NiziU『Make you happy』の歌詞の話をしたいです。
ネットでこの歌詞のことを調べると、
隠された意味! JYPの曲名がラップ部分に!!
って記事ばっかりでお腹いっぱいになりました…。
そりゃわたしはちょっとしかわかんなかったけどさ、この曲の歌詞ってほかにもおもしろいところたくさんあるじゃん??
具体的に言うと、歌詞らしい歌詞なのに、歌詞らしくないことばっかり、な歌詞だと思うのです。
Nothing ヒミツならNothing
Something 特別なモノあげるのに
どんなのがいい? 笑顔にしたいのに
That thing 探し出す キミのために
ほら!!
きょうはそういう話。
日本語の中にEnglish
この曲、こんなふうに、日本語の文の中に英単語が交ぜ書きされています。
Nothing ヒミツならNothing
Something 特別なモノあげるのに
こういうやつ、ここのところそれほど流行っていない形式といわれています。
日本語の中に英単語を交える歌詞、90年代ぐらいまでは結構多かったのですが、それ以降は減っているのです。
たとえば小林 2018は、楽曲のリリース年と歌詞に含まれる外来語の比率をこのように報告しています。
mjin.doshisha.ac.jphttps://mjin.doshisha.ac.jp/lab/ppt/kobayashi.pdf
ここ数年は盛り返しているようにも見えるけど、80年代の最盛期には及ばないみたい。
わたしの肌感覚としても同じ印象で、日本語の中に英語を交えるような歌詞、最近だと大々的にやっているのはジャニーズとLDHぐらいという印象です。
たとえば2020年リリースでいうとKis-My-Ft2『ENDLESS SUMMER』*1。
突き抜けた空に向かって 今
抱えた想い叫ぶんだ Shout it out now
Starlight 光る未来へ 僕たち導くよ
日本語の中に英単語が入ってる!
この交え感は、ジャニーズやLDHではまだよく見られます。
しかし、それ以外ではあまり出てこない気がする…。
実際のデータで見てみます。
わたしがこの文章を書いている時点で、歌ネットの月間アクセスランキングはこういう感じ。
NiziUを除くと、トップ10の歌詞の中に、アルファベットは1文字も入っていないんですよね…。
アルファベットを求めて上からなぞっていくと、15位の平井大『Stand by me, Stand by you.』が目に入ります。
歌詞の中には、
Baby stand by me
I will stand by you
という部分があって、これは確かにアルファベットです。
でもこれ、日本語に組み込まれた英単語なのではなくて、これはふつうに英文なんですよね…。
探しているものとはちょっとちがう感じ…。
となると、17位のOfficial髭男dism『I LOVE...』までたどらねばなりません。
I Love なんて 言いかけてはやめて
I Love I Love 何度も
これも日本語の中に英単語が組み込まれているのかと言われるとちょっと微妙なラインですが…。
そんな中、NiziU『Make you happy』の交ぜ書きは圧倒的です。
Nothing ヒミツならNothing
Something 特別なモノあげるのに
というわけで、NiziUが今回採用している英単語の混ぜ方は、いまのJ-POPではジャニーズLDHを中心にわずかに残っているだけ(要出典)の用法をリバイバルさせているといえると思います。
今後こういうやり方がまた増えていくかもしれないので、これからが楽しみですね〜✨
歌詞の歌詞らしくなさ
あともうひとつしゃべっていいですか?(いいよ!)
この曲の歌詞の「おしゃべり感」に、際立ったものがあるって思うのです。
歌詞って別にルールないので好きなことを歌えばいいんですけど、実際には歌詞ばかりに出てくる言葉や言い回しってあると思うんです。
先日も辞書トップオタのながさわさんがこうツイートされていました。
歌詞にはめちゃめちゃ出てくるのに絶対辞書には載らない謎の単語、君色
— ながさわ (@kaichosanEX) December 27, 2020
古いけどこういうのとかも。
こんな風に、歌詞の表現は歌詞の枠内で止まりがちなのが現状です。
そういう枠から踏み出そうというひともいます。
たとえば藤井風『何なんw』とかには、わたしは新しい息吹を感じています。
そんな状況の中、藤井風とは別の萌芽が、NiziU『Make you happy』には見えてきます。
たとえば一般に、歌詞って音の数が限られているので、無駄なことはできるだけ省いて簡潔に表現する働きが発動しがちです。
もう ねぇねぇ 何見て
何聴いて 幸せ?
話してみて すべてね
そういう観点でいうと、「もう ねぇねぇ」はなくても意味は通じるし、「すべてね」もとくに表現上大きな効果があるようにはわたしには感じられません*2。
しかしこの歌詞、余計なものが多いだけではありません。
ちょっと日本語母語話者の人に聞きたいんですけど、
何聴いて 幸せ?
って言いますか?
- 「何聴いてるとき幸せ?」
- 「何聴くと幸せを感じる?」
のほうが自然な感じがしませんか?(この部分、日本語教育でめっちゃ出てくるタイプのやつじゃん!と思って文献探そうとしたんですが、年末年始で探せなかった…)
文献はないですが、わたしの内省ちゃんはこう言っているのです。
「ん〜意味はわかるんだけど、あたしは言わないかな〜」
って。ほらほらァ!!(何)
というわけで、この部分、足りない部分も余った部分も両方ある状態です。
でも、これがいいんですよね。
なぜなら、日常会話ってこういうものだから。
歌詞にするために言葉を整えたりしないでいると、ことばっていまこんな感じなんじゃないかな、と思うのです。
それをそのまま切り取っているところに、値打ちがあるのです。
Ooh I just wanna make you happy
あ~もう! 笑ってほしい
サビの「あ~もう!」も独特です。こんないいところにフィラーもったいない!
だけどそこに、会話を切り取っただけの、飾らない感じが出ます。
いしわたり淳治さんがずっと前に同じ趣旨のことを言ってた。くやしい(?)。
ところが。
わたしが前半で言っていたことと、この部分は矛盾するんですよね…。
日本語の会話の中で英単語を交えたりしないじゃないですか!
だからこの歌詞、日常会話に寄せた部分と、歌詞を歌詞らしくデザインしている部分が同居しているのです。
このごちゃ混ぜ感が、この歌詞が新しく切り開く地平なんだよなって思っています。
というわけで、NiziU『Make you happy』でした。
今回歌詞の内容にまったく立ち入ってないんですけど、ちょっとだけ内容の話をさせてください。
この歌詞、全体的に主人公が「キミ」または「you」に話しかける体裁になっています。
もう ねぇねぇ 何見て
何聴いて 幸せ?
話してみて すべてね
だけど、相手からのリアクションはまったくありません。
なんで? リアクションは眼中にないの? それともリアクションできないような対象に向かって働きかけているの?
とか思って歌詞を読んでいたんですけど、こういう部分があるんですよね。
You're my favorite song
えっ、「You」って「song」だったの??
無機物に向かって歌いかけるスタイル、スキマスイッチ『奏』スタイルじゃないですか…。
これと同じタイプの歌詞なんだろうか…ほんとうに…??(今後の課題)
https://music.apple.com/jp/album/make-you-happy/1519410580?i=1519410583&uo=4&at=10lrtS