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5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

西野カナ『GO FOR IT!』

サビだけでご飯3杯イケる珠玉のフレーズ
こんにちは。
先日PCスピーカーを買おうと思って、家電量販店に行ったのでした。展示だけのやつもたくさんあったけど、やっぱりここは実際に試聴できるやつから選んでみたいところ。わ、ウォークマンが付いてる。これを操作するといろんなスピーカーを切り替えて音が出せるんだね!
というわけで、私はウォークマンを切り替えながらいろんなスピーカーの音を聞き比べてみました。そして数分後。私はあっさりあきらめました汗
だって違い分かんないし! どうせ家に帰ったらまた違う聞こえかたするんでしょ!!
というわけで、なにも買わずに帰ってきたわけなのですが、私の脳裏にはある曲のイメージが鮮烈に残りました。
GO FOR IT!!
コレです。ウォークマンに入ってた曲。西野カナ『GO FOR IT!』です。

「ずっと前からキミが好きでした」
Oh 精一杯の想いを全部 今すぐ伝えたいの
でも傷つきたくない 嫌われたくない
でも誰かに取られたくもない

サビの歌詞はこういう感じ。行ったり来たりを繰り返す、ゆれ動く気持ちを揺れ動くままに描いた感じの歌詞になっています。もう「会いたい」だけじゃないんですね!
この曲、私はCMとかでちらっと聴いたことはあったけど、紅白はスルーしちゃったし、特に印象に残ってたわけじゃないのです。でも家電量販店でこれを聴き直して、西野カナのすごさを改めて感じました。皮肉じゃなくて、普通によいほうのすごさです。私このサビでご飯3杯イケます!
というわけで、今から私といっしょにご飯3杯いきましょう。それでは、いただきまーす!
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND130501/index.html
構成はこちら→A-A-B-サビ-A-B-サビ-C-C-サビ-サビ-アウトロ

ご飯1杯目:文字vs音節

この曲、ひとつのサビには同じようなメロディが3回連続して出てきます。この3つ、メロディへの歌詞の乗せかたがすごくイイです☆メロディと歌詞をそれぞれ追ってみると、こんな感じ。

1周目です。「ずっと前からキ」の部分。

2周目。「精一杯の想いを全部」の部分。

3周目。「傷つきたくない 嫌われたくない」の部分。
それぞれ楽譜に起こしてみました。私は音楽とか習ったことないので、楽譜はそんなに自信ないです←
さてこの3つ、音としては大体同じです。2小節の中で1周目と2周目では1ヶ所しか音が違わないし、1周目と3周目ではコード進行が同じ(I→III)みたいなので音としては大差ありません。
けど、歌詞を文字だけで見るとだいぶ違います。そもそも文字の量がぜんぜん違う感じ。
この3つの歌詞を、音楽的1拍ごとにわけて表に落とし込んでみると、こうです。

  1 2 3 4 5 6 7 8
1周目
2周目 せい いっ ぱい のお もい ぜん
3周目 きず つき たく ない きら われ たく ない

どんどん字数が増えてる! 3周目なんて1周目の2倍も!
ってわけで、似たようなメロディなのに文字の乗せかたがぜんぜん違うのです。
私は最初にこの曲を聴いたとき、サビがこんなに同じメロディの繰り返しだなんて気付きませんでした。ピアノソロとかで音だけを聴くと、確かにその少し単調な感じが少し浮かび上がってきます。でも歌詞もあわせて聴いているとそれがまったく気になりません。それは、文字の乗せかたにバリエーションを持たせてあるからです。
1周目は、1拍につき1文字をキープしています。なのでじゃんけんで階段をのぼりながら「ち、よ、こ、れ、い、と♪」をするような感じの文字の乗りかたになっています。シンプルですね。
2周目はちょっと飛ばしまして、先にカンタンな3周目。こちらも見ての通りです。今度は1拍につき2文字が乗るようになっています。「ちよこれいと」と比べて、単純に速さが2倍になるような感じ。スピード感に変化があって、退屈しません。
さて、さっき飛ばした2周目は、どうでしょう? 基本1拍につき2文字で、ときどき例外あり?
そういう風に捉えるよりも、もっといい捉え方があります。2周目は、1拍につき1音素です。
音素とはWikipedia的には「1個の母音を中心に、その母音単独で、あるいはその母音の前後に1個または複数個の子音を伴って構成する音声(群)で、音声の聞こえの一種のまとまりを言う」そうです。
具体的にひとつひとつ取り上げてみます。

2周目 せい いっ ぱい のお もい ぜん

「せい」は、発音的には「せ」って言ってからそれを伸ばしているだけです。だから口の動きとしてはひとつなので、2文字だけどこれで1つの音を構成しています。これを音素といいます。
「いっ」は、「い」を発音してからのどを閉じているので、「い」のあとにはなにも聞こえてきません。これも2文字だけど発音としては1つだけなので、これで1音素です。
「ぱい」は、英語で言う二重母音ってやつです。「ぱ」と「い」は確かに別の音ですが、この2つの音が連続的に変化するので、ひとつの音素として扱えるのです。
「のお」は、「の」を発音してから伸ばしているだけなので、これも音素としてはひとつです。
後半は説明少しペースアップ。「もい」は二重母音ですね。
「を」は普通に1拍で1音節。
「ぜん」の撥音は「母音と共に音節を構成する」そうなので、「ぜん」で1音節。
「を」は普通に1拍で1音節。
というわけで、2周目はすべて、1拍につき1音節を貫いてあることが分かります。
1拍に付き1音節なのは、1周目も2周目も同じです。でも、聴いたときの雰囲気はぜんぜん違いますね。1周目よりも2周目のほうが音に密度がある感じ。それは、同じ1音節でも、1周目の音節は母音と子音がひとつずつなのに対して、2周目の1音節は二重母音だったり長音だったりがほぼ必ず絡んでくるからです。この文字の密度の変化は、こうやって捉えるととても分かりやすいものだと思います。
おいしい1杯目でしたね。おかわり!

ご飯2杯目:密度×意味

さて、さっき似たメロディにぜんぜん違う歌詞が乗っているところを見ました。この歌詞の乗せかた、歌詞の内容ともリンクしていると思うのです。
おさらいすると、サビの歌詞はこうでした。

  1 2 3 4 5 6 7 8
1周目
2周目 せい いっ ぱい のお もい ぜん
3周目 きず つき たく ない きら われ たく ない

1周目は「「ずっと前からキミが好きでした」」という歌詞の一部です。これは歌詞の中でもカギ括弧にくくられている部分で「精一杯の想い」の内容を示している部分です。つまり、この歌詞の中で主人公が最も伝えたいと思っている部分なのだと思います。
その部分が、この曲のサビの一番最初にきています。サビの直前には転調があって、メロディはぐっと盛り上がるところですから、もうこの曲のセンターはここしかないだろ!ってところでこの歌詞。すごくいい場所にきています。
この歌詞はそこで、1拍につき1音という歌詞の乗せかたになっています。AメロやBメロに比べるととてもゆっくりした文字の乗せかたですが、それが逆にとても印象に残るような効果を生んでいます。大事な部分だから、丁寧にはっきり聴き取りやすくなりように、歌詞が乗せられている感じ。一番露出が多くなる部分だと思うし、たとえば何処かのお店でたまたま耳にしたとしても、印象に残りやすいようにできています。そうして引っかかったのが例えば私です(笑)。
2周目は「Oh 精一杯の想いを全部 今すぐ伝えたいの」という歌詞。引用節だった1周目と違って、2周目はいわば地の文です。だから文字の乗せかたも1周目と違って変なスローモーションとかありません。
その代わり、2周目では二重母音とか拗音、撥音なんかを多用した音節のバリエーションをたくさん見せてくれます。佐久間 淳一・町田 健・加藤 重広『言語学入門』によると、もともと日本語では音節ってそんなに音のまとまりとしては重要ではなく(代わりに拍という概念が重要そうなのですが関係ないので省略)、音節はむしろ英語とかは中心的な概念なのだそうです。
だからだとはいえないのですが、2周目は文字を音として捉えるような、おしゃれな洋楽を聴くようなイメージが私の脳裏には浮かんできます。ちゃんと考えたことなかったですが、Mr.Children桜井和寿の歌詞とか全体的にそんな感じします。
なお、私はほとんど洋楽とか聴きませんので、ここまでほぼ妄想です←
3周目はというと、今度は少し文字が詰め込まれすぎっぽい感じの乗りかたになります。でもここ、歌詞は、

でも傷つきたくない 嫌われたくない
でも誰かに取られたくもない

ってなっているところ。「でも」が二度も出てきて、不安な気持ちと前向きな気持ちが交錯するシーンです。緊張したり焦ったりすると早口になるひとはいませんか?ここはまさにそれが体現されているシーンだと思います。
この歌詞は、サビが進むにつれてどんどん文字の密度が増していきます。それはただ何となくではないし、変化を付けるためだけでもありません。ちゃんと歌詞の内容を裏打ちするような効果を狙ってのことだと私は感じたのでした。おかわり!

ご飯3杯目:図鑑→物語(おまけ)

この歌詞は基本的に図鑑型です。(図鑑と物語についてはゆず『からっぽ』をご参照ください)。
が、物語的な面も少しだけあります。実は今まで私が繰り返し引用してきた1周目〜3周目とは別に、この歌詞のサビには後半があります。で、この曲のサビは全部で3つあって、サビの後半はすべて違えてあるのです。ここに注目しなくっちゃ!
1つめのサビは、

勇気を出して
GO! GO! GO FOR IT !!
明日キミにメールしようかな

ってなっています。サビの最後は「明日キミにメールしようかな」って歌詞です。応援したくなるような、共感を呼ぶ歌詞ですね。
2つめのサビは、さっきとちょっと違います。

勇気を出して
GO! GO! GO FOR IT !!
明日キミに電話しようかな

メールが電話に変わっています。私の感じからすると、やっぱりメールよりも電話のほうが距離感が近い感じ。親密で、コミュニケーションが密な感じがします。
この曲、この後Cメロをはさんでもう一度サビが待っています。メール→電話と来たら、やっぱり期待しちゃいますよね。

「ずっと前からキミが好きでした」
Oh 精一杯の想いを全部 今すぐ伝えたいの
Oh 早く行かなきゃ ちゃんと言わなくちゃ
誰かに奪われちゃう前に
勇気を出して
GO! GO! GO FOR IT !!
明日こそキミを誘えるかな

最後のサビは素晴らしいですね。まず「「ずっと前からキミが好きでした」」の部分、ここは伴奏がなくなって、ボーカルだけになる部分。メッセージがよりストレートに伝わってきます。
そして、傷つくことや嫌われることを怖れていた「3周目」は、

Oh 早く行かなきゃ ちゃんと言わなくちゃ
誰かに奪われちゃう前に

こんなに前向きな歌詞に変わっています。おお、書いてて感動のほうの鳥肌が立つよこれ。
で、最後は「明日こそキミを誘えるかな」という締めかた。「メール」とか「電話」とかいう手段じゃなくて、「誘う」という目的を、言葉に据えることができるようになったのです。ちゃんと伝えたかったことに、目を向けられるようになったのですね。
メール→電話→○○、という流れは、miwa『春になったら』でも見られました。これもとっても鮮やかでした。
というわけで、ごちそうさまでした。たいへんおいしかったです☆



というわけで、西野カナ『GO FOR IT!』でした。前回私が西野カナ『if』を読んだときには、正直いまいち感情移入できないところもあったのですが、今回は違いました。きっと歌詞のこと、すごく気を遣って進化させているんじゃないかなと勝手に妄想しております。特に、Wikipediaによると西野カナは文学部で勉強されているとのことなので、音節とかについてはもしかしたら自覚的なのかもしれないですね。
ちなみに私は言語学についてはずぶの素人です(汗)。なにをやっているのだ私は。
GO FOR IT !!

GO FOR IT !!

  • 西野 カナ
  • J-Pop
  • ¥250
↑サビを30秒きっちりでまとめる職人芸っぷり…w ですがクリックすると2番も聴けます〜♪
Love Place

Love Place

次回予告:次回はパスピエ『最終電車』を取り上げようと思います。
以前リクいただいた曲については読む気ありますので、気長にお待ちいただけると…汗

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