5日と20日は歌詞と遊ぼう。

毎月5日と20日に、J-POPやボカロ曲などの歌詞を読んだり、統計したりしています。twitterは@hacosato。

米米CLUB『浪漫飛行』

妄想し放題の無人称(?)
こんにちは!
予定では嵐『Breathless』をやるはずだったし、ぶっちゃけほぼ書き終わっていたんですけど、やっぱり予定を変更しまして米米CLUB浪漫飛行』を取り上げたいと思います。

その胸の中までもくもらぬように Right Away
おいかけるのさ My Friend
トランク一つだけで浪漫飛行へ In The Sky
飛びまわれ この My Heart

サビはこんな感じ。この歌詞、登場人物の描写が少なすぎて、よく考えてみるとさっぱり分かりません。
「その胸」ってどの胸? 「おいかける」のはだれ? 「My Friend」ってだれ?
考え始めると、意外に謎の多い歌詞です。こんなに読みやすそうな感じがするのに! なんなの!!
この歌詞、実は昨日読み始めたばっかりなのですが、たぶんなんとかまとまると思うので、勢いに任せてキーボードを叩くよ!
KOMEGUNY
歌詞はこちら→[http://www.uta-net.com/song/4914/

構成はこちら→A-B-サビ-A-B-サビ-C-サビ-サビ

こまった編

冒頭でも触れましたが、もう一度押さえておこうと思います。この曲、描写されてる登場人物が少なすぎです。
どれぐらい少ないのか、ほかの曲と比べてみながら考えてみたいと思います。
というわけで手始めに、前回取り上げた谷村新司・加山雄三『サライ』と比べてみましょう。サライに出てくる登場人物は…あれ。「父と母」だけ。二人が区別されている風ではないので、実質一人になります。

……。

おいなんだよ! ほかの曲を引き合いに出して『浪漫飛行』の人物の少なさを強調しようと思ったのに、サライとかマジ空気読めよ!!
つぎ。
川本真琴『桜』に出てくる登場人物は、下級生たち、あたしたち、神様、あたし、あなた、友達。6人(正確には6種…?)ですね。
aiko『三国駅』の場合は、あなた、あたし、自分、で、3人になります。ふむふむ。
こんな感じで、直近で読んでみた曲の登場人物の数を5つぐらい表にまとめてみました。

曲名 人数(種類数)
谷村新司・加山雄三『サライ』 1
川本真琴『桜』 6
aiko『三国駅』 3
hide with Spread Beaver『ピンク スパイダー』 8
パスピエ『最終電車』 4

こんな感じです。
登場人物なんて無邪気にカウントできないので、数え方によっては多少のぶれがありますが、そこはあんまり問題じゃないです。とりあえず平均を取ると4.4。1曲あたり、平均して4.4人の人物が登場しているのが分かります。hide with Spread Beaver『ピンク スパイダー』が異常値だとして見なかったことにする場合は3.5人になります。
さて、では米米CLUB浪漫飛行』の登場人物は何人でしょうか。えーと。
えーと。
数えました。ひとりです。
しかもそのひとりの登場の仕方がすごくて、

と出逢ってから いくつもの夜を語り明かした
はちきれるほど My Dream

この1ヶ所だけです。唯一の登場人物が、主語としてではなく目的語としてしか出てこないなんて。これでは人物を切り口に考えたとしても、何のヒントにもなりやしません。難しいよ。だれがだれなんだ…。



登場人物の数がたまたま『サライ』といっしょなので、これと比べながら『浪漫飛行』がいかにわけ分かんないかを熱弁したいと思います。
まずは『サライ』を考えてみましょう。
サライ』の歌詞、主人公の一人称は歌詞には出てきません。「僕」なのか「私」なのか「俺」なのか書いてないです。だから『サライ』を聞いている人は、主人公の人となりを各自の脳内で補っています。
でも『サライ』の歌詞なら補完はカンタンです。むしろ自由に主人公を想像できるから都合がいいぐらい。それは、歌詞にある特徴があるからです。

動き始めた 汽車の窓辺を
流れてゆく 景色だけを じっと見ていた
サクラ吹雪の サライの空は
哀しい程 青く澄んで 胸が震えた

サビの部分を引用しました。ここは全体で2つの文になっていますが、どちらも文末が「見ていた」「震えた」になっているのでただの平叙文です。どうせ主人公は「僕」なり「私」なりに決まっています。聞いている人が勝手に想像しても大丈夫なように、この歌詞の動詞の主語はぜんぶ同じ人物でつじつまが合うようになっています。
なるほどね。みんながこの曲に思い入れてしまうわけです。思い入れをしやすいように、わざわざ工夫が凝らされているのです。
さて『サライ』の話が長引きましたが、今度は『浪漫飛行』のお話。この歌詞は、勝手に想像するわけにはいかないのです。

いつかその胸の中までもくもらぬように Right Away
おいかけるのさ My Friend
トランク一つだけで浪漫飛行へ In The Sky
飛びまわれ この My Heart

サビを引用しました。
困ったことが起きています。2行め「おいかけるのさ」です。
「〜のさ」という文末は、主語とどうとでも取ることができます。「地の果てまでだって君をおいかけるのさ」だったら「おいかける」のは一人称だし、「夢をつかむまであきらめちゃいけないのさ」だったら「いけない」のは二人称です。どっちとも取れるからよく分からなくなります。
さらに問題は、最後の1行です。「飛びまわれ」。これは命令文です。命令文は「相手に動作を強制させるためのムード」(益岡・田窪『基礎日本語文法』くろしお出版)なので、命令文には「相手」が不可欠。では、この「飛びまわれ」における「相手」ってだれなのでしょう?
「君と出逢ってから」のときにでてきた「君」と同一人物でしょうか。そうかもしれないですねぇ。では、「飛びまわれ」の直後に出てくる「My Heart」は一体なんでしょうか。
考えてみると、どんどん分からなくなります。最初に聞いたときにはさらっと耳を通り抜ける清々しい歌詞なのに、よく考えてみるとずぶずぶと深い沼に引き込まれてしまうのです。浪漫飛行へ飛び立つ、軽やかな歌詞のはずなのに、その軽やかさ以外が、よく見ると分からないことだらけです。

たとえば編

でもでも!
これだけヒントがないということは、妄想の余地が大きいということでもあります。
ふだんなら私は歌詞以外のことを考えに入れたりしないのですが、せっかくなので今回はカロリーメイトのCMを思い出してみましょう。女性が『浪漫飛行』を歌っていて、新入社員とおぼしき男子が慣れない仕事に奮闘しています。歌われるのは、歌詞の中でのこのシーン。

そこから「逃げだす」ことは誰にでもできることさ
あきらめという名の傘じゃ雨はしのげない
 
何もかもが知らないうちに
形を変えてしまう前に
 
いつかその胸の中までもくもらぬように Right Away
おいかけるのさ My Friend
トランク一つだけで浪漫飛行へ In The Sky
飛びまわれ この My Heart

あのCMでは、この歌詞は明らかに、あの女性から新入社員の男子に向けて歌われているように思います。そうするとこの歌詞は励ましやエールに聞こえてきます。「逃げ出す」の主語は男子だし、「しのげない」のも男子だし、「その胸」も男子の胸中だし、「飛びまわる」のも男子。浪漫飛行』はこんな風に、ずっと二人称に宛てた歌詞として読むことができます。ひとつの読み方として、これはアリです。
サライ』も『浪漫飛行』も、ほとんど登場人物が出てきませんが、平叙文の割合だったり「のさ」の使い方だったりで、ずっと一人称が主語として読めたり、逆に二人称に宛てた歌詞として読んだりすることができるわけです。すごいですね。
じゃあ、二人称に宛てた歌詞だとして、この曲の主人公は一体だれなのでしょうか。あのCMに絡めて言い直すなら、あの女性は何をイメージしているのでしょうか。
私は、主人公は夢なのではないかと思いました。

君と出逢ってから いくつもの夜を語り明かした
はちきれるほど My Dream
トランク一つだけで浪漫飛行へ In The Sky
飛びまわれ この My Heart

最初のサビを引用しました。私が主人公を夢だと思ったいちばん大きな根拠はここ。

君と出逢ってから いくつもの夜を語り明かした

主人公は、君と夜を語り明かしています。ふつうに友だちだったらそういうこともあるだろうし、ルームメイトかもしれないし、恋人かもしれないし、保護者とかかもしれません。でもそれだと、続く2行めに違和感が残ります。

はちきれるほど My Dream

「My Dream」とは、主人公の夢であるはず。それがはちきれそうだなんておかしいです。主人公はこの曲を通じて、一貫して君を励ましてくれているように見えるのに、自身の夢がはちきれそうだなんて重すぎです。他人に自分の夢を押し付けるのはやめてください!
ということは、主人公はニンゲンではなくて、何か抽象的な概念のほうが都合がいいはず。それが「夢」だったりしたら、励まし感もいい雰囲気だと思ったのです。
それに、夢がはちきれそうだなんて、まるで夢が弾けて現実につながるみたいに見えるじゃん!

時が流れて誰もが行き過ぎても You're Just A Friend! この胸に

最後の連を引用しました。この「You're Just A Friend!」もすごく印象的。
恋人だと思っていた人からこんなセリフは聞きたくありません。自分の親がこんなこと言い出したらちょっと気持ち悪いです。でも、自分の夢が自分に向かって「You're Just A Friend!」って言うのなら、ちょっとアリかなって思います。
夢のお告げっていう言葉がありますよね。たとえば神様が夢を通じてメッセージを伝えてくれたら、それは夢のお告げと呼ばれるし、告げられた人は預言者になると思います。
でもこの歌詞の場合、励まされる私たちは「You're Just A Friend!」と夢も希望も預言もないフレーズを聞かされます。これはつまりどういうことなのかというと、あなたは選ばれたわけではないんだよ、というメッセージなのではないかと思います。
夢自身は、私たちを選んでくれたりしません。私たちに神からのメッセージを授けてくれたりもしません。夢はただ私たちを励ますだけだし、自分はただの友だちだよと主張してはばかりません。だから私たちは、自分の力で飛行するしかないのだと思います。夢は私たちに告げるのです。あなたは自分の力で飛行すべきだし、それができるはずだよ、って。



というわけで、米米CLUB浪漫飛行』でした。
今回はこの文章を書くにあたって、いつもよりもたくさんの言葉をネットで調べました。「命令文」とか。命令文を調べていて、私はひとつびっくりしたことがあります。
検索結果をどんなにスクロールしても、英語の命令文のことばかりしかヒットしないのです。気持ちは分かるけど…言語に関係なく、一般的な用語としての命令文のことを知りたい人って世の中にはほとんどいないんでしょうね。そんなことに気づいた雨の日でした。

追伸:
恥ずかしながら、この歌詞の登場人物を数え間違えていました。「君」のほかに、「My」「Friend」「You」もありました。英語を無意識で読み飛ばすとか、私どんだけ無学なんだよ…。
そしてこれを全部カウントすると、登場人物の数は4人になり、まあ控えめにいっても平均レベルだと思います。これを織り込むと(ただでさえ崩壊気味なのに)私の文章の前半が輪をかけてgdgdになりますので、最後にこっそり書き足しておきました♪(・ω<)

浪漫飛行

浪漫飛行

DECADE

DECADE

米~Best of Best~

米~Best of Best~

次回予告:次回こそ嵐『Breathless』を取り上げます!
2016/01/17一部書き換えました。

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