芝生のようなところでとなり同士に並んで、満天の星空を前にしている、そんなイメージが頭に浮かびます。ふたりは同じ場所に座っているし、同じ星を見ているんでしょう。それは「私」が横目でちらりと「君」を見るだけでも確かめられる、カンタンな事実です。
じゃあ、後半はどうでしょう。

同じ空を 同じ想いで
見上げていたいよ

こう歌っていますね。イメージするのはさっきと同じ絵でOK。でも、歌詞の内容はちょっと違います。同じ空を見上げるのはカンタン。でも、「同じ想いで」見上げているかどうかって、確かめようがないのです。空を見ながら、となりにいる「君」は私と同じことを考えているとは限りません。それはほんとうに不確かなことです。

前半、

同じ星を 同じ場所で
見つめていようよ

は、「いようよ」という終わり方。
一方、後半は

同じ空を 同じ想いで
見上げていたいよ

「いたいよ」という終わり方。
「いようよ」のほうは「きみ」への語りかけの体裁をとっているのに対して、「いたいよ」のほうは自分自身の願望を表していますよね。カタチとして見えるところは、ためらいなく、「君」への語りかけとして伝えることができるのです。でも、想いのように見えないものについては、「いたいよ」というように、自分自身の願望として表現するしか方法がないんですね。

過去の偶然×未来の不確かさ

偶然は最初から
もう決まってたみたいに
重なった二人は運命だって信じているよ

2番のBメロです。この部分が、これまでの私の読みを凝縮した部分かな?って思ったりしました。
「偶然は最初からもう決まってた」って断言しちゃってたとしたら、それって偶然などなくて、世の中は必然だけ説ですよね。でもこの歌詞は断言しちゃっていません。「偶然は最初から/もう決まってたみたい」というように、「みたい」が付いています。ということは、偶然はあくまで偶然という感触を歌い手は持っているんだなと分かります。

重なった二人は運命だって信じているよ

という部分だってそうです。「信じている」なんて言葉が付いているぐらい。その裏には、実際にはきっと運命じゃないんだろうという認識があるんだろうなと思います。でも、大事なのは実際がどうなのか、ではないのです。二人が運命だって信じていられるなら、それだけで十分なのです。二人だけの世界に、私みたいなヒトが外野からとやかく口出ししちゃいけないよね。
そんな風に、この曲では二人の出会いは偶然という考えで貫かれているみたい。しかも大事なのは、サビの部分で二人の未来すら不確かだという風に描かれているということです。過去は偶然でできているし、未来は不確かさでできているのです。
でも、不確かだからこそ、それを願っていたいんだろうなあと私は思います。だって、未来がすでに決まっているのだとしたら、今さら願う必要なんてなくなっちゃいますもの。そんな風な不確かさが、この曲のメッセージに力を与えてくれているみたいですね。

まとめ

前回はフジファブリック『若者のすべて』を取り上げました。前回の曲との共通点は「同じ空を見上げる」です。
『若者のすべて』の最後にこのフレーズが出てきますよ。

最後の最後の花火が終わったら
僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ

最後の連にこんな感じで出てきます。
この曲は、全体的に“終わり”のにおいがします。夏が終わり、花火が終わり、一人きりの「僕」が終わり、それとともに若者という時代が終わるのかな?というのが私の仮説でした。詳しくは前回の記事を見てくださいね。
この曲、「僕ら」という一人称が出てくるのは最後の最後の1カ所だけです。なぜなら、ここで初めて「僕」は会えるか会えないか分からなかったヒトに会えたからです。そして、ふたりで同じ空を見上げているとき、花火とともに浮かんでは消えるのは、若者だったふたりのそれぞれの思い出やエピソードのひとつひとつかもしれません。
さて、一方で今回 取り上げた西野カナ『if』では、

君の描く未来に
私はいるのかな
同じ空を 同じ想いで
見上げていたいよ

と、サビの部分で「同じ空を見上げる」が出てきます。ここで描かれているのはどんなことだったのかというと、同じ空を見上げているのに、同じ想いかどうかは分からない、という不安感です。だから「見上げていたいよ」という願望の表現でしか、この感情は上手に描けないのだと思います。
「空」と、その下に暮らす人々の表現が出てくるとき、このとらえ方ってけっこうよく出てくるような気が、私はしています。ちゃんと読み込んだわけじゃないですが、絢香『みんな空の下』なんかそんな感じ。空はひとつ、でもその下に暮らすヒトはそれぞれ、というイメージが空にはあるのかな?と思ったのでした。



今回はついついほかのいろんな曲を連想して、イメージがあちこちと枝分かれしてしまいました。まあ、ここにリンクを張っていない曲でも「わっ、なんか世界観が似てる!」って思った曲はまだいくつもあるんですけどね。すごく部分的ですが、大塚愛『ユメクイ』とか。大塚愛の曲は『I ♥ ×××』なら過去に取り上げていますのでぜひどーぞ。
西野カナのほかの曲をきちんと読み込んだわけではないので断言しきれませんけど、もしかしたら西野カナのバックグラウンドにはそんな風に、J-POPの過去のいろんな曲の積み重ねがあるのかもしれないですね!
では、また。
Thank you, Love

Thank you, Love

if

if

↑タップするとこのアルバムのほかの曲も全曲聴けます! 『会いたくて 会いたくて』『たとえ どんなに…』とか入ってます。