夏も終わります。
いまの時期に聴きたい曲についてお話ししたくてきました。
みきとP feat.初音ミク『少女レイ』です。
なお、みきとPはインタビューで曲のモチーフとなったのは『人間・失格〜たとえばぼくが死んだら』というドラマだと語っているそうです。
“正解”が知りたい方はインタビューのほうをどうぞ。
この曲はほかにも考えている人がいっぱいいると思うので“考察”が読みたい方は他のかたのも合わせてどうぞ!
わたしはこの歌詞を聴いてわたしが考えたことを書きました。
少女レイが飼い主から逃げ切るまで
本能が狂い始める 追い詰められたハツカネズミ
今、絶望の淵に立って 踏切へと飛び出した
「ハツカネズミ」っていろんな連想が広がる言葉だと思いますが、わたしがとにかく連想したのはこれが実験動物であるということでした。
ハツカネズミは基本的に飼われる生き物で、飼われるということは飼い主がいます。
この歌詞の骨格をよく表した比喩です。
歌詞はここから始まります。
そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君は独りさ 居場所なんて無いだろ
主人公は飼い主側です。
そして「ハツカネズミ」である「君」に向かって、「ぼくの手を掴めよ」「居場所なんて無いだろ」と吹き込みます。
主人公が「君」にそんなことを言うのは、「君」が主人公に依存するように仕向けたいからです。
二人きりこの儘 愛し合えるさ―。
主人公は「君」に愛されたいのです。
でもそのために主人公がとるやり方は、飼う-飼われるの関係の中で自分が飼う側に立つこと。
それはいかにも不器用で、不安定で、間違った愛のかたちです。
繰り返す
フラッシュバック・蝉の声・二度とは帰らぬ君
永遠に千切れてく お揃いのキーホルダー
夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい
だから「君」は「二度とは帰らぬ」存在になってしまいます。
踏切での自死です。
主人公はたぶん「君」との関係を何度も繰り返しているのだと思います。
それが「繰り返す/フラッシュバック」で表されていることです。
「永遠に千切れてく」のような時制がおかしな表現も、フラッシュバックが繰り返すのなら筋が通ります。
何度繰り返したって結末は同じ。「君」は主人公に追い詰められて、最終的に「二度とは帰らぬ」存在になります。
なのに、主人公は「君」を自分が追い詰めたことを認めません。
「夏が消し去った 白い肌の少女」って表現。
主人公の中では「君」は夏に消し去られてしまったのであって、別に自分が死に追い込んだことにはなっていません。
主人公は、自分のことが見えていないのです。
本性が暴れ始める 九月のスタート 告げるチャイム
次の標的に置かれた花瓶 仕掛けたのは僕だった
8月の間は夏休みで学校はお休み。
9月に入って、主人公は「君」をいじめの標的に選びます。
その理由はすぐ後に述べられます。
そう 君が悪いんだよ 僕だけを見ててよ
そう 君の苦しみ 助けが欲しいだろ
主人公はいじめの標的として「君」を選ぶことによって「君」の心の支えに立とうとしていますのです。
溺れてく其の手に そっと口吻をした―。
「溺れてく」の動作主は「君」、「口吻をした」の動作主は主人公です。
「溺れてく」は「花瓶」の縁語のような感じもします。
主人公は、追い詰められ、よるべがない「君」のことこそが好きなのです。
薄笑いの獣たち その心晴れるまで
爪を突き立てる 不揃いのスカート
夏の静寂を切り裂くような悲鳴が
谺する教室の窓には青空
わたしはこのサビがすごく好きです。
メロディには夏の爽やかさと開放感があって、1番ではなんとかそれに追従して鮮やかなモチーフで彩られた歌詞なのに、2番ではついにきらめきで隠蔽することができなくなっているからです。
「不揃いのスカート」のように一度手元に視線を落としてからの「教室の窓には青空」という視線の対比も鮮やかです。
「君は友達」
この部分は歌詞の中で唯一鉤括弧に入ったパート。
わたしはこれを「君」のセリフだと思いました。
「君」は主人公のセリフをおうむ返しにしたのです。
主人公はそれに乗じて、吹き込むように追い討ちをかけます。
そう 君は友達 僕の手を掴めよ
そう 君が居なくちゃ 居場所なんて無いんだよ透き通った世界で 愛し合えたら―。
フラッシュバックする世界で、少しずつ言うセリフは異なるけれど、あらすじはそれでも変わりません。
主人公の願いは、二人が愛し合えるような永遠の世界です。
だけど夏がいつか終わるのと同じように、二人が愛し合える永遠の世界などありません。
繰り返す
フラッシュバック・蝉の声・二度とは帰らぬ君
永遠に千切れてく お揃いのキーホルダー
夏が消し去った 白い肌の少女に
哀しい程 とり憑かれて仕舞いたい
「君」の死に直面しても、主人公は動じることがありません。
その霊(タイトルである『少女レイ』でもあるでしょう)に「とり憑かれて仕舞いたい」とすら歌います。
主人公の「君」への愛はこのように強固なものであるように見えますが、この愛は一方通行です。
「君」はそれに対して、動作でこう応えるのです。
透明な君は 僕を指差してた―。
主人公が花瓶を置くことで「君」に指差したことへの返歌に見えます。
2番の冒頭で、主人公は身勝手な愛の手段としていじめを使い、「薄笑いの獣たち」を(一見)味方につけました。
この秋、その獣たちが、今度は主人公に向かって牙を立てるのでしょう。
繰り返すフラッシュバックはこれで終わり。
これは「君」にとってはハッピーエンドなのです。
みきとP feat.初音ミク『少女レイ』でした。
みきとPの曲はわりと振れ幅があるけどどの端っこも好きです。
『少女レイ』とは離れた端っこに『いーあるふぁんくらぶ』があると思うんですがこれもすごく好きな曲。
ボカロ界の豊穣さを感じる一曲です。
ほかにも味わいたいな〜ボカロ界の豊穣さ!