今回は、西野カナ『トリセツ』の歌詞の話をしたいんですけど、
この曲めっっちゃ最高じゃないですか!
西野カナ『トリセツ』歌詞(歌ネットへリンク)
この度はこんな私を選んでくれてどうもありがとう。こんな感じの歌詞。歌詞は、取扱説明書仕立てです。
ご使用の前にこの取扱説明書をよく読んで
ずっと正しく優しく扱ってね。
一点物につき返品交換は受け付けません。
ご了承ください。
人付き合いは大変です。違った環境で育ってきた異性同士ならきっとなおさら。
そんな関係に疲れてしまって、
「もう全員、初対面の人にわかるように自分自身の説明書用意しろよ! 会話の一発目で地雷とか踏んじゃうしマインスイーパーかよ!!(意訳)」
って言ってる人わたし見たことあります! はてなブックマークで見ました!!
というわけで、そんな男子の声を受けまして、真に受けてカナやんが書いてくれたのが今回の歌詞なのだとわたしは思っています。
世間一般的には、西野カナさんは重い…って風潮です。
でも最近の西野カナさんの歌詞は昔に比べたらとってもカラッとしています。
今回の歌詞もさらさらです。
今回はそのさらさらを味わってみたいです。
「私を」の数を数えながら
この歌詞はトリセツです。「君」が「私」を取り扱うときの説明書、です。
だからこの曲は「私が」とか「私に」とかの曲ではなく、「私を」の曲です。
ですが、この曲「私を」というフレーズは1個所しか出てきません。
この度はこんな私を選んでくれてどうもありがとう。最初の1行、これだけです。
トリセツなので、残りもたいてい「私を」についての文になっているはずなのに、そこはうまく隠されています。「私」って言葉すらあんまり出てきません。
ここで、ふつうの電化製品の取扱説明書を見てみます。
私が先日購入したいとしの電子辞書の場合、最初のあたりはこんな感じです。
http://support.casio.jp/storage/pdf/003/XD-U18000_WB_JA.pdf
このたびは本機をお買い上げいただきまして、誠にありがとうございます。ご使用になる前に、この「安全上のご注意」をよくお読みの上、正しくお使いください。「本機」についての説明なので、「本機を」という言葉がたくさん出てくるのは当然です。
(中略)
本機を病院内や航空機内など、携帯電話の使用が禁止されている場所では使用しないでください。周辺の電子機器に影響を及ぼすおそれがあります。
また、医療用電子機器から離して使用(携帯・保管)してください。ペースメーカーなどをご利用の方は、本機を胸部(胸のポケット)で使用すると、磁力の影響を受けることがあります。万一異常を感じたらただちに本機を体より離し、医師に相談してください。
ちなみに機種これ。型落ち。
さて。
でも、西野カナ『トリセツ』に出てくる「私を」はたった1個所だけです。
なぜなら、毎回「私を」って言ってたら、重いからです。重くならないように、このトリセツはわざわざ軽く作ってあるのです。
だから「私を」が該当する個所でも、それをいちいち書いたりしません。
急に不機嫌になることがあります。Aメロ、不自然にならないぐらいに「私を」(と「私に」)を補うとこれぐらいな感じになります。
理由を聞いても
答えないくせに(私を)放っとくと怒ります。
いつもごめんね。
でもそんな時は懲りずに
とことん(私に)付き合ってあげましょう。
定期的に(私を)褒めると長持ちします。
爪がキレイとか
小さな変化にも気づいてあげましょう。
ちゃんと見ていて。
でも太ったとか
余計なことは気付かなくていいからね。
あるいは、
たまには(私を)旅行にも連れてって最後から2連目はこういう感じになります。
記念日にはオシャレなディナーを
柄じゃないと言わず
カッコよく(私を)エスコートして
広い心と深い愛で
(私を)全部受け止めて
なるほど。「私を」はうまいこと省かれているんですね。
ところで。西野カナさんはいままで重い…って評判でした。
特に『会いたくて 会いたくて』はね!
けど、最近の歌詞は違うよ!ってわたしは思います。
いままでの歌詞の重さって「(私は君に)会いたくて 会いたくて 震える」って繰り返す自分の語りにあったんじゃないかなぁって思うのです。
でも今回は、主格は「私」じゃなくて「君」だし、「私」は目的格に交代したのでした。
「私が」の歌から「私を」の歌に変わったのです。
しかも、ねっとりした会いたさから抜けて、おどけた「トリセツ」仕立ての歌詞に変わっています。だから軽くて、風通しがいいのです。
しかも、今回は歌詞の構成もトリセツにならって箇条書きになっています。
- 急に不機嫌になること
- 定期的に褒めること
- 少し古くなったら
- ちょっとしたプレゼント
- 涙に濡れてしまったら
- たまには旅行にも
という感じで、それぞれの項目では別個のことが歌われます。その合間には「余計なことは気付かなくていいからね。」といったユーモアも混ざります。
何度も「会いたくて 会いたくて」と繰り返すような暗さや重さは、もうここにはないのですよ!
いいですか! もう、重い恋愛の時代は終わったのですよ!!
主格を数えながら(オマケ)
さて。
さっきわたしは、
「私が」の歌から「私を」の歌に変わったのです。
と言いました。
でも「私が」の歌と「私を」の歌を1つずつ取り上げたところで、本当の変化はわかりません。
本当に変化したかを知るには、もっと数を出して、推移を追わないとダメです。
というわけで、やってみました!
- 西野カナさんの曲のタイトルから文を組み立て、その主格を分類しました。
- 分類は1人称単数・1人称複数・2人称・3人称他、の4つとしました。
- 分類しているのはわたしひとりなので、多分に主観的です。迷ったときにはできるだけ1人称か2人称に分類できるようにしました。
- 曲は「LOVE one.」から「with LOVE」までのすべてのアルバム曲と、シングル「もしも運命の人がいるのなら」「トリセツ」のB面含めた、全90曲です。
- ベストアルバムは、初出の6曲のみ取り上げてあります。
- アルバムごとに集計し、人称の割合の推移を折れ線グラフにしました。
- 出典は歌ネット。
↑ありがたい。
で、結果はずばり、こうなりました。

なるほど…。
全体的な傾向として、1人称単数が多いことがわかります。これは「私が」の曲です。例えば『会いたくて 会いたくて』とか。
1人称複数は「私たち」を主題にした曲です。西野カナさんの歌詞はほとんどが恋愛か、友情か、みんなで盛り上がろう曲かのどれかっぽいのですが、そのどれもに1人称複数が入ってきます。『私たち』とか。
2人称には、今回の『トリセツ』みたいな曲が入ってきます。ほかにも『君って』とか。
3人称他とは、1人称にも2人称にも分類できなかったものです。3人称他に分類したのは「どんな歌詞だか皆目見当がつかない…」っていうのが多いです。例えば
『Esperanza』とか。
こうして見ると、確かにいままでぜんぜん多くなかった2人称が、最近急に数を伸ばしているように見えます。
また、1人称複数が直近でゼロのことも特筆モノっぽく見えます。
でもそれは、次のアルバムが出るころは傾向が変わっているかもしれません。
アルバムにはだいたいみんなで盛り上がろう的な曲が入るようなので、つまり1人称複数が入ってきそうです。
確かに2人称増えてるっぽいけど、ちょっと情報不足! はっきりしたことは言えなさそう。残念…。
ということで、西野カナ『トリセツ』でした。
いままで、カナやんの曲は以下の歌詞を読んだことがあります。
hacosato.hatenablog.com
hacosato.hatenablog.com
hacosato.hatenablog.com
古い記事だとわたし明らかにカナやんに対してテンション低いww
わたしはロランバルトてきな、テクスト論っぽい立ち位置にいるので、いままで同じアーティストさんを時系列で追うことはしてこなかったんですが、今回初めて挑戦してみました。意外とおもしろかった!
でね、いまいち仮説を裏付けるような結果は出なかったけど、西野カナさんの歴代の歌詞を見てて、思ったことがあるんですよ。
わたし、昔の曲より最近の曲の方がはるかに好きだわ…。
ってことです。
『GO FOR IT!』あたりにはっきりした転換点が見えるので、今度はそれを説得できるようなデータを積み上げたいです! がんばるぜ!!
次回は、引き続き西野カナさんやろうと思います(笑)
https://opac.library.twcu.ac.jp/opac/repository/1/5717/14TOMINAGAAi20150315.pdf
先日、この論文を教えてもらったんですが、めっちゃおもしろいことがあって、恋愛のフェーズごとに曲を分類してるんですよ!
作詞者によって恋愛の進行具合の割合が違うとかおもしろすぎるwww pic.twitter.com/tmiXrx7JJN
— ハコサト📦 (@hacosato) 2015年6月8日
↑最初にそれを知ったときのわたしのツイート。
というわけで、西野カナさんでこれをやることによって、カナやん曲の主人公ちゃんがいつ新しい彼氏さん付き合って、いつ別れたのかを可視化しようと思います! できるわけないけど挑戦してみる!!