メリークリスマス〜〜🎄
さっそくですが、このCMのBGM聴いていただいていいですか?
竹内まりや『すてきなホリデイ』です。 (BGMなので音が小さい…)
この曲では「クリスマス」の5文字を、1つずつ、ぜんぶで5つの音符に乗せてあります。「ク・リ・ス・マ・ス」です。
でも、そうじゃない音符の乗せ方の曲もけっこうあります。
May J.『サンタが町にやってくる』はこういう感じ。
この曲では「クリスマス」の5文字を2つに分けて、2つの音符に乗せてあります。「クリス・マス」です。
このちがいはなんなの…? そしてところで最近、2つに分ける派のほうが多いくない??
そんなふうに思ったので数えてみました!!
かぞえてみたよ!!
というわけで、実際に数えてみました。
- わたしの手元にある楽曲のデータベースの中から、リリース年がわかるものを選出(※2018年の途中までしかないです)
- 歌ネットにあって、歌詞に「クリスマス」が入っていて、
- その中からSpotifyに音源があるもの
- 「クリスマス」が曲中のセリフなどになっているなど、リズムに乗っていないものは除外
という条件で選びました!
全部で372曲あり、わたしがそれを1曲1曲ていねいていねていねいに聴きながら、音符の数を推測しました。
楽譜は見ておらず、判断しているのはわたしひとりなので、正確さは高くないかもしれません。今後の課題とします。
それを年代別に見てみるとこういう感じ! じゃん!!
2010年代は赤が増えてる! 緑が減ってる!!
というわけで、最近「クリスマス」を2つの音符に乗せる曲が多そう、と思ったわたしの予感は正しかったことになります! さいこうわたしセンスある。
ちょっと年代別に見てみます。
1950年代
ところで、赤の比率を見ると2010年代はべつに一番ではなく、1950年代(2曲あった)が100%で最高になっています。
その2曲を見てみると、
こういう感じ。
わたし音楽のジャンルとかまっったく知らないんですけど、これっていわゆる邦楽ルーツの曲ではないですよね??
このときに流行した音楽のジャンル的に、クリスマスはモーラに乗せる歌唱は合わないみたいだと思いました。
シャンソン…?(自信ない)
1960年代
60年代は私の手元ではデータがなし。
1970年代
70年代は全部で4曲しかクリスマスソングが見当たらず、すべてが5音符の曲でした。そのうち1つを見てみるとこういう感じです(Spotify加入している人は1分44秒付近をどうぞ! フリーの人でも最後ぎりぎり聞こえるはず)。
さっきと圧倒的に雰囲気がちがう〜!
美空ひばりさんと雪村いづみさんの曲はなんか昔の曲って感じがしましたが、ユーミンのこの曲はJ-POPにつながる息遣いを感じるんですよね…。
50年代から70年代の間に、わたしたちの先輩は「クリスマス」を日本語の音楽に取り込んだんだな?って気配を感じます。なるほどなるほど…。
1980年代
80年代は、2音符の割合が増加し、いまのJ-POPにかなり近い雰囲気を感じます。
SpotifyにもYouTubeにも公式がないのですが山下達郎『クリスマス・イブ』が、この時代のクリスマス感をよく表しています。
きっと君は来ない ひ|と|り|き|り|の|クリス|マス|イブ (縦線はハコサト)
と歌われるのですよね。よかったら何らかの手段で聴いてみてください〜♪
1990年代
90年代は2音符が後退し、5音符が改めて覇権を握ります。
たとえばこれの2分21秒付近。
小林 2018によると、「1990年頃に語種の使用率が大きく変化」したとされています。
mjin.doshisha.ac.jphttps://mjin.doshisha.ac.jp/lab/ppt/kobayashi.pdf
1990年ごろを境界に、歌詞の中での外来語の構成比率が急に下がるんですよね…。
「J-POP日本語回帰説」というのもあり(伊藤 2017)、それが影響しているのかもしれません。
2000年代
ところが2000年代に入り、2音符が盛り返しを見せます。
1991年に5音符で歌っていた槇原敬之が、2004年には2音符で曲を書いています。象徴的〜〜!!
そして気になるのは、3音符や4音符という勢力が存在感を増しているということ。
これの1分15秒あたりに「クリスマス」が出ているんですが、
これだと「クリ・ス・マ・ス」って感じで歌われています。90年代までだったらなかった感じ!
こんな風に、譜割り自体の縛りがかなりゆるくなっていて、その一環として2音符が盛り上がっているように見えます。
2010年代
その傾向は2010年代に入ってますます顕著です。
「クリスマス」という語はたまたま英語由来なので、英語ルーツである2音符に引きずられがちですが、そもそもここのところ、従来のルールから外れた譜割りが幅を広げていると思うんですよね。
秋元康の歌詞とかみてるとすっごく思う…。
というわけで、今度は「夏休み」みたいな和語とかで、同じことを試してみないといけないですね!!(死
音符の違いはモーラとシラブルの違い
ここからはふろく。
音韻論の話なんですけど、言語音を細かく区切っていくときに、モーラとシラブルという2つの単位があります。
詳しくは専門書を読んでほしいんですけど、ざっくりこういう感じです。
モーラというのは言語音を長さで区切るときに使う単位で、日本語だとだいたい1文字1モーラに対応します。
一方でシラブルは母音を中心にして聞こえ(ソノリティ)で区切った単位です。
で、ここで押さえたいのは、
日本語(の標準語)では、モーラがアクセントをかぞえるときの単位になっていて、
英語では、シラブルがアクセントをかぞえるときの単位になっている、
ということです。
アクセントをかぞえるときの単位を音符に乗せるのが自然になるので、日本語だったら基本的には1モーラが1つの音符に乗ります(田中 2008)。英語は基本的には1シラブルが1つの音符に乗ります。
クリスマスを例にとると、こういう感じ。
4分音符と8分音符を使い分けたところには、全体の長さを近づける以外の意図はありません。音符の個数と譜割りを注目していただきたいやつです。
さてここでひとつ、思い当たることがあります。
日本語の曲でも英語みたいに1シラブルが1つの音符に乗るようにしたら、洋楽みたいにかっこよくなるんじゃ…?
それはわりと多くのひとが考えつくことのようで、J-POPでも前から実践があります。たとえばサザンオールスターズとかは自覚的にやっていそうな雰囲気。
the 8 riseさんはまさに「シラブル」の語を使ってその分析を試みていました。
また、田中 2008では、年代が下るにつれて1シラブルに対して1音符を付与するのが増えていることが報告されていました(英語の音節を借りて譜割りするのではなくて、日本語の特殊拍の譜割りの話ですが)。
それを踏まえると、
- 1980年代は洋楽に寄せる方向で、2音符が増えた
- しかし2020年代からは、譜割りが全体的に自由になる一環で、2音符が増えた
とわたしは予想していています。証明のためには別のことばを追いかけなくちゃ!!
というわけで、今回は「クリスマス」の曲の譜割りについてでした。
ところで本文中に書いた「田中 2008」はこれです。すっごいおもしろかったし、あとここの参考文献がわたしぜんぜん追えてないのばっかりでためになりました。
前に音声学会(だったかな…)の物販コーナーで見かけたんだけどそのとき買わなくて、そのままスルーしてしまっていたんですよね…先日やっとお迎えし読んでみたところ、
どうして…どうしてあのとき手に入れておかなかったのだわたしは…!!
って気持ちにとてもなりました。いやでもいいのだ…出会うべきタイミングというのが世の中にはあるのだ……。
それから、後半で触れたモーラとシラブルについてはこの本とかよいかも…!
1章まるごと使って解説してくれています(「拍と音節」と呼ばれています)。一部ですが漢字に読みがなが振ってあったり、独学に配慮があるところが推せます✨
「J-POP日本語回帰説」についてはこちら。
それではメリークリスマス&よいお年を〜! 来年は最ッ高の年にしような!!