5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

輪を描くだけじゃなくて - でんぱ組.inc『STAR☆ットしちゃうぜ春だしね』


きょうはでんぱ組.inc『STAR☆ットしちゃうぜ春だしね』の歌詞のこと書きます!

なんだか気分よさげな 地球の片隅
もう考えること棚上げちゃえば
梅桃桜はおいしい香りだね
晴れ姿のヒメ・ジョシ・ワンダフル
1連がこんな歌詞なんですが、これがわずか10秒で歌われます。
わかりますか? これひらがな70文字分もあるんですよ! 1秒間に7文字分ですでんぱ組さんのスピード感アタマおかしい。*1
こういうスピード感で歌われる曲なので、だいたい歌詞なんてどうでもいい感じだと思っちゃうじゃないですか。
みんなだってそうでしょ? この歌詞に意味なんてないって思ってたでしょ?
よく見てみたらぜんぜんそんなことはなかったです。畑亜貴さまヤバい。
きょうはそういう話です。

でんぱ組.inc『STAR☆ットしちゃうぜ春だしね』歌詞(歌ネットへリンク)

春は輪を描いて

この曲はタイトルの通り春をテーマにした曲です。
それは歌詞を見てみてもはっきり分かります。

なんだか気分よさげな 地球の片隅
もう考えること棚上げちゃえば
梅桃桜はおいしい香りだね
晴れ姿のヒメ・ジョシ・ワンダフル
「梅桃桜」と、春の花ばかりが並んでるあたりからも察することができます。

ところで、春とひとくちにいっても切り口はいろいろです。作詞家さんからすれば、卒業に焦点を当てて別れをテーマにしてもいいし、新しく始まる生活をテーマにしても春らしさが出せます。
この曲はどうかというと、

また会うって信じてヨーソロヨーソロ旅った先輩
…ばいばい! やあ世界の交通便利すぐにカムバック
ひとまわりしてくれば成長後
more!! 楽しく遊べるんじゃない?
こういう感じ。「また会う」「カムバック」「ひと回り」というフレーズからわかるように、テーマは卒業でも新生活でもなく、円環です。

実は春は、円環の曲がとても多く出てきます。
hacosato.hatenablog.com
hacosato.hatenablog.com
hacosato.hatenablog.com
春っていうか桜の曲が円環の話多いんですが、それは春になると突然、前年とだいたい同じ時期に桜が花開くからだと思います。桜の花が咲くと、ああ1年経ったなぁって思うんですよね。
それに、春夏秋冬は春から始まって冬に終わります。冬が終わってまた春になったら、ああ一周したんだなぁって気持ちになるのでした。円環は、春の季語です♪
この部分では、円環の中でも過去のできごとが現在に繋がるのを中心に描写が進みます。
先輩が「旅った」のは過去のことで、カムバックしたのは最近のことみたいに見えるわけです。

あれあれ春だよ? どんどんSTAR☆ットアップ
意外や意外な我らになれそうなんだいっ
まだまだ待ってる出会いは ありえない出会い
新鮮なことだらけを求めるさ
つまり1番は、今春のことを歌っているように見えるのです。
「意外や意外な我らになれそう」なのも「まだまだ待ってる出会い」も、両方とも“この春”に起こる出来事みたいな感じに聞こえてきます。
それは、繰り返しですが、さっきの部分が過去のできごとが現在に繋がることを歌った部分だからです。

でもこのあと、

幾年月すぎたら大人ぶっていいの?
説教してみたいされるより
梅桃桜でカラフル着倒して
水着まではダイエット・ジョシ…
ノーノーノー!
「水着」の話が出てきます。水着はぜったい夏の衣装だよね…。
だからここは未来のことを示した部分です。でもそんな未来に対して、主人公は「ノーノーノー!」って歌っています。未来のことなんて考えたくないよ、って気持ちが見えてきます。

ところが。
そのあと、展開は少し変わってきます。

明日会うって知っててヤダヨーヤダヨー帰りたくない
…ばいばい! ねえこれってわがままだった? あーもう照れちゃう
ひとねむりしたあとで会いましょね
more!!元気に臨機に遊べるんじゃない?
「明日会う」「ひとねむりしたあとで会いましょね」みたいに、円環が未来に繋がる部分が出てきます。これはいままでと違う、新しい視点です。

だから、2番のサビは1番と似ているのに少し違って聞こえてきます。

おやおや春だね? がんがんSTAR☆ットアップ
あり得なくない未来を仕込んじゃうさっ
どっち向いて進んでも Smile-day だしな
痛快なこと見たさで飛びだして
さっきと似ているけど、この部分は1番とははっきり違います。
1番では今春のことを歌っていたけど、2番ではもっと未来のことを歌っているように見えるのです。
それが一番しっかり出ているのは「未来を仕込んじゃうさっ」という部分。1番にはこんなに未来志向な表現、出てきませんでしたもんね。

そんな感じで、まとめると

  • 円環を描いているっていうのはこの歌詞の中でずっと続いていること
  • だけど、1番では過去のことが現在に続いてるだけって話だったのに、2番では現在のことが未来につながっている話に変わったこと

っていうのが、今回の発見だったのでした。

脚韻を踏んで

ところで、こういう曲の歌詞って内容がからっぽで、別に意味なんてないんでしょ?って言われること多いと思うんですよ。
でもここまで見てきたように、少なくともこの曲に関しては、ちゃんと理由があってあるべき場所にあるべき言葉が置いてあるのですごいと思います。
さらに、ひとつひとつに言葉のチョイスにも並びにもちゃんと根拠があるんですよ! っていうか、効果があるんですよ!!
って話をいまからしようと思います。

ここで注目したいのが、サビの脚韻です。
『精選版日本国語大辞典』によると、脚韻とは

詩歌などの句末や行末に同じ響きの語を繰り返す押韻法。漢詩では、句の終わりにふむ韻。ヨーロッパの諸言語では、行末の最後の単語あるいは音節に同じ母音または同じ母音と子音を置くこと。日本語ではその効果がうすいといわれ、あまり試みられない。
って書いてあります。
どうして日本語で「効果がうすいといわれ」てるかというと、たぶん日本語では文末が「〜です。」「〜ます。」とかになりがちで、意識しなくても脚韻が踏めちゃうからだと思うんですが、それは散文の話。
今回は詩歌です。歌詞です。脚韻は、踏めまぁす!!
サビは、こうなっています。
あれあれ春だよ? どんどんSTAR☆ットアッ
意外や意外な我らになれそうなんだいっ
まだまだ待ってる出会いは ありえない出会い
新鮮なことだらけを求める
あれあれ春だよ? どんどんSTAR☆ットアッ
びっくりさせちゃう我らも まあ いいんじゃない?
悲劇も笑いに変えちゃうよう
本年度 (新年度) 始まれまれ (わらわら)
春は花のように咲き乱れろっ
1行目の行末は「アップ」、2行目は「だいっ」、3行目は「会い」、4行目は「さ」って感じ。1音に数モーラ1音節を乗ってますが、基本的には「ア」の音で統一されています。
しかもこの曲ってサビが全行だいたい同じメロディのかたちしてるので、脚韻がよく合うのです。
しかも「ア」の音は開放感あるし、歌いやすいし明るいし、今回の曲の曲調にも合うと思います。
こういうところもたぶん、みんな計算されて作られてるんだと思います。すごいよね!
ほかにもこの曲いろんなとこに韻がありそうで、ちゃんとしてるなぁすごいなぁ、って思いながら楽しめるすごい歌詞だったのでした。



というわけで、でんぱ組.inc『STAR☆ットしちゃうぜ春だしね』でした。
もともとこの曲わたしぜんぜん知らなくて、
YouTubeさまのお告げがなければ出会ってなかったです。ありがとうYouTubeさま! これからはあなたについていきます!!
オススメのとおり聴いてったら『おつかれサマー!』にも出会いました。

この曲にも言いたいことができたので、もし機会があったらまた夏に書きますね!
GOGO DEMPA(通常盤)

GOGO DEMPA(通常盤)

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次回予告:次回はたぶん赤い公園『KOIKI』の歌詞を読みまーす。

*1:拍で数えると67モーラになります。でもモーラだと通りが悪いのでここでは文字数で数えました。