5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

aiko『ずっと』


昔話読み、再び。
こんにちは。
ずっと(通常盤)
今回はあかさんからのリクで、aiko『ずっと』を読んでみます。リクエストをいただけるなんてうれしい♪

あなたに出逢えた事があたしの終わり
ゆっくり息をする 胸の上耳を置いて
生きてる限り何度も触れて知るの
あなたのあたたかい味 永遠に

サビの歌詞はこんな感じ。さらっと聴くとラブソング王道なのに、こうして文字にしてみるといまいちよく分かりません。「あたしの終わり」も文字通りには解釈できないし「あなたのあたたかい味」もよく分かりません。最後の「永遠に」はタイトルの『ずっと』と連動しているのだと思いますが、それもなにが永遠なのか今ひとつうーん…。
という感じですが、私のちぐはぐな強引さで読み進めてみたいと思います!


最近知りましたが、こんな「ちぐはぐな強引さ」を断章取義っていうらしいです。文章を細かく区切って、その断片から意味を勝手に見いだすっていうイメージのようです。牽強付会って言葉は知っていましたが、断章取義のほうがぴったり。これ、まさに私のことです←
歌詞はこちら→https://www.uta-net.com/song/122221/
https://www.uta-net.com/song/122221/

構成はこちら→A-B-サビ-A-B-サビ-サビ

読むとしたら、こう。

ざっと読んでみて思ったんですけど、この歌詞は意味をひっくり返して読むところがとてもたくさんあります。特にAメロ。

ずっとそばにいるから どんな事があっても

最初の1行めを引用しました。ポケットビスケッツ『Red Angel』のときに触れましたが、「から」って強がりを言っているみたいに響きます。「ずっとそばにいるから」って書いてあるとき、その裏にずっとそばにいられない事情が透けて見えてきてしまいます。
ってことは。4行めも見てみましょう。ここにも「から」があります。

優しく笑う向こうに 絶望があったとしたら
全部あたしにください それでも平気だから

もしかして、平気じゃないのかも。そして、平気じゃないということは、絶望があるのかも。オセロのコマのように、表面の意味がどんどんひっくり返っていく感じが、私にはしてきます。

あたしに見える世界は あなたも必ず見ている

飛ばしてしまった2行めにもそういう要素があります。「必ず」です。
大辞泉』によると「必ず」はこのように書いてあります。


かならず【必ず】
〘副〙《「かり(仮)ならず」の音変化》
1例外のないさま。きまって。いつでも。「毎朝―散歩する」「会えば―論争になる」
2確実な推量、または強い意志•要請を表す。まちがいなく。絶対に。
(後略)
私が注目したのは、「必ず」が定義の上で否定文を避けて通れてないってことです。中島みゆき『荒野より』でも取り上げてみた通り、否定文って最初に文章の意味の内容を肯定の状態で捉えてから、改めてそれをひっくり返すものだと私は思っています。それは「必ず」でも同じ感じ。「あたしに見える世界は あなたも必ず見ている」って書いてあったら、私は「あたしに見える世界があなたには見えない可能性」についてうっかり想いを馳せてしまいがちです。
そんな風に歌詞の裏側をのぞいてみると、表面的な明るさの裏で、どうしても暗いイメージの歌詞が透けて見えます。ずっとそばにいたいけれどいられないかもしれないし、あたしに見える世界はあなたには見えないかもしれないし、優しく笑う向こうに絶望があるかもしれないし、あったとしたらあたしは平気ではいられなさそう。
そんなイメージをまとったまま、サビの歌詞へと突入します。

あなたに出逢えた事があたしの終わり
ゆっくり息をする 胸の上耳を置いて
生きてる限り何度も触れて知るの
あなたのあたたかい味 永遠に

ここには、限りある生のイメージがとても強く浮かびます。「息をする」とか「生きてる限り」とか。生きていて、それが終わりで、永遠です。有限のものと無限のものが、なぜか生で交錯しています。
例えば「あなた」が、たとえば昏睡状態だったら歌詞と合うなぁと私は思いました。医学的な話は私できませんので、こういう話をしているのではないとご理解ください。何からの病気や事故で眠り続けているような、意識がなくなって久しいような、そういう状況をイメージしています。
「あなた」は眠り続けています。主人公はそのそばにいて、ずっと隣にいると歌っています。見える世界は共有できていると信じたいけれど、きっとそれは叶わぬ夢だと主人公はどこかで分かっています。うすうす絶望を感じているけれど、もう覚悟していることだし、それでも平気だと歌いつづける主人公がいます。

あなたに出逢えた事があたしの終わり
ゆっくり息をする 胸の上耳を置いて

としたら、このサビのフレーズも少し分かってきます。ふつうに考えるならこの部分は、あなたに出会えて今までの私はいなくなってしまって、もうあなたのいない自分なんて思い出せないよ!的な意味だと思います。J-POPのふつうの歌詞の読みとしてぜんぜんアリです。
でももしあなたが昏睡状態だとしたら響きが違ってきますね。もっと切迫した感じ。あなたがこうして永遠に息をするだけの存在なら、私も古い自分を捨ててあなたと同じ世界に飛び込みたい、っていう感じの、もっとどろどろした願いがこもっているように感じます。もう新しく愛し合ったり傷つけ合ったりしない、永遠に続く平坦な愛の世界に飛び込んでしまうような、静かな恐怖を私は感じました。妄想ですけど。

あてはめるなら、こう。

でも、我ながら思うのです。彼が昏睡状態だなんて、設定が特殊すぎないか?って。
設定が特殊な曲ならつい最近取り上げました。家の裏にマンボウが死んでるP feat.GUMI『クワガタにチョップしたらタイムスリップした』がまさに該当する曲です。でもこの曲の場合はタイトルでどういう設定なのかを明示していますし、歌詞の中でもその中身が詳しく述べられています。だから私たちは設定そのものが突飛でも、一応はちゃんと歌詞の中の世界に入っていけます。
でもaiko『ずっと』が昏睡状態の彼を歌っているとか、歌詞を読んでも表面的には分かりません。例えばもっと分かりやすい設定が下敷きになっていたりしないものでしょうか。たとえば、昔話とか。
広末涼子『majiでkoiする5秒前』でシンデレラ読みを達成し、味を占めた私は、昔話になぞらえる曲を眈々と狙っていたのでした。
というわけで、今回はaiko『ずっと』を人魚姫になぞらえて読んでみたいと思います。
http://hukumusume.com/douwa/pc/world/09/06.htm
人魚姫のあらすじは↑こちらを参考にしています。
aiko『ずっと』は、このストーリーのうちの最後、人魚姫が王子を殺そうとするシーンだったら、と私は夢想しました。
人魚姫は人間の姿を借りて王子に近づきましたが、結局 王子と結婚することはかないませんでした。王子が結婚式に出発する前日の夜、人魚姫は王子の寝室にいました。魔女から預かったナイフで王子を刺せば、人魚姫は人魚の姿に戻り、この恋などなかったことになって海へ戻れます。さもなくば人魚姫は明日の朝には海の泡になって消えてしまう、というシーンです。


人魚姫はナイフを受け取ると、王子の眠る寝室へと入っていきました。
(王子さま、さようなら、わたしは人魚にもどります)
 人魚姫は王子のひたいにお別れのキスをすると、ナイフをひといきに突き立てようとしました。
「・・・・・・」
 でも、人魚姫には、愛する王子を殺すことができません。
さきほどのURLから引用してみたこのシーン、aiko『ずっと』とかなりきれいに符合します。

ずっとそばにいるから どんな事があっても

このシーンは、ずっとそばにいたい気持ちはあるけれど、そばにいられないということを表していると読んだのでした。この曲の歌詞では、すでに主人公は王子を殺さないと決めています。そばにいられないのは自分のほうだともう分かっています。でも王子は船に乗って新婚旅行に向かいます。主人公が海の泡になるのなら、離ればなれになっても近くにいられます。

ここには誰も知らないあたしがいる

1番のBメロです。人魚姫を助けるため、姉たちはナイフを手配してくれました。そのナイフを使って人魚姫はもちろん王子を刺し、戻ってきてくれると姉たちは思っています。可能性を投げ捨てて海の泡になる決心を決めた人魚姫のことを、まだ誰も知りません。この部分も歌詞と符合しています。

あなたに出逢えた事があたしの終わり
ゆっくり息をする 胸の上耳を置いて

1番のサビの前半です。「あたしの終わり」は文字通りの終わりを意味することが分かります。人魚姫は翌朝には海の泡になって消えてしまうからです。それまでの短い時間、人魚姫は息をする王子の胸の上に耳を当てて、その生をつかの間、感じ取ったことでしょう。『ずっと』の歌詞との整合性もぴったりです。
2番以降は1番と言っている内容がほとんど同じだと思ったので、ここまで改めて触れませんでした。同じできごとをいろいろなモチーフから描いているこの歌詞は図鑑型だといえますね。
でも、そのモチーフはやっぱり人魚姫的です。
だって、

絶対言えないことも 小さな冷たい嘘も
あなたのかかとに躓き 笑い合えれば消えるわ

2番のAメロです。人魚姫は人間の姿を借りた代わりに、声を奪われました。そして足は歩くたびにずきずきといたむのでした。「言えないこと」「かかと」そんな言葉をわざわざ選んだのには、そんな理由があるかもしれないですよね。

時に逆らい離れたあの日の様に
二人に吹く風が違う道誘っても

これも、人魚姫と王子の出会いのシーンと重ねて読むことができます。王子は、船が嵐で難破したことで人魚姫と出会いました。あのあと少し近づいたふたりは、やっぱり違う風に吹かれて、緩やかな紐帯にもはさみを入れられてしまったのでした。
この曲は、そんなお別れまでの間のごく短い、最後の時間をいっしょに過ごすの曲なのかもしれません。『ずっと』は、ぜんぜんずっとなんかじゃないじゃんか泣かせるなよ!ノ_・。)



というわけで、aiko『ずっと』でした。あかさんリクありがとうございました。まだ見てくださってるかなぁ…。
ところでJ-POPって何でしょうか。実はJ-POPの定義なんて私はいままで考えずにこれを書いてきましたし、これからもあまり考えずに書いていきますが、自分の中でJ-POPの王道といったら勝手ながらaikoです。aiko一択。というわけで、バランス的にもaiko聴きたい気持ちでした♪ 今回はこのタイミングでこれが読めてよかったです。でも遅くてごめんなさい。
次回予告したいところですが決まっていません…。男性Vo.の曲を読みたいですが未定です(汗)。

2018/05/06 少し更新しました。