5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

パスピエ『最終電車』

収斂する二項対立
こんにちは。
ONOMIMONO
今回はパスピエ『最終電車』を取り上げてみたいと思います。
実はこれまでの履歴に明らかなのですが、私はこれまで、ここではほぼシングル曲ばかりを取り上げてきました。家の裏にマンボウが死んでるP feat.GUMI『クワガタにチョップしたらタイムスリップした』はシングルではありませんが、このPの曲の中ではニコニコ動画においてたぶん最も再生数の多い有名な曲だし、木村カエラ『Butterfly』宇多田ヒカル『Goodbye Happiness』なんかは配信限定という但し書きがつきますが、それでもシングルです。
が、今回のパスピエ『最終電車』は違います。アルバム「ONOMIMONO」に収録されているアルバム曲です。私はできれば有名な曲を選んでいきたいポリシーだったので、どうしてこんなことになってしまったのかよくわかりませんが、もうこのまま突き進もうと思います。
たまたまネットで聴いちゃったんだよ! いい曲だと思ったんだよ!
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND130144/index.html
構成はこちら→A-サビ-A-サビ-C-サビ

感情vs行動

この曲、歌詞を見てみると、感情に関する描写がとても多いことに気づきます。

終電車に飛び乗る キミの背中がキライよ

「キライよ」とか。

乗り遅れちゃえばいいのに “ 一寸先は闇”なんちゃって

「乗り遅れちゃえばいいのに」とか。

ああもう何にも言わない だって少しくやしい

「少しくやしい」とか。って感じ。
1番だけでもこんな感じです。2番においても「キライ」とか「こんなに切ない」みたいに、感情に対するストレートな描写はたくさん出てきます。主人公は感情を歌詞にうつし取ることを全然ためらいません。
一方で、主人公の行動に関する描写に注目してみましょう。

ポーズをとって見上げた あたし今、上手く笑えてるかな

っていう部分があります。ん?? ポーズをとって見上げるなんていかにも気取った感じ。
ポーズって、私の印象だとありものの中から選ばれる感じがします。ポーズ自体にはよほどでない限りオリジナリティはなく、こういうものの中から随時適切なものが取捨選択されていくイメージです。だからポーズは「作る」ものなのではなく「取る」ものなのです、たぶん。ポーズを他から借りてくることによって、本当の気持ちを隠そうとしているのではないかと私は思いました。
更に注目なのは「あたし今、上手く笑えてるかな」という部分。笑うことは、感情の表出です。さっきまで「キライ」だの「切ない」だの、あんなに感情を素直に描写していたくせに、いざそれを表に出そうとすると笑顔のようなシンプルな感情でさえぎこちなくなってしまう主人公が描かれています。感情はストレートなのに、行動はとても屈折しているのです。
この曲には、感情と行動の二項対立があります。そして感情はきっと本当を示していて、行動は嘘をついているのでしょう。
この曲の1連はこんな感じでした。

嘘と真がぶつかる交差点で 人の波は冷たいんだね
溺れないようにちゃんと手を繋いでおいてよ
排気ガスは有害だわ

「嘘と真」は、そのまま行動と感情に対応するように見えますね。表にまとめると、こんな感じ。

  感情 行動
 
説明 ストレートな表出 屈折した表出

この曲には二項対立があって、その要素はきちんと対応しているみたいです♪

感情=行動

この曲は、物語型に分類される歌詞です(歌詞の図鑑型と物語型についてはゆず『からっぽ』をごらんください)。
私はこの歌詞、主人公がだんだん素直に感情を行動に反映させていくことができるようになる物語として読みました。それは、行動の描写を追いかけていくととてもはっきりします。
1番の終わりはこんな感じでした。

ポーズをとって見上げた あたし今、上手く笑えてるかな

借り物のポーズによって、本当の気持ちを隠そうとしているふうに私は読みました。

街の広告はトラップでラップ 綺麗すぎて 首の角度に困ります

ここは2番のAメロ。私はさっきと似たような印象を受けました。『街の広告」とか、本当は主人公にとってはどうでもいいことです。主人公にとって大事なのは「キミ」への気持ちのはず。だのにここでいきなり出てくる「街の広告」は、大事なことから(行動の上で)目をそらそうとしていることの表れみたいに見えてきます。目をそらして「首の角度に困ります」なんててらった発言をしているのです。


唐突ですが、やんちゃな8歳の男の子が電車の中で騒いでいて、お母さんに怒られているシーンを想像してください。ついにしびれを切らしたお母さんは、男の子の頭を押さえつけて、至近距離で、小声で、
「そろそろいいかげんにしなさい!」
とお説教します。男の子はにやけながら、それに反論するのです。
「息がクサい」
って。
そういうシーンってありがちです。男の子は息の臭いに言及することで、本当に向き合わなきゃいけないお説教から目をそらそうとしてますよね。
今回のこの歌詞の主人公、私にはそれとおんなじ風に見えるのです。
でも、2番の終わりになると少し変化が起こります。

ポーズをとって見つめた あたし今どんな顔してるかな

ポーズを取っているのはさっきと同じ。でも「見上げた」から「見つめた」に変わっています。目をそらさなくなった!
さらに、最後から2番目にはこんな歌詞。

ああもう言ってしまいたい 「今夜一緒にいたいの」

「言ってしまいたい」って言えるぐらいにまで、主人公の行動は進化するのです。
おさらいしましょう。最初、主人公は「ポーズをとって見上げた」のでした。
それが「ポーズをとって見つめた」へと変わります。
そして最後には「ああもう言ってしまいたい」になるのでした。
「言ってしまいたい」のあとの「「今夜一緒にいたいの」」は、この歌詞の中でのキラーフレーズです。きっと主人公がずっと「キミ」に伝えたかったのはこれなのでしょう。そこにたどり着くまでには、感情に行動を歩み寄らせて、自分をひとつにする必要があったのでした。
この歌詞、最初のほうで「嘘と真」が出てきました。感情と行動がバラバラだったとの対応しています。それが、この歌詞の最後の方では

黄色い線の内側 境界線なら取っ払って

っていう部分が出てきます。「嘘と真」の境界線は、このとき消滅して、ひとつになったのですね。



というわけでパスピエ『最終電車』でした。
ところで今の今まで気づかなかったのですが、歌詞の一部分がすこしずつ変わっていって、最終的にひとつの大きな物語を描き出すという感じ、前回の西野カナ『GO FOR IT!』と同じですね。さらにmiwa『春になったら』とも似ています。私はこういう歌詞が好きなのかもしれないな…。
最終電車

最終電車

↑試聴部分がほとんどイントロで残念ですが、クリックすると続きあと60秒聴けます。Youtubeより音質いいです…よね?(詳しくないこと言って自爆するタイプ)次回予告:以前コメントをくださいましたtamakiさんに触発されまして、次回はaiko『三国駅』を取り上げたいと思います。我ながら大変な読みになってます!