DAOKO『かけてあげる』の歌詞の話をしたいです!
魔法にかけてあげる
呪文の用意はいい?
魔法にかけてあげる
恋する準備はいい?
サビの歌詞「魔法にかけてあげる」はちょっと変じゃないですか? 「魔法“を”かけてあげる」のほうがしっくりこない?
今回はそういうところから探ってみました。
こういうコロケーションを調べるときの定番は小内 一『てにをは辞典』です。
でもわたしは持っていません。どうしてかというと、他に当たるあてがあるからです。
それがこちら。
国立国語研究所『現代日本語書き言葉均衡コーパス』のオンライン検索システムです。こちらは少納言などと違って、「文法的振る舞いを網羅的に表示できる」のが特徴です。やったぜ。
まずは「魔法」で、助詞とのコロケーションを確かめます。
一番多いのが「魔法を」、そして「魔法が」「魔法に」と続きます。
「魔法をかける」の頻度が55。
「魔法にかける」の頻度が15。
ほらやっぱり! 「魔法にかける」なんてそうそう言わないじゃん!
しかも用例を見てみると壮観です。
ほとんど「魔法にかけられる」じゃねえか!
ボイスが能動態の用例は15個のうち3つあって、そのうちふたつは離れた場所にヲ格があります。この歌詞と同じ、能動態でヲ格がなくニ格だけがある用例はBCCWJでひとつだけです。
そんなわけで、この「魔法にかけてあげる」って表現がすごくめずらしいことがわかりました!
問題は、こういう表現にどういう効果があるか、ということです。
わたしはふたつ考えました。
まずはヲ格の不在です。
「かける」は基本的にヲ格をとる他動詞です(検索すると「をかける」のコロケーションが一番多い)。だからヲ格がないと、“あるべきものがない”ことから来る不安定な感じが現前します。
そこでわたしたちは頭のなかでヲ格を探し求めます。
(わたしはきみを)魔法にかけてあげる
かな? とか。
この歌詞の中に何度も「わたし」が出てきますが、「きみ」は2回しか出てきません。しかも「きみ」を目の前にしたとき、主人公は「きみ」と呼んだりはしないのです。
本人がいないときだけしか「きみ」は歌詞に出てきません。
それって要するに、主人公は「きみ」と対面するときには、はずかしくって「きみ」と呼べない、ってことじゃん。かわいいかよ。
主人公が「魔法にかけてあげる」って歌うとき、たぶん主人公は「きみ」を目の前にしているんだと思います。
そういうときだけ不自然に「きみを」っていう格を欠いてしまうの、シャイ感がかわいくないですか???
もうひとつはニ格の特徴です。
日本語教師のページに「ニ格」の項目があります。
この「酒に酔ってしまった」って表現、よくないですか? ニ格には原因を示す表現があるのです。
「酒に酔ってしまった」に対応する表現を魔法でいうなら「魔法にかかってしまった」になると思います。
主人公は途中まで「魔法にかかってしまった」と言おうとして、でも途中で話を軌道修正して「魔法にか…けてあげる」と言い直したのだとしたらすごくぐっときます。
だってこの歌詞の「魔法」なんて「恋」と言い換えられるようなものじゃないですか!
恋に落ちてしまった主人公の女の子が、それを認めそうになって、でもその寸前で、相手を恋に落とす呪文に言い換えるんですよ。なんなのこのつよがり!!
どっかのヒロインみたい
最近もっぱらきみのことばかり
詩人の言葉借り ポエムだって書くしはずかしいな わたし
でもたのしいな 毎日
むずかしいな 正直
あいたいな 毎日 正直
ほらこの子、もうすでにすっかり魔法にかかっちゃってるわけだし。
DAOKO『かけてあげる』でした。
ほんとうはこの歌詞の最後の部分もだいすき。
魔法にかけてあげる
とっくに効果なんて切れてたの
恋をしていたきみは
最初から魔法なんてかかってなかったの
最後の最後に「魔法なんてかかってなかったの」っていう逆夢オチみたいなやつを展開するの策士すぎじゃん、って思うけど、触れる余裕がなかったです…。
気づいたら「に」の1文字だけのためにずっと文章を書いてる人みたいになっちゃいました。タイトル「考察」にしちゃったけど、「妄想」ぐらいでちょうどいいな…。
でもたのしかったのでOK!!
ところで、この歌詞の中で「かけてあげる」の6文字だけ選び出してタイトルにするの、エグい最高のセンスですね…。DAOKOさんすげぇよ……。
*1:なぜか恋愛の「魔法」っていうのが歌詞と共通してておもしろい〜〜