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5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

Whiteberry『夏祭り』

歌詞を読む

言えなかった言葉、離れてしまった記憶
こんにちは。8月も終わってしまいましたね。夏の終わりを取り上げるJ-POPの曲って多いので、どの曲を取り上げようか迷ったのですが、
(初)
今回はWhiteberry『夏祭り』を取り上げたいと思います。2000年の曲なので、11年前の曲です。もともとはJITTERIN'JINNが歌っていた曲ですが、そこからカウントするならリリースはなんと21年も前です!
なのにこの曲(Whiteberryの曲としてですが)、いまも小中学生みたいな若年層からも支持されている、ものすごく息の長い曲ですよね。
今回はより知名度の高そうなWhiteberryバージョンを読んでみたいと思います!
歌詞はというと、

君がいた夏は 遠い夢の中
空に消えてった 打ち上げ花火

こんなサビの歌詞が切ないサマーチューン。「君がいた」の部分が過去形になっているので、たぶんここでいう「夏」は思い出の世界にあるのでしょうね。そして「夏」の次の行に脈絡もなくいきなり現れる「花火」。これを見て、ひとつ分かることがあります。
たぶん主人公は、花火と「君」を重ね合わせて見ているのでしょう。花火が消えていったのと同じように「君」とも別れてしまったのです。超せつない。
さて、そんなこの歌詞の中で、2番のAメロの終わりにこんな部分があるのをご存知ですか?

君は好きな綿菓子買って
ご機嫌だけど 少し向こうに
友だち見つけて 離れて歩いた

「離れて歩いた」って書いてありますね。ここで疑問。「離れて歩いた」の主語は、だれだろう?
「君」から離れて歩いたんだろうとも考えられますし、主人公のほうから離れたんだろうとも考えられます。可能性はふたつ。でも主人公は「君」のことが好きなはずだからな。「君」はそんなこと気にしないかな? どちらだと思いますか?
私の答えは、またあとで。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND12563/index.html
構成はこちら→サビ-A-サビ-A-サビ-(間奏)-A-サビ-サビ

「言えなかった」のはどんなこと?

さて、先ほどの疑問からは少し離れて、歌詞の全体を見通してみましょう。
この曲を読むにあたってひとつ大事なことは、この曲の歌詞はほとんどぜんぶが過去形で書かれている、っていうことです。

君の髪の香りはじけた
浴衣姿がまぶしすぎて
お祭りの夜は胸が騒いだ
はぐれそうな人ごみの中
「はなれないで」出しかけた手を
ポケットに入れて握りしめていた

ためしに1番のAメロをぜんぶ抜き出してみました。「はじけた」「騒いだ」「出しかけた」「握りしめていた」と、出てくる動詞はすべて過去形で表現されています。ここに出てくる夏祭りの小さなエピソードはすべてが過去の出来事です。ということはつまり、この曲を歌っている時点で、たぶん夏はすでに終わっているのです(だから私は9月5日号にこの曲を取り上げているわけなのですが)。
そして、思い出の世界で主人公は「君」に対してふがいない様子でいっぱいです。

「はなれないで」出しかけた手を
ポケットに入れて握りしめていた

もうがんがん伝わってきますね。手をつなぎたかったのだけど、その手は途中でためらって、結局はポケットの中です。つなごうと思っていた手は、つなげなかったんだ。読み手にそう思わせるに十分な表現です。
3番のAメロにも同じような表現があります。

線香花火マッチをつけて
色んな事話したけれど
好きだって事が言えなかった

「好きだって事が言えなかった」って!
この表現、ストレートだけど最高に響きます。きっとけっこうさまざまな話が盛り上がるような、気の置けない間柄だったのでしょうね。でも、だからこそいちばん言いたいことを伝えられないなんて。
この曲、これ以降の部分はサビの繰り返し。新しい歌詞はもうでてきません。だから、歌詞だけを読むなら実質 最後の最後でこのフレーズが登場するわけです。私たちはこの歌詞を最初から読みながら、主人公は「君」のことを好きだったんだろうな、ということはなんとなく察知しながら読めます。そんなオーラ全開だもん。でも、はっきりとは書いてありません。
最後の最後、ここの部分まで。
ここまでじらして、最後にこの表現もステキ。好きだって事が言えなかったという風に、一度「好きだ」という言葉を使ってから、それを複文として「言えなかった」に取り込んでしまうという手の込んだ手法がすごいです。この歌詞を紡いでいる時点で、夏の記憶はすでに過去のものなのに、それでも複文というオブラートに包まないと、過去の記憶はさらすことができないのです。
さらにこのあと、次のサビに入る直前に破裂音がしますよね。花火のような少し乾いた音です。このタイミングも絶妙で、あと半拍早くても遅くてもだめなところだと思います。これがあるから、こらえて、こらえて、こらえて、書かずにいた「好き」という言葉が効果的に響くんだな、って私は思います。これを聴けるのはWhiteberryバージョンだけの特権です☆

「離れて歩いた」のはどちらから?

さて、冒頭の疑問に戻ってみましょう。2番のAメロの最後の部分。

君は好きな綿菓子買って
ご機嫌だけど 少し向こうに
友だち見つけて 離れて歩いた

こんなシーンがあります。「離れて歩いた」のはどちらなのでしょう?
ふつうは「離れて歩いた」のは「君」なのかな?って思ったりするんじゃないかなぁ。だって、引用した部分の最初は「君」だから。ふつう文の途中で主語はくるくる変わったりしませんから「君」から始まる文は最後まで「君」主語のまま終わるのが基本のはず。
でも、こんな風にも考えられます。

子供みたい金魚すくい
夢中になって袖がぬれてる

金魚すくいに夢中で袖がぬれてるなんて。「君」はひとつのことに集中したら、周りのことはあまり視界に入らなくなるような性格なのかもしれないですね。だとしたら、「君」は主人公といっしょに夏祭りを楽しんでいるのを友だちに見られるとか、そんなことは気にしないかもしれません。とすればこの部分、主人公のほうから「離れて歩いた」のでしょうか。
いやいや、主人公は「君」のことが本当は好きなはずです。それに、

はぐれそうな人ごみの中
「はなれないで」出しかけた手を
ポケットに入れて握りしめていた

(たぶん)移り気な「君」とは、手はつなげなくともはぐれないようにすごく気をつかっている様子は一目瞭然です。わざわざ主人公のほうから離れて歩いたりするでしょうか。うーん…どっち…??
さて。私の答えを書きましょう。私は、主人公のほうから離れて歩いたんだと思います。
さっき、1番と3番のAメロを引用しましたよね。

君は好きな綿菓子買って
ご機嫌だけど 少し向こうに
友だち見つけて 離れて歩いた

線香花火マッチをつけて
色んな事話したけれど
好きだって事が言えなかった

どちらも、主人公の「君」への思いをカタチにすることができなかった部分が表現されています。『夏祭り』の歌詞の骨格をなすような、大事な部分だと思います。
この2個所、どちらもAメロの最後、サビに入る直前です。そして私が疑問を提示した部分、

君は好きな綿菓子買って
ご機嫌だけど 少し向こうに
友だち見つけて 離れて歩いた

ここもまったく同じ。ぜんぶAメロの最後、サビに入る直前です。
歌詞の中で同じメロディに乗っている部分は、対応する意味を持っていることが多いように私は思います。フジファブリック『若者のすべて』とかで同じような考えを使っています。とすると『夏祭り』のAメロの最後は「君」への思いをカタチにできない部分が集まっているのかも。

君は好きな綿菓子買って
ご機嫌だけど 少し向こうに
友だち見つけて 離れて歩いた

だとすれば「離れて歩いた」のは主人公のほうかな、と私は思ったのでした。君とはもちろんいっしょにいたいけれど、友だちに見られて照れくさい気持ちになることとを天秤にかけたとき、主人公は照れくささから逃れるほうをとってしまったんですね。本当は大事なのはそっちじゃないはずなのに。それも分かっているのに。
そんな主人公とは対照的に「君」の描写を見てみるとちょっとおもしろいことに気づきます。

君の髪の香りはじけた
浴衣姿がまぶしすぎて
お祭りの夜は胸が騒いだよ

子供みたい金魚すくい
夢中になって袖がぬれてる
無邪気な横顔がとても可愛いくて

君は好きな綿菓子買って
ご機嫌だけど

「君」にまつわる部分をまとめてみました。主人公の目線から「君」の魅力が語られていますけど、ここの中で「君」本人が意識してやってることってひとつもありません。髪の香りも、ぬれた袖も、無邪気な横顔も、ぜんぶ意識してやってることじゃありません。
それに対して主人公自身はというと、思いが先行して行動に移せないようなことばっかりです。なんでも自然体(に見える)「君」がいるからこそ、主人公のこの先走るばかりの思いが鮮やかに浮かび上がってきますね。それがこの歌詞の中の切ない世界をつくりだしているんだな、と私は思いました。

つながリンク

前回 取り上げたのは、ZONE『約束 〜August, 10years later〜』です。今回 取り上げたWhiteberry『夏祭り』との共通点は花火です。
ZONE『約束 〜August, 10years later〜』では、サビに花火(過去の作品名に合わせて「H・A・N・A・B・I」という表記ですが)が出てきます。

巡る風 季節は過ぎ 僕達の約束 色あせない
君とみたあのH・A・N・A・B・Iが 今はこの空に咲いてるよ
「綺麗だね」今年こそは 君にみせたい

前回は指示語に注目して歌詞を読みましたね。そして「あ」がつく部分は、過去と密接な結びつきがあることを前提に、歌詞を読んでいきました。
ここには、「あのH・A・N・A・B・I」という歌詞が出てきます。この曲では花火は、過去の大事な記憶のいかりになっているのだろうと、私は歌詞を見て思いました。
翻って今回Whiteberry『夏祭り』には、

君がいた夏は 遠い夢の中
空に消えてった 打ち上げ花火

こんな感じに「花火」が出てきます。
この歌詞は、1行めと2行めが同じメロディです。2行めに出てくる「花火」が消えてしまうものなら、きっと1行めに出てくる「君」だって同じはず。つまり、「花火」が消えてしまったのと同じように「君」も消えてしまった、って意味として花火が使われているんだろうな、と思いました。
同じ読み方はフジファブリック『若者のすべて』でも使いました。J-POPに花火が出てくるときって、花火が消えるのと同じように、別の○○も消えたという描かれ方が、ひとつのスタンダードになっているのかもしれないですね。



Whiteberryを取り上げたのは、Whiteberry『桜並木道』に続いて2度めです。Whiteberryはずいぶん前に解散してしまったバンドだし、実は私はリアルタイムではそんなに詳しくは知らないのですが、あとあとになってから聴いてみるとけっこう私のツボをびしばし刺激してくれるいい歌詞の世界を持ったバンドだなぁって今さらながら思っています。ぜひ深く読んでみたい!と思う曲が少なくともあと2曲はあるんだけどなぁ…。
『夏祭り』以外の曲はそんなに知られていないように思うので、これからひんぱんに取り上げるかどうかについてはちょっとためらいもあるけど…どうしよっかなぁ。いや、これをクリアするのが先か…。
選曲って、案外いろいろと考えばかりが先行して、なかなか決めるのに時間がかかるのです。『夏祭り』の主人公と同じだなぁ。
夏祭り

夏祭り

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(初)

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KISEKI~the best of Whiteberry

KISEKI~the best of Whiteberry

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