こんにちは。
今日はChay『あなたに恋をしてみました』の歌詞のことを考えます。
Chay『あなたに恋をしてみました』歌詞(歌ネットへリンク)
あなたに恋をしてみました「あなたに恋をしてみました」っていうフレーズがかわいい♪
何でも出来そうな ああ 力が湧くのは
ああ それは ああ それは 恋の魔法ね
「〜(し)てみた」って言い方はニコニコ動画などで楽曲を歌でカバーするときに「歌ってみた」っていうときなどで使います。
「歌ってみただけだよ(クオリティ低くても大目に見てね!)」と、予防線を張っているのです。
この予防線を張る感じを「恋をしてみました」っていうフレーズに使うところがかわいくてよいですよね〜〜。
全体的に、この曲には予防線がたくさんあります。
恋なんだけど、恋だって認めちゃったら失敗が痛手になっちゃうから「別に大した恋じゃないんだからね!」って言ってる感じが少しあって、それがかわいいのです。
今回はそういうところに注目しました!
ってみました!
森田 良行『基礎日本語辞典』によると、「〜(て)みる」にはこういう説明があります。
他の目的のため、その動作を試みに行う。
[分析]“ためしに……するという実験的試みの意図を持つ。したがって、意志性の動作動詞に付いたとき、この意味が生じる。(中略)意志的な動詞以外の無意志性の動詞や自然現象を表す動詞には原則として続かない。
「これ別に、本気でやったんじゃなくて、試しにやってみてるだけだから! ほかにやりたいことがあって、いまはそのための実験だから!」っていうようなメッセージが付きます。
ニコニコ動画の「歌ってみた」は、そういうメッセージを予防線として使っています。つまり、
「この動画は自分が歌を入れたものだけど、試しに入れてみただけだから、クオリティが低くても大目に見てね」
っていうメッセージがこもっています。いまは「歌ってみた」そのものがジャンルの名前なので、本来のそういう意図は薄くなって見えますが、でも出自は(きっと)そういうことです。
「確かに私はあなたに恋をしちゃったみたいだけど、恋をしたっていうか、してみただけだから、別に本気で恋なんかにのめり込んでるわけじゃないから!」
っていう予防線が感じられます。
しかも、「歌う」と違って「恋をする」は動作動詞かどうか微妙なラインです。「歌う」という動作は、自分で試したりやめたりできるから問題なく動作動詞です。けれど「恋をする」のは、自分で自由に始めたりやめたりできるかというと…ちょっと微妙なラインです。完全に自由というわけにはいかないような。
本来「〜(て)みる」は、自分で始めたりやめたりできる動詞にしか使わないというルールがあります。さっきも引用したように「意志的な動詞以外の無意志性の動詞や自然現象を表す動詞には原則として続かない。」というルールがあるのです。
でもこの曲では「恋をしてみました」っていう風な言い方を繰り返し使っています。
つまりこれ、主人公は自分の意志で、恋をコントロールできるよ、って言ってるってことなのです。
主人公は「うっかり恋に落ちたとかじゃなくて、私は自分の意志で、試しに恋をしてるだけだから!」って主張してるのです。
そんなの、ツンデレのフラグに決まってるじゃないですか!!
LINE型 vs Twitter型
ところで、ちょっと前にLINE歌詞ドッキリが流行りました。
そんなLINE歌詞ドッキリでよく使われるのが、erica『あなたへ贈る歌』です。
突然ごめんねって感じの『あなたへ贈る歌』は確かにとってもLINE向きです。
でも聞いてほしい
目を見たらきっと言えない気がするから
初めて話したあの時から
私の中で何かが動きはじめた
でも、今回の『あなたに恋をしてみました』はぜんぜんLINEに向いていません。LINE歌詞ドッキリには使えないと思います。
その代わり『あなたに恋をしてみました』は別のSNSで使えます。
この曲は、Twitterで使うのにぴったりです。
そもそも、この曲の歌詞は独り言っぽさ満載です。
どうして こんなに早くひとりごとを垂れ流す最適なSNS、それは、Twitterです。
運命の人に 会わせるの?
恋は 練習不足で
神様は 意地悪ね
試しにやってみました。こうなります。

イイ感じ!!
ちなみにこれがどういう風にイイ感じなのかを知るためには、LINEとかと比べてみるとよくわかります。

なるほど! そうなるよね!
私、どんな歌詞でも、歌詞を使ってLINEで告白って難しいと思うんです。
だってどんなに歌詞でカモフラージュしたってLINEだと相手を限定せざるを得ないから(グループ使うとかもぜったいおかしいし)。仮に、相手が自分のことを好きだかどうかわからない状況だとして、LINEで歌詞を送って相手の様子を伺うなんてことできません。相手に訝しがられて、
「やだなぁただの歌詞だよ〜〜」
って言ったとしても、その告白めいた歌詞をLINEで送ったことには何かしらの意味が付きまといます。
でも、Twitterなら問題ありません。こんな歌詞をエアリプ的な感じでツイートしておけば、きっと相手のほうが察知してくれると思うんですよ。っていうか、それぐらい察知してほしいよね。
ちなみに、エアリプがモテることは数々の資料で実証済みです。
もちろん、エアリプも予防線です。これで意中の相手が反応してくれたらもちろんうれしいし、違うヤツが反応してきたら
「おめぇじゃねぇんじゃボケがぁっ!!」
って言えばいいだけなのでカンタンです。LINEのときと違って、変に言いつくろったりしなくて済むのです。
この歌詞はそんな感じで、いろんな意味で予防線がたくさんです。
- 私は自分の恋をコントロールできるんだよ、っていう予防線
- 恋を「してみました」って言っちゃう予防線
- それを独り言のスタイルで書くという予防線
けれど、主人公はいつまでも恋に対して客観的なポジションを維持できるわけではありません。
ああ それは ああ それは 恋の魔法ねって歌ってた部分が、いつしか
ああ これが ああ これが 恋の魔法ねに変わります。
「恋の魔法」は最初「それ」だったのに、最後「これ」になります。
魔法の距離が近づいています。
主人公が魔法そのものにかかってしまうまで、あと少しだけです。
というわけで、Chay『あなたに恋をしてみました』でした。
今回はスクリーンショットを撮るために、わざわざ歌詞をツイートしました。不感がってリプくださったかたごめんなさい…。
でもLINEのスクリーンショットはどうしよう…ぼっちの私にはなんと殺生な…༼;´༎ຶ ༎ຶ༽って思っていたんですが、なんと
http://line.g-at.net/
こういうサイトを見つけました! これでなんとか乗り切りました助かったぁ。
世の中を便利にしてくれる人に幸いがありますように。
あと途中で引用したこの本、歌詞を読む人にとって最高だと思うのでぜひ見てみてほしいよ! 「〜(て)みる」だけで1ページまるまる使う国語辞典はこれ以外にないと思う!ふだんだったら次回予告するのですが、次回は未定なので気が向いたやつやりまーす!