5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

ジャニーズで考える哲学した! - 戸谷洋志『Jポップで考える哲学』を読んで

こんにちは。

あああもうこの本めっちゃ楽しいです!

「先生」と「麻衣さん」がJ-POPの歌詞について対話をしていく中で、1曲につき1人の哲学者の思想が形をなしていく、っていうスタイルの本です。曲からも、アーティストからも、そして思想のテーマからもアプローチができるなんて…どんだけポップなんだ…。

わたしは哲学についてはまったくびっくりするほど何の素養もなく、J-POPについてもべつに詳しくないんですが、この本を足がかりにお勉強をしようと思ったので、この本の内容に沿ってべつの曲を選んでいってみました。しかも今回はジャニーズ縛りでやってみました!

内容に合うジャニーズ曲を選ぶの、苦労したけど楽しかったし、こうして自分なりに組み立て直すことは哲学の部分についての理解を深めることにつながるよね!

今回の記事はそのお勉強ノートです。

第一章 自分

  • 自分のことを考えようとすると、考える自分と、考えられている(思考の客体になっている)自分、とが分離してしまう。だから、ありのままの自分を知ることは不可能であると、哲学者のカントは主張した(pp.34-35)。曲はMr.Children名もなき詩』。
  • 「私」という概念が成り立つためには「私ではないもの」、つまり他者が存在しなければならない(p.48)。これを哲学者フィヒテは「非我」と呼んだ(p.50)。曲はゲスの極み乙女。『私以外私じゃないの』。
  • 「自分」を確信するということは、「自分」を承認してくれる他者との相互関係なしには成り立たない。「私」は、他者に認められると同時にその他者を認めるという相互関係の中で、「自分」の存在を確かなものにしていく。哲学者ヘーゲルはその関係を「相互承認」と呼んだ(p.68)。曲は乃木坂46君の名は希望』。

これを見てわたしが思い浮かべたのは嵐『君のために僕がいる』です。
君のために僕がいる - 嵐 - 歌詞 : 歌ネット

この曲、Aメロでは主人公がこう語りかけます。

いつもと同じ 街角に立ってる
そう何を探してる? 歩く道わからないの?
 
この惑星の上に 生まれてきたこと
もう後悔しないように 勇気をあげる

「歩く道わからない」状態で困っているのはたぶんヒロインで、主人公はそんなヒロインに「勇気をあげる」と言ってくれています。

これは、ここまでの議論に引きつけていうなら「承認」と呼べるものだと思います。

この歌詞は1番のサビの最後こういう感じです。

君のために 僕がいる
2番のサビの歌詞は、こういう終わり方。
僕のために 君がいる
これってもしかして、「僕」と「君」が、入れ替わってる〜!?
「僕」と「君」が入れ替わるのは、承認が相互的だからです。この曲にはヘーゲルの「相互承認」がわかりやすいかたちで表れているように思います。

第二章 恋愛

  • 「私」と他者との関係には、「私-もの」と「私-君」のふたつがある。「私-もの」の関係は言葉で示すことができ、言葉という間接的なものを必要とするのに対して、「私-君」の関係は言葉で言い尽くすことができない。また、直接的で相互的な特徴がある、と哲学者ブーバーは主張した(pp.90-91)。恋人との関係は、この世界の他の事物から区別され、それを共同性と呼ぶ(p.94)。曲はAI『STORY』。
  • 恋愛のような特別な状況において、人間の自己意識は自他の区別のない状態に感じられることがある。これを哲学者メルロ=ポンティは癒合性と呼んだ(pp.110-111)。失恋とはこの癒合性が脅かされるということ。曲は西野カナ『会いたくて 会いたくて』。
  • 「私」と恋人は異なる存在であって、それぞれの願望が一致することはじつはない。恋人の願望を「私」が都合のいいように変更することもできない。これが共同性という概念の限界(pp.123-124)。哲学者レヴィナスは、他者の声に耳を傾け、他者の眼差しを受け止めながら、他者と向き合うことこそが「正義」であると主張した(p.130)。曲は宇多田ヒカル誰かの願いが叶うころ』。

ジャニーズのたのしい恋愛の曲はたくさんあるんですが、今回はKis-My-Ft2『最後もやっぱり君』。つんくっぽい意味わかんない感じがとってもよい♪(そういえばこのブログではつんく曲やったことないかもしれないな…)
最後もやっぱり君 - Kis-My-Ft2 - 歌詞 : 歌ネット

理由は何もないよ 根拠はもっとないよ
ただただずっとずっと 一緒に過ごしたいだけ
それじゃダメなのかい

「理由は何もないよ 根拠はもっとないよ」ってあたりが「私-君」関係の片鱗を見るようですごくいいですね。

「私-もの」的な関係であれば、ここでもっときちんとした理由や根拠が出てくるんじゃないかと思いますが、主人公にとってはヒロインは代わりの利かないヒロインであるというだけの理由で必要な存在なので、ちゃんと言葉にすることなど叶わないのですね。わかる〜〜〜!

単に「言葉にならない」と言って逃げたり、「会いたい」を連呼したりするだけのラブソングを批判する心ない文章を見たことがあるけど、そういう風にしか言えないからこそのラブソングなのだし、言葉足らずなのにはちゃんと理由があるんだよなって思います。

僕の事より君 僕といつでも君
最後もやっぱり君
最後もやっぱり君

あとこの締め方がわけわかんなくてだいすき💕

第三章 時間

  • 時間には日常的な時間と特別な意味を持った時間がある(p.139)。このうち後者に対応する、様々な印象が全体となってひとつに混ざり合う記憶を、哲学者のベルクソンは「純粋記憶」と名付けた(p.152)。曲はBUMP OF CHICKEN天体観測』。
  • 未来とは少しでも早く実現したい目的であり、現在の行為は、目的に向かう手段としての性格を持つ(p.170)。しかし未来の「まだ存在しない」という性質と正面から向き合うことは、自らの欲望を滅却させて「待つこと」だ(p.178)。哲学者ヴェーユは未来に注目して「待つこと」の重要性を指摘した(p.175)。曲はaiko『キラキラ』。
  • 日常生活を支配するのは、過去、現在、未来のつながりの背後に控える、目的と手段の連関であり、これに乗っ取って考えれば、現在はなければないほど望ましいものになる(pp.189-190)。しかし現在の一瞬を生きることは目的と手段の関係からは自由であり、哲学者バタイユはそれを「至高性」と呼んで重要視した。曲は東京事変『閃光少女』。

これを踏まえて選んだのがHey! Say! JUMP『キミアトラクション』。
キミアトラクション - Hey! Say! JUMP - 歌詞 : 歌ネット

東京事変『閃光少女』の項での議論は、「遊び」についてとすごくよく似ている風に思います。遊びはほかの行為から、時間的、空間的に隔てられていて、遊びの時空間はそれ自体に価値があります。その感じは、「至高性」とよく似ていると思ったんですよ!

Wa! 電光石火 ウソみたいな落下速度だ
昨日は (Ah Ah) 想像も (Oh Oh)
してなかった ラブフリーフォール
 
Baby もう“キミチュウドク” 症状は深刻そう (うんうん)
綺麗な目 (Your Eyes) なびく髪 (So Cute)
ドキッ! トキメキ メリーゴーランド

「フリーフォール」「メリーゴーランド」っていう言葉からも見えるように、この曲では「君」が(遊園地とかの)アトラクションになぞらえられています。

なるほど「僕」が「君」に乗るわけね……。

アトラクションに乗っている間は、ほかのことが一切意識に上ってこないという点で、恋愛の「共同性」にも目を配ったたのしいメタファーだとわたしは思います。

さらに、アトラクションに乗るのは早送りも巻き戻しもない一度限りの現在だという点で「至高性」がよく感じられていいよね!

「想像も/してなかった」という点で過去からの断絶が見えるし、「予測不可能」という点で未来とも切り離されているし、ちゃんと「今」が際立つようになっているので、ぴったりだと思いました♪

第四章 死

  • 死への不安の根源は、私たちが死を経験することができないという点にある。しかし死後の世界と魂の不死を想定すれば、その不安は克服することができる(p.207)。それでも魂の不死を信じられなくなったとき、私たちは死への不安を拭えなくなる。哲学者キルケゴールは「絶望」こそが「死に至る病」であると主張した(p.216)。曲はRADWIMPSおしゃかしゃま』。
  • 日常生活を生きているとき、私たちは自分自身の本来の生き方から目を逸らし、何も考えなくなってしまっている。これを哲学者ハイデガーは「非本来性」として性格づけた(p.231)。一方で死によって明らかになる自分自身の本来の生き方を「本来性」と呼び、これを自覚することを「先駆的覚悟性」と呼んだ(pp.236-237)。曲は浜崎あゆみ『Dearest』。
  • 死は私たちを最終的に確定するものだが、確定された人生を意味づけるのは残された他者たちである、と哲学者サルトルは考えた。残された他者の追憶によって意味づけられる故人の人生を「他有化」と呼ぶ(p.253)。曲はONE OK ROCK『A new one for all, All for the new one』。

死に関する曲がちゃんと充実してるクラスタって多くはないけど、全方位揃っているところはジャニ界隈のたのしいところ! というわけで山下智久愛、テキサス』。
愛、テキサス - 山下智久 - 歌詞 : 歌ネット

ashiyakomine.hatenablog.com
この曲については芦屋こみね (id:ashiyakomine)さんの記事よすぎるので趣旨を引用させていただきます。

もうすぐ俺結婚するんだ、って話してた男が、自分のせいで死んでしまった。あいつはもう二度と帰ってこない。そんな最悪の過去を背負った男が、人生をなかば捨てながら自暴自棄に撃ちまくる曲

まとめるのもお上手だなぁ…。すごいなぁ…。

歌詞の中にはこういう台詞が入ります。

あの日俺らはいつものようにテキーラを飲みながら
もうすぐ結婚するってあいつの話を笑って聞いてた
「お前が死んだのは俺のせいだ」って言ったら
多分あいつは笑うだろう

主人公はガンマンとして死を覚悟している状況です。

主人公が「多分あいつは笑うだろう」と語るのは、主人公の死の意味を付けるのは、本人ではなくて周囲の人々だからです。これこそ人生の他有化!!

第五章

  • この世界に絶対的なものなどなく、あらゆるものが相対的でしかない。世界の本質的な相対性を哲学者パスカルは「広漠たる中間」と呼んだ(p.277)。その中で人間の活動を、パスカルは「気晴らし」「虚しさ」「倦怠」の3つの概念で説明した(pp.278-279)。曲は嵐『Believe』。
  • 決断の本質とは、決断がその決断をした人間の人生を表現する、という点に存している、と哲学者ヤスパースは主張した(p.299)。決断は私たちを「世間」から解放する。これを決断の「無制約性」という(p.301)。決断は、根源的な自己肯定だ(p.304)。曲はSEKAI NO OWARIRPG』。
  • 哲学者ニーチェは、孤独であることを恐れて、自分を否定するように生き方をしてでも他者と群れる人々を「畜群」と呼んだ(p.317)。一方で、同じ秩序の中に身を置きながらも孤独に生きる強さを持っている人間関係を「星の友情」という比喩で表現した(p.328)。曲はいきものがかり『YELL』。

パスカルの話は少し難しそうだったので、それ以外のふたつの話を網羅する曲として、TOKIO『宙船(そらふね)』を選んでみました。
宙船(そらふね) - TOKIO - 歌詞 : 歌ネット

その船を漕いでゆけ おまえの手で漕いでゆけ
おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールをまかせるな

この部分には「畜群」に成り下がるな、自分で「決断」せよ、っていう強いメッセージを感じます。

船は挑み 船は傷み
すべての水夫が恐れをなして逃げ去っても
すべての港が灯りを消して黙り込んでも

同じメッセージは、言葉を変えて何度も何度も登場します。そのたびに主人公は、漕ぎ続けることを「決断」するわけですね。決断の軌跡は航路であり、人生です。

その道具として「船」という言葉が出てくるのもとてもいいなってわたしは思います。「船」は漕ぐことで前に進めるからです。本質的に自由を表現するのにぴったりですよね!


ということで、ひととおりできたぜ!

この本の中で「先生」は「Jポップがもつ大きな特徴は、それが言葉に重きを置く音楽である、ということです」と言っています(p.10)。それが、哲学の題材としてJ-POPを取り上げた大きな理由のひとつみたいです。とてもよくわかります♪

今回はこの本の内容、素っ気ない感じにまとめてしまいましたが、生きていくのにあたって背中を押してくれる表現もたくさんあって、そういうところがめっちゃ好きだったりするので、ぜひたくさんのひとに読んでほしい!

わたしが好きなのは、この部分。

「私たちの人生は死によって最終的に確定されてしまいますが、しかし死ぬその瞬間まで、私たちは何度でも自分自身を変えていく可能性が開かれています。」(p.257)

いいよね!!!

あと、J-POPをテーマにいろんなひとに文章を書いてほしいな!

この本がよすぎて、好きが高じたわたしは、著者の戸谷洋志さんが進行役をする哲学カフェのイベントに参戦するなどしましたが、それはそれですごくよかったです。

西千葉哲学カフェ、最近動きがないみたいですがどうしてるかな…。次のイベントまだかな…!!

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