5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

タンジェントの曲線をなぞって - 嵐『Sakura』


嵐『Sakura』歌詞(歌ネットへリンク)

嵐『Sakura』の歌詞を読んだ。

いつか 僕らが世界を変えていくなら
またどこかで生まれてく
与えられた現在(いま)を 託された未来へ
桜の曲が好きだ。それはたぶん、卒業のシーズンが好きだからだと思う。お別れのシーンはいつも切ないし、そういうセンチメンタルな感情は音楽とよく合うと思う。
だから、嵐が桜をテーマにした曲を出すと聞いて、すごく期待した。
そして 明日も何かを探し続けて
何度だって脱ぎ捨てる
始まりを告げて いつまでも いつまでも この心に響け
でも、歌詞を見たときにあれっ?って思った。いままで私が見てきた桜の曲と、雰囲気がぜんぜん違う。もっと、別れの切なさとか、そういうの描かないんだろうか、って。
もやもやしながら読んでいった。けど、あるときそれは急に晴れていった。そして、この歌詞は特殊なように見えるけれど、やっぱり桜のクリシェにのっとっているんだって思えるようになった。
今日の記事は、そういう話だ。
歌詞は、ときどきグラフに表せると私は思っている。
たとえば、クマムシ『あったかいんだからぁ♪』の歌詞。

この歌詞は、進むにつれてだんだん深くに進んでいって、それが歌詞の真ん中で折り返し、後半はどんどん戻ってくる、ってとこがおもしろい。
これをグラフにすると、こうなる。

y = \sin x (0 \lt x \lt \pi)
このグラフは、サインカーブってやつだ。xが0から始まって、だんだん増えていって、それがちょうどπ/2になったとこで折り返して、後半は前半と折りたたみ対称になる感じ。そして、最後には最初と同じ高さになって終わる感じ。これが歌詞のつくりといっしょだ。

で、今回は嵐『Sakura』。
今回の曲は、グラフでいえばタンジェントみたいなものだと思う。
タンジェントのグラフは、こういう感じだ。

y = -\tan x
タンジェントのグラフって変な形してておもしろい。
まず、タンジェントのグラフには繰り返しがある。S字型みたいな模様が、πの周期で繰り返している。
それから、タンジェントのグラフは断絶がある。tan(π/2)の直前は負の無限大に発散してて、直後は正の無限大に発散してる。
数式で書くと、
\lim_{\theta \to \frac{\pi}{2}-0} tan(\theta) = \infty
\lim_{\theta \to \frac{\pi}{2}+0} tan(\theta) = -\infty
こうなんじゃないかな。
私たちが習ってきた、比例のグラフもサインカーブも、途中で途切れることはない。でも、タンジェントのグラフには途切れ目があるという特徴がある(ほかには、たとえば反比例のグラフにも途切れ目がある)。
これを雰囲気でいうと、どん底に落ちていたのに、あるきっかけがあって急に最高潮に達する、っていう感じがする。
この感じが嵐『Sakura』とそっくりだ。

思い出した 声の温もりに 振り返れば 息をするように
花は咲いた 夜明け前 空は急いだ
『Sakura』曲は「思い出した」で始まっている。
ふつう、なにかを思い出すときって、事前に思い出され対象が必要だ。だからこの曲みたいに1行めからいきなり「思い出す」ことはあんまりないと思う。
でもこの曲はいきなり「思い出」す。
なぜなら、この曲はタンジェントだからだ。
タンジェントのグラフは、同じかたちを何度も繰り返す。この曲も同じ。同じことを何度も繰り返してる。
だからきっと、歌詞に描かれているシーンの前から、同じことを繰り返してきたんだ、ってわかってくる。
歌詞は、連綿と続く世界の一部を切り取ったものでしかないんだ。

この曲のタイトルは『Sakura』だ。
桜と「繰り返し」には、強いつながりがある。
桜は毎年ほとんど同じ時期に花を咲かせる。桜の開花するかがテレビのニュースになるぐらい、桜の花にみんな思い入れがある。
この、毎年花が咲くっていう繰り返しが、タンジェントのグラフと同じだ。

しかも、そういえば桜とタンジェントのグラフとには別の共通点もある。
桜は広葉樹なので、冬は葉を落とす。12月ぐらいに落葉したら冬はずっとガイコツみたいになっている。
でも、春になると葉をつけることもなく、枯れ枝からいきなり花が咲くのだった。
この、どん底から急に最高潮に達する、ってところがタンジェントのグラフとすごくよく似ている。
桜の花のサイクルと、タンジェントのグラフは、こんな風に多元的に似ているところがあると思う。

嵐『Sakura』の歌詞に戻ろう。

夜明け前 空は急いだ
この「夜明け前」っていうのは、タンジェントのグラフが負の値を示している、x=π/4とかそのへんを指しているんだと思ってる。
確固たるx軸はなんとなく地平線みたいに見えるし、その下をもぐってる人生で半分の時間は「夜明け前」って言葉がふさわしい。

このあと跳躍するわけだし。

So tell me why? 光の向こうに 何がある?
だけど夢の中 いつも触れたくて
「光の向こう」っていうのは、「夜明け」と同じことだ。
それは目標だけど「夢の中」なのだし、「いつも触れたくて」って思っているけど、触れることはできない。断絶しているからだ。
グラフでいうと、それはx=π/2を迎える瞬間のことだ。

この点は特別だ。
なぜなら、赤い線を上下にいくら伸ばしても、グラフに交わることはないから。この一瞬だけグラフは行方をくらませる。
ついさっきまで地の底にいたグラフは、この瞬間を超えた途端、最高潮の姿でまた現前する。

いつか 僕らが世界を変えていくなら
またどこかで生まれてく
与えられた現在(いま)を 託された未来へ
 
そして 明日も何かを探し続けて
何度だって脱ぎ捨てる
始まりを告げて いつまでも いつまでも この心に響け
このシーンは、グラフの一部分だけを見ているんじゃない。グラフの全体を見ている。
「またどこかで生まれてく」「何度だって脱ぎ捨てる」みたいに、繰り返しを示す言葉がたくさんあるからそう思う。

「与えられた現在(いま)を 託された未来へ」ってフレーズが好きだ。
この瞬間に、主人公はx=π/2を超えるんだと思うから。
桜の花が散っても1年後にはちゃんと次の花が咲くように、グラフが途切れても次の曲線が現れるように、主人公たちは新しくなり続けることを恐れないんだ、って思う。そこがかっこいいところだ。



ところで、私は最初、この曲の歌詞の陳腐なところが気になってた。
そして 明日も何かを探し続けて
何度だって脱ぎ捨てる
って感じの歌詞。
すごい! 「何かを探し」てる!!って思ったから。

何かを探すのって、揶揄されがちなJ-POPのクリシェなのだ。
私はベタであることはぜんぜん気にならない(っていうかむしろ楽しい)んだけど、こんな目立つグループがこんな目立つとこにこんな悪目立ちする歌詞載せて大丈夫か…?って思ってた。やきもきした。
ネットのみなさんに見つかっちゃったらやだな…って。
カンタンに、Googleで検索してみた。
嵐 Sakura 何かを探しすぎ - Google 検索
なんだ。べつに大丈夫だった。よかった。

というわけで、嵐『Sakura』でした。
今回はいつもと変えて、常体でしゃべってみた。んだけど、大変難しかったです。ううう。
読みやすい文章を書くのはずっと課題なので、これからもがんばろう自分。
ちなみに嵐は、以前にもこんな記事を書きました。

とてもかっこいい曲です。この曲ともなんだか歌詞の感じが似てる。
Sakura 【通常盤】

Sakura 【通常盤】

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また、桜に関する曲としては、以前こんな曲を読みました。

1年というサイクルがあるところが、今回の嵐『Sakura』と似ています。

こんな曲も読みました。

桜が花開くのとシンクロして、自身も生まれ直せるってところが今回の嵐『Sakura』と同じです。

桜の曲は大好きなので、またたくさん読みたいです♪

Sakura 【通常盤】

Sakura 【通常盤】

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お読みいただきありがとうございました。
次回はaiko『カブトムシ』の歌詞を読みます♪
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