5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

mihimaru GT『幸せになろう』

「あなた」はだれ?
こんにちは。
前回予告した通り、今回はmihimaru GT『幸せになろう』を取り上げてみたいと思います。mihimaru GTならもっと有名な曲ありそうだし、最新でもない曲をどうして取り上げてしまったのか、自分でもよく分かりません(>_<)o でもこの曲、いい曲ですよ。mihimaruGTで私がフルで知っている曲ってこれだけだし←
幸せになろう
さて、私が気になっているのはココです。

きっと 悲しいこと 嬉しいこと 全てある
何が大切かわからなくなる
それでも私は あなたさえいればそれでいい
必ず 幸せになろう

コレです。「あなた」ってだれ?という、ここでは割とベタな疑問を、今回はこの歌詞にぶつけてみたいと思います。

歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND70822/index.html
構成はこちら→サビ-A-A-B-サビ1-サビ2-A-A-B-サビ1-サビ2-C-サビ1-サビ1-サビ2

「あなた」はだれ?

J-POPの歌詞には「あなた」とか「君」とかが出てくる曲ってすごくたくさんあります。「あなた」や「君」は二人称なので、多くの曲はそんな「あなた」や「君」に歌いかける体裁をとっています。
大体の場合、歌いかける宛先は恋人って感じがします。時にはそれが友だちになったり(ZONE『secret base〜君がくれたもの〜』とか)、おばあちゃんになったり(植村花菜『トイレの神様』)しますが、恋人がいちばん多いように思うし、きっと聴いている側もたいてい恋人と思って聴いているだろうとは思います。
mihimaru GT『幸せになろう』もそうです。恋人に向けたラブソングに見えます。「あなたさえいればそれでいい」。うん。恋愛と引き換えに何か犠牲になったものもあるかもしれませんが、それでも後悔がないストレートな恋愛、って風に読めます。
が、もしかしたらそうではないかもしれません。ふつうのヘテロの恋愛の曲に見えても、もしかしたら異性愛じゃなくて同性愛を歌っているかもしれないし、それは恋愛ではなくて兄弟愛を歌うものであったり、実は人物じゃなくてもっと抽象的な相手だったりするかもしれません。
私はそういうのけっこう好きで、いままでも

とかでそんな読み方をしてきています。で、今回もこのシリーズに挑戦してみました!

  *  *  

というわけでmihimaru GT『幸せになろう』の話に戻ります。
身もふたもなくいきなり結論ですが、私、この曲の「あなた」は主人公の子どもだと思います。主人公には3歳ぐらいの子どもがいますが、主人公自身は別れていて、子どもとも別居しています。
…っていうシチュエーションでどうでしょう?

なにげない日々も つまずきそうな日々も 信じれる
必ず 幸せになろう

冒頭の1連です。私が気になるのは「幸せになろう」というタイトルのフレーズ。
「なろう」の「う」は助動詞で、私の手元の『新明解国語辞典』によると「主体の意志を表す。」みたいな感じで意味が出ています。ここで注目なのは用例なのですが、

  • 返事を書こ
  • 一つ上げましょ
  • まさに飛び込もとしていた

ってな感じです。気づくことはないですか? 見て! どれも文章の内容は達成されてないよね!
「返事を書こう」って状態だと、返事はまだ書かれていません。「一つ上げましょう」って言われている時点では、まだくれてません。「まさに飛び込もうとしていた」っていったら、飛び込む直前ではありますが、まだ飛び込んではいません。
ここで原点に立ち返ります。「幸せになろう」って書いてあったら、主人公は幸せではないのでは? そんな疑問にかられることになるのです(斉藤和義『やさしくなりたい』のときの「たい」と同じ構図ですね)。
そんなわけで、明るい曲調だしハッピーオーラも見え隠れするけれど、それでも幸せにはなれていないような主人公に見えます。先ほど私が書いてみたようなバックグラウンドを思い浮かべれば、この陰りもなんとなくナットクです。主人公は「あなた」の父親にあたる人物とは別れてしまったけれど、それでも前に進めるような、温かい気持ちに包まれているのです。

うまく言えないけれど
頼りない私だけど
一緒に泣いたり
重荷を分かち合いたい

1番の2つめのAメロ。「一緒に泣いたり」ってことは「あなた」は泣いています。どうして?
ふつう、彼女といっしょにいる男性がやすやすと泣いたりしないと思うのです。でも、もし「あなた」が子どもだったらそれも腑に落ちます。そして「あなた」の前で泣いてしまう主人公が自身を「頼りない私だけど」って描写しているのもすごくつじつまがあっていい感じです♪
ほかにも、そんな読みをするときれいに符合する個所がたくさんあってこの歌詞はおもしろいのですが、最後にひとつだけ。

二人きりで夢を話そう
あなたの好きなラテをいれよう
不器用なRAP SONG
この唄に愛を託そう

2番のBメロです。ここいいと思いませんか? 「あなたの好きなラテをいれよう」のところ。ラテってイタリア語で牛乳のことです。すごい! 「あなた」は子どもだから、ミルク飲むんだ! 牽強付会もいいとこ!←

少しずつ変わる歌詞

そんなわけで私は「あなた」は主人公の子どもだと思うのですが、まあ「あなた」がだれであろうと、私がこの曲をいいと思うところは別にあります。それは歌詞の後半。前半の歌詞の焼き直しなのかと思いきや、少しずつ歌詞が変わっていっています。その少しずつっぷりがとても見事で鮮やかです。

あなたさえいれば どこだって辛くない
愛する力が 私を変えてく
なにげない日々も つまずきそうな日々も 信じれる
必ず 幸せになろう

Cメロ明けのサビがこれです。
「愛する力が 私を変えてく」という歌詞は、つよいと思います。何かの困難があって、自分が成長したとしても、その成長を自分自身がリアルタイムでわかるようなことは、なかなかないと思います。長い年月を重ねて振り返ったとき、昔の自分と比べて今の自分はいつの間にか成長しているな、と実感するのがふつうだと思います。
でも「愛する力が 私を変えてく」という主人公の言葉は、それをまさにリアルタイムで実感しているかのよう。その確かな手応えが、最後のサビをわくわくに変えてくれます。
「なにげない日々も〜」からの後半2行は、歌詞全体の冒頭の2行と同じです。このフレーズは最初以来ぜんぜん出てきてなかったフレーズなので、聴いている私たちにとっては懐かしさ半分、新鮮さ半分。原点に立ち返って、また歌詞の続きをつないでくれる力強さを感じます。GOING UNDER GROUND『トワイライト』のときと同じ仕組みですね。

きっと 悲しいこと 嬉しいこと 全てある
何が大切かわからなくなる
それでも私は あなたさえいればそれでいい
必ず 幸せになろう

上に引用したのは1番のサビ。前半の2行で迷いを描き、後半の2行で決心を描く、その対比がとても見事です。闇があるから光が輝くようですよね。私が作詞家になるならこの曲かなり目標にしちゃうと思います。
サビのフレーズでは3行めが起承転結でいう「転」になるので、聴いている人を置き去りにしないためにも少し丁寧な描写がふつうは必要になるのだと思います。「それでも私は あなたさえいればそれでいい」は、その原則を丁寧に実践するような感じがしますね。でも最後のサビまで来たら、聴いている人はもうこの構造に慣れているし、むしろ単純な繰り返しには倦んでしまうかもしれません。
だから、Cメロを越えてから出てくるサビのフレーズは少し歌詞が変わっています。

きっと 悲しいこと 嬉しいこと 全てある
何が大切かわからなくなる
だけど愛してる あなたさえいればそれでいい
必ず 幸せになろう

この「だけど愛してる」はすごくイイですね! 3行めの歌詞は「だけど愛してる」と「あなたさえいればそれでいい」で、言っている内容は大体同じです。「転」の鮮やかさを濃縮された2フレーズで言い換えているから、鮮やかさも2倍。しかもこの行全体の構造も変わって、聴くほうもとても新鮮です。GReeeeN『キセキ』のときもそうでしたが、ヒップホップの歌詞ってこういうレトリックで魅せてくれますよね☆



というわけで、mihimaru GT『幸せになろう』でした。
今回はできるだけ、過去の記事と関連させて読むように心がけてみました。私ひとりが読んでいる限りは、私の読みなんてどうせどこかでタカが知れているし、つまりどこかでつながっているということだと思うので、これからもそれをできるだけ明示していきたいなと思っています。
次回は、やはりサカナクションとかに挑戦してみるべきなのではないか、と、思って…います、たぶん(汗)。
https://itunes.apple.com/jp/album/xingseninarou/id293471554?i=293471556&uo=4&at=10lrtS
↑なんでサビちょっとしか聴けないんだろう…クリックすると続きも聴けますよ〜(回し者)。