5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

3つにわかれた「春」-松任谷由実『春よ、来い』

「春」は1つじゃないんだよ! 「春」は3つあるんだよ!

今日は松任谷由実『春よ、来い』を取り上げます。
歌詞はこんな感じ。

春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする
春が懐かしさと結びついているのがわかります。実際にやってくる春と、心の中の懐かしい春。この曲には、そんな2つの春があるみたいです。
…って思っていたのですが、よく見てみたら2つじゃなかったです。この曲には春は3つあります。
今回はそんなことを考えました。
歌詞(歌ネットへリンク)

実際の春と、思い出の春

1連から引用してみます。

淡き光立つ 俄雨
いとし面影の沈丁花
溢るる涙の蕾から
ひとつ ひとつ香り始める
「俄雨」、「沈丁花」と、風景の描写からこの曲は始まります。
Wikipediaによると、沈丁花は「2月末ないし3月に花を咲かせる」とのことですから、この歌詞もきっと春が間近な時期が舞台になっているのでしょう。描かれているのは、実際の春です。
http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/9f/Daphne_odora-ja01.jpg
それは それは 空を越えて
やがて やがて 迎えに来る

春よ 遠き春よ 瞼閉じればそこに
愛をくれし君の なつかしき声がする

2連と3連では、一転して主人公の内面が取り上げられます。主人公が思い出しているのは「愛をくれし君」の思い出です。それはきっと春のことで、春がめぐるたびに主人公はそれを思い出すのでしょう。
実際の春がやってくるたびに、主人公は思い出の春を思い出しています。2つの春がリンクし合っています。
君に預けし 我が心は
今でも返事を待っています
どれほど月日が流れても
ずっと ずっと待っています
4連では、思い出の春が描写されます。主人公は「君」に心を奪われて、思いを伝えたんだ、と私は思いました。けれど「君」からいい返事はもらえませんでした。主人公はいまでもそれを思っていて「今でも返事を待っています」と言っているように読めます。
だから春が来るたびにやってくるのは、懐かしいだけでなくビターで切ない恋心です。春は、そんな郷愁とリンクしています。

思い出の春と、未来の春

でも、主人公にとっての春が思い出にまみれたものだけだと捉えると、大事なことを見落としてしまいます!主人公にとっての春は、思い出の春のほかにもうひとつあります。未来の春です。
つまりこの歌詞には春は3つあって、こういう構図になっていると思うのですよ。

それは それは 明日を越えて
いつか いつか きっと届く
5連は、未来の春を示唆する部分です。「明日を越えて」とか「いつか いつか」のあたりに未来っぽさがにじみ出ています。
でもまだふわふわした描写なのであまりよくわかりません。未来の描写が決定的に見えてくるのはここから。
春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く
サビの冒頭、「春よ まだ見ぬ春」という表現に注目です。
1番ではここは「春よ 遠き春よ」という表現でした。「遠き春」という言い方から、春が遠い過去のものであることが暗示されます。
2番では「春よ まだ見ぬ春」に変わります。「まだ見ぬ春」ということは、春は過去ではなくて未来のものだということです。
表にまとめると、

  時制 歌詞
1番 過去 春よ 遠き春よ
2番 未来 春よ まだ見ぬ春

こんな感じなのですよ! ドヤ!
ところで、思い出の春は遠い恋の切ない記憶です。未来の春はどうでしょうか。
私は、主人公が夢の叶った未来を思い描いているのだと考えています。

春よ まだ見ぬ春 迷い立ち止まるとき
夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く
「肩を抱く」という身体を感じる表現が、夢が現実になることと強いつながりがあるように思えるからです。

最後に、現在について

この曲には、思い出の春未来の春が登場します。過去と未来です。
では、現在はどこへ…。

お答えします。現在が出てくるのはこの歌詞の7連です。

夢よ 浅き夢よ 私はここにいます
君を想いながら ひとり歩いています
流るる雨のごとく 流るる花のごとく
「います」という時制が現在っぽい!
ここには、巡る季節と巡らない主人公の、対比があります。
春は毎年やってきます。「流るる雨」や「流るる花」と同じです。そして、主人公は春が来るたびに、古い思い出をひもときます。
春は毎年新しくやってくるのに、思い出は古いまま。この対比は残酷です。
いつまで経っても恋人ができない私の隣に、失恋してもどんどん新しい恋人ができる友だちがいたとしたら、私の悲惨さが際立つじゃないですか!
だから主人公は夢へ「私はここにいます」とアピールしています。私に気づいて、と言っているわけです。
それは、私の恋心に気づいて、と言っていることにもなります。
その思いをもっと短く言うと、たぶんこんな感じになります。
「春よ、来い」って感じに。

というわけで、松任谷由実『春よ、来い』でした。
ユーミンの曲は過去、ほかにも読んだことがあるので、よければそれもお楽しみください。
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↑なんだこの変なURIは…。
次回予告::次回はkemu feat.GUMI『敗北の少年』を取り上げます! 1周年だしね!