どうとでも読める歌詞のヒミツ
あけましておめでとうございます。今回取り上げるのは、
『アンパンマンのマーチ』です。初アニソン♪ ちなみにJ-POPがどうとかっていうタイトルのブログを書いていますが、あんまりJ-POPにはこだわってないです。いままでにもボカロ曲（家の裏にマンボウが死んでるP feat.GUMI『クワガタにチョップしたらタイムスリップした』とか）を取り上げたりしているし。早く演歌とかK-POPとか取り上げたいです…。
さて、『アンパンマンのマーチ』は、
そうだ おそれないで
みんなのために
愛と 勇気だけが ともだちさ
ああ アンパンマン
やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため
というサビの部分が有名な曲です。日本のアニソンとしてはたぶん指折りの知名度。
その知名度の高さもあって、この曲にはいろんな読み方があるみたいです。たとえば
http://rocketnews24.com/2012/11/02/263134/
サービス終了のお知らせ - NAVER まとめ
みたいな感じ。この歌詞、歌詞の仕組み上、すごくいろんな読み方を許容してくれています。
どうして？ どんなところが？ 今回はそれを探ってみたいと思います。
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/song/7326/
構成はこちら→サビ-A-B-サビ-A-B-サビ-B-サビ
試し読み その1
いろんな読み方ができるよ、ということで、ためしに暗い読みでやってみたいと思います。たとえば、この曲はいじめがテーマだとしたらどうでしょう？ いじめというか、いじりに近い感じ。表面上は同じグループで仲良くしているように見せつつ「君」を道化に追い込んで、それを見るのを楽しみにするような主人公。こんな設定で読んでみます。
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられない なんて
そんなのは いやだ!
冒頭のサビが開けたAメロです。主人公は「君」の生きる意味をこんな風におどけて伝えています。「君がこのグループでやっていけるのは、自分が君のおもしろさを引き出してあげているからだ。だからリクエストに応えられないなんてことはないだろう？ ○○やってみろよ！」みたいな発言をイメージしてみるとぴったりきますね。あれだ、イジリってやつだ。
そうだ うれしいんだ
生きる よろこび
たとえ 胸の傷がいたんでも
ああ アンパンマン
やさしい 君は
いけ! みんなの夢 まもるため
1番のサビはこんな感じです。笑いを取ることが「生きる よろこび」なのだと、主人公は繰り返し「君」に吹き込んでいるのがわかります。「胸の傷」は、それがほんとうにいじめになりそうになってしまったような、そんなエピソードを指しているのだとすればわりとナットクです。
ついでに、2番のサビは冒頭が「そうだ おそれないで」に変わっています。これも意味深。おそれているような事態が想定されない限り「おそれないで」なんてふつう言わないんだから。「おそれないで」って言っているということは「君」がおそれを顔に出しているということです。それがむちゃぶりに対峙する表情だとしたらなんだかいろいろとキレイにつじつまが合いそうです。
時は はやく すぎる
光る 星は 消える
だから 君は いくんだ
ほほえんで
さらに3番のBメロも引用してみました。これもなかなか示唆深い感じに読むことができます。「時は はやく すぎる／光る 星は 消える」のあたりは、「笑いには鮮度があるんだからさあやれよ」と「君」に迫っているような感じがします。
…っと、こんな感じで、この歌詞はいじめを描いている歌詞として読むことができそうです。私が小さいころは絶対にそんな歌詞として捉えたりしてなかったはずなのに。いったいどうして？
どうとでも読めるのはどうして？
この曲は一般的には生への賛美だと捉えられたり、戦争で亡くなった弟へ向けた曲と捉えられたりしています。私はいじめが描かれていると思ってみました。どれもそんなに大きな矛盾のない読み方だと思います。
でも、この3つの読みには共通点がぜんぜんないように見受けられます。どうしてこんなにたくさんの読み方ができるのでしょうか。
それは、この歌詞に主語がほとんど現れないからだと私は思いました。
なんのために 生まれて
なにをして 生きるのか
こたえられない なんて
そんなのは いやだ!
もう一度、2連を引用してみました。冒頭のキャッチーなサビが終わって、間奏をはさんで、この部分が実質的にこの歌詞の最初に当たります。この歌詞の最初で、この歌詞の世界観の説明をしてくれているシーンです。曲の最初に状況を説明してくれるやり方はたむらぱん『ちゃりんこ』やAKB48『GIVE ME FIVE!』なんかでも出てくる、割と定番なやり方だと思います。
でも今回の『アンパンマンのマーチ』が特別なのは、世界観の説明がとっても雑だということです（笑）。説明はきちんとされているのですが、いかんせん主語がないのでとてもあいまいなのです。「なんのために 生まれる」のはだれ？ 「こたえられない」のはだれ？ 「そんなのは いや」なのはだれ？？
ここの部分をいろんな風に当てはめて聞けるから、この歌詞は多様な読み方を許容してくれるのです。実例を挙げてみましょう。
この曲を生への賛美として捉える場合、さっき引用した2連の部分は自問自答として読むことができます。生まれたり生きたりするのは主人公。こたえられないのも主人公。いやなのも主人公、です。主人公が自分の生きる意味を考えて、それがわからなくて、いやだと思う気持ちに打開策を見いだすあたりでサビに入ります。うんうん、とってもいい感じ。
この曲を戦争で亡くなった弟へ向けた曲だと捉えるとしたらどうでしょう。生まれたり生きたりするのは弟。こたえられないのは自分、いやなのも自分、になりそうです。弟の命が戦争によって奪われたように感じて、生きていく意味がわからなくなってしまった、と歌う主人公の姿が見えてきます。弟の生（と死）に意味を見いだせないもどかしさを歌うシーンになります。
この曲がいじめを描いているとしたら、また主語が変わってきます。生まれたり生きたりするのは「君」。こたえられないのも「君」。いやなのも「君」です。この部分は、生きる意味を見いだせない「君」の気持ちを主人公が代弁していて、「君」の生きる意味は主人公が知っていることを暗に示しすような読み方として浮かび上がってきます。
読み方ごとの主語を表にまとめてみると、こんな感じになります。
| 生まれて／生きる | こたえられない | いやだ | |
|---|---|---|---|
| 生への賛美の場合 | 主人公 | 主人公 | 主人公 |
| 戦争で亡くなった弟へ向ける場合 | 弟（＝「君」） | 主人公 | 主人公 |
| いじめの場合 | 「君」 | 「君」 | 「君」 |
こんな感じ。主語を補える場所は3つありますが、その組み合わせがどれも違うってことがわかりますね！（補足ですが、ここでいう主人公とはアンパンマンのことではなく、歌詞には直接現れてない一人称の誰かさんのことです。アンパンマンは二人称なので「君」に相当します。）
ちなみに、この歌詞に関しては、こちらの質問で、人力検索はてなのみなさんにも考えていただきました。その中でも特にわかりやすかったものを表にまとめてみました。
| 生まれて／生きる | こたえられない | いやだ | |
|---|---|---|---|
| ★完全無欠の男がテーマ読み | 「君」 | 「君」 | 主人公 |
| ★マドンナにアタック読み | 主人公 | 主人公 | 主人公 |
| ★オタクでニート読み | 主人公 | 主人公 | 主人公 |
| ★発酵読み | 主人公 | 主人公 | 主人公 |
| ★自分に自信はないけれど読み | 「君」 | 「君」 | 主人公 |
（※ただし「自分に自信はないけれど読み」は自問自答スタイル）
見て！ ばらばらに見えた5種類の読みが、2つに集約できる！
という感じで、この観点からすると、ここで回答いただいた5つの読みは、実は大きく2つに分かれるということがわかります！ なにこれスゴい。
主語を補える場所が3つあって、それぞれ主人公か「君」かのどちらかになるはずなので、この歌詞の多様な読みは、その観点では全部で2の3乗だから8パターンに集約することができるはずです。ここの部分に選択肢があるから、この歌詞は多様な読み方を許容してくれる、というわけなのでした。今回は我ながらスッキリいったぜ。
いままでは割と雰囲気で読んだりしてたところも強かったのですが、今年はこんな感じでもう少しアタマを使って、
「この8パターンに集約できるはずです！(ﾄﾞﾔｧ」
みたいなスタンスでやっていけたらいいなと思いました、まる。
なお、今回は
【歌詞読み・ナゾ解き】私がある歌の歌詞を読んだときのメモが出… - 人力検索はてな
こちらにおきまして、人力検索はてなのみなさんにクイズという形でお力添えをいただきました。どうもありがとうございました。楽しかったです。
さて、これが新年最初の記事になります。昨年中は大変お世話になりました。ほぼ新しい記事の告知しかしないTwitterアカウントにたくさんのフォローをいただいたり、取り上げる曲を選びあぐねて路頭に迷う私にアドバイスをいただいたり、あげく本までお送りくださる方に巡り会えたりと、とんでもない1年になり、とてもビビっております。
今年もこんな感じにはなりますが、どうぞよろしくお願いします。いい記事書くよ！(`・ω・´)
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（2016/01/17修正しました。）
