巧みな構成
flumpool『星に願いを』っていう曲の歌詞、冒頭見てくださいよ。
君がいない 日々の意味をいま知って
すべて何もかも 捨てて駆け出した
よくできてると思いませんか??
Aメロではシチュエーションの説明があります。
「君がいない 日々の意味をいま知って」
っていう部分だけで
- 「君」という人物がいなくなって数日経った
- 主人公はその意味を知らなかった
- けどいま知った
ということがわかります。
これだけで、主人公は男性で、付き合っていた女性と別れて少し経ったところなんだろう、ってことがすでにわかるでしょ。
コンパクトな文章にこれだけの情報をぎゅっと詰め込めるの、テクニックを感じる!!
星の下で 今も心は飲み込んで
誰かのためだけに 笑ってるの?
Aメロの後半は主人公の内省に終始しています。さっき「君がいない」と歌ったばかりなのに、主人公は「君」がいまどうしているかばかりを気にしていて、要は未練が残っているんだってことがわかりますね。
このたった4行で、この曲の設定がほぼ見えるのでした。すごい!
冒頭で設定を説明し尽くしてしまうのは秋元康さんの歌詞の特徴です。
あなたのことが好きなのに片思いしている女の子が主人公の曲か! 今回の片思いも実らないままっぽい感じなのか!
私にまるで興味ない
何度目かの失恋の準備
Yeah! Yeah! Yeah!
AKB48『恋するフォーチュンクッキー』
カレンダーより早く時期は衣替え直前の5月ぐらいだな。主人公は「僕」って言ってるからたぶん男の子で、シャツを着てるんだな(あとでこれが制服だとわかる)!
シャツの袖口まくって
太陽が近づく気配
僕の腕から衣替え
AKB48『ポニーテールとシュシュ』
こういう感じ。
Google検索でも、検索結果のページでは当然のように、当該ページの冒頭の数十文字が表示される(リード法というらしい)ようになっていて、わたしたちはそれを手がかりに目当てのページを探します。
これと同じで、歌詞もたぶん冒頭の数行によってみんなふるいにかけられているのでしょう。
『星に願いを』の歌詞は、Bメロに続きます。
君の生まれた町 向かい風の歩道橋の上
背中押す懐かしい歌
Bメロになると描き方が変わるのもセオリー通りです。
Aメロの後半はだいたい主人公の内省に終始していたのに「歩道橋の上」という具体的なものが出てきます。シーンの変化を感じる!
「向かい風」「背中押す」みたいな、身体を感じる表現が出てくるのも変化があってよき。
行かなくちゃ
この目に見えない感情が こんなにこの胸を
熱くする 満たしてゆく 壊れるくらいに
サビではそこまでの流れを踏まえて「行かなくちゃ」という強い表現が出てきます。
目に見えない感情が胸を熱くするのはわかる。そゆことあるよね。
雨の日も風の日も忘れなかった
涙で濡れた笑顔
失くせない何よりも大事なモノ
サビの後半。頭は「あ」になっていて、前半に続いて子音のない音で始まるのいい感じの統一感。
それにAメロに出てきた「笑ってるの?」がサビ後半で「笑顔」という言葉で回収されていて、なるほど感があります。
というわけで、歌詞の構成としてはとっても精緻だし、巧みだし、よくできててわかりやすいと思ったのでした。
おしまい。
…。
けどさ。
それとは違う思いがずっと頭をもたげるのです。
この主人公、やはりクズなのでは…。
巧みじゃない恋愛
いや、だってですよ。
君がいない 日々の意味をいま知って
すべて何もかも 捨てて駆け出した
「君がいない 日々の意味をいま知って」っていう、1行目からして、若干クズっぽい感じが出てると思いませんか!?
別れてから「君」のありがたみを知った、って話なんでしょ?
飲みかけのペットボトルとか、鼻かんだティッシュとかを彼女さんが片付けてくれてたんですよ? 机に並んだペットボトルや丸まったティッシュに、彼女の不在が感じられるのですよ!
ティッシュ同様、積み重なった「日々」があるのに、それを「いま」知った、ってあたりに主人公のだめな感じがよく出ています。
「君」の不在は、不在になった瞬間に気づけよ!!
さらにそのあと「すべて何もかも 捨てて駆け出した」っていうのも、なんかだめじゃないですか??
「君」がいない生活の「すべて何もかも」を捨てること自体はまあいいんですけど、
それと同じように軽率に「君」のことも捨てたんでしょ〜〜〜〜!
って気持ちになるのでよくないです(わたしが)。
目の前の人だけに都合のいいことを言って、あとでつじつまが合わなくなるお調子者のオーラをひしひしと感じます。バンドマンかよ(バンドマンです)。
だからね、わたしはずっとこの歌詞を見て思っていたのです。
やはりクズなのでは…、と。
しかし。
この歌詞には救いがあります。
主人公が目指す再会が、ただの再放送ではなくて、ちゃんと前回の反省を踏まえたステップアップに見える、っていうことです。
いつか君と 夜空のふたつ星に
名前つけて 交わした指切り
キミはじっと 流れる星を探した
ずっと 僕の願いを祈ってた
そのための伏線になるのがこの2番Aメロです。この回想シーンは、あとでちゃんと効いてきます。
主人公は「夜空のふたつ星」に名前を付けて、それをふたりの思い出として刻んでいます。一方で「キミ」は「流れる星を探した」と描写されています。
ふたりで同じ夜空の中、違う星を見ているのです。
こういう描写があるのは、主人公がふたりのすれ違いに自覚的だからです。
わたしは思うのです。これならまだワンチャンあるぞ!
わかったんだ 幸せってさ
ふたつでひとつ ひとつずつじゃない
すべてを分け合える二人だけに許された願い
さらに効果的なのはこのCメロです。
「ひとつずつじゃない」って気づいてる主人公は、きっとあのとき名付けた「夜空のふたつ星」が独りよがりだったってことに自覚的なんでしょう。
そしてその代わりとして描かれる「ふたりでひとつ」とは、あのとき流れなかった「流れる星」です。
いいですか!
この曲のタイトル『星に願いを』は、あの回想シーンで流れなかった流れ星のことなのです!
逢いたくて 逢いたくて いま 逢いたくて
今もしもひとりなら
なにひとつキミを照らすモノも無いとしたら
だから、いま主人公が目指しているのは、ただの過去ではありません。
逢いにゆこう
流れ星にかけた願い 叶うのが今なら
この先に新しいふたりがいる
…行かなくちゃ
過去と似た形をした、ふたりの新しい関係なのです…!
なんだよ! けちょんけちょんに言ってやろうと思っていたのに、結局この歌詞めっちゃいいねみたいになっちゃったじゃねぇか!!
わたしは記事を書く前にはいつも必ずびしばしメモしてからキーボードに向かうんですが、今回ほどメモと仕上がりに違いが出ちゃったのは、ほとんどないです…。混乱。
https://twitter.com/hacosato/status/794716987741999104
次回はWANIMA『ともに』の歌詞の話をしたいと思います。
この歌詞、ぜったい表面に見える以外の意味があるよね????