三国駅の三者三様
こんにちは! 読めたよ!前回の予告通り、今回はaiko『三国駅』を読んでみたいと思います。aikoは前に『ずっと』を読んで以来になります。たまきさんお待たせしました!
歌詞はというと、
変わらない街並み あそこのボーリング場
焦っていたのは自分で
煮詰まってみたり 怖がってみたり
繋いだ手を離したくない
サビはこんな感じ。街並みは変わらないのに「自分」は煮詰まったり、怖がったり。しっとりとして落ち着いた雰囲気の曲なのに、主人公の気持ちはぜんぜん落ち着いていません。
まずはその落ち着いてなさを整理してみましょう。でもって、それを元にして妄想を繰り広げてみたいと思います。今まででいちばんの牽強付会になりますよ! お楽しみに。
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND24903/index.html
構成はこちら→A-A-B-サビ-A-B-サビ-サビA
変わることと変わらないこと
この曲を読むときのキーワードは変化と不変だと思います。変わっていくものごとと、変わらずにいるものごとが対になって存在しているように見受けられます。
もしもあなたがいなくなったら
あたしはどうなってしまうだろう?
この曲の最初はこんな感じです。「もしもあなたがいなくなったら」っていうのは、変化です。この最初の2行は変化を怖れているように読めますが、その怖れ方が尋常ではありません。だってあたしはどうなってしまうだろう?って。
「もしもあなたがいなくなったら」に続けるなら、ふつうは「どうしよう?」とか「あたしはどこを探そう?」とか、そういう言い方をすると思います。そこには自身の“行動”がベースにあります。
ところが実際にはこの歌詞「あたしはどうなってしまうだろう?」と続いています。あたしはどうかしてしまうだろうっていう思いがそのベースにあるような感じがして、個人的にはとてもインパクトの強い2行です。この主人公、変化を強く怖れています。
寒さに堪えきれずに 温もり求めた先に
あなたの指と腕がある
それでいい それだけでいい
続く2連めを引用しました。ここにあるのは、不変の肯定です。温もりを求めればいつでも「あなたの指と腕」があってあたためてもらえることへの賛美が見えます。
が。
毎日が昨日の様だったのに
何を焦っていたの?
「毎日が昨日の様だった」というのはつまり、連日同じような日が繰り返されるということですから、この部分は変化ではなくて不変を意味しています。でも、この部分で注目なのはその後。「昨日の様だったのに」ということは、“もう今は違うんだフラグ”が立ちまくりです。主人公は不変を愛していたし、実際 昨日まで不変は続いていたけれど、今は新しい変化の渦が動き出してしまっているのです。主人公の焦りによって。
変わらない街並み あそこのボーリング場
焦っていたのは自分で
煮詰まってみたり 怖がってみたり
繋いだ手を離したくない
で、このサビですよ!
こうやって1番をじっくり読んでみると、この部分の対比は実に鮮やかです。街並みは変わりません。でも、主人公は煮詰まったり、怖がったり、感情がくるくると変化します。主人公は今でも「繋いだ手を離したくない」と歌っているから、不変を愛しているのは明らかです。でも、分かっていたって感情がうまく動かせないことはありますよね。この時の主人公が、きっとそういう状況なのです。分かっているのに昨日と同じ毎日を守り切ることができないのです。
「あたし」ちゃんと「自分」ちゃん
広い視野でいったら、この歌詞の格子は今まで考えてきたとおりだと思います。主人公は不変を愛しているけれど、変化から我が身を守り切ることができないのです。
でも、それだといろいろとおかしなことになってしまいます。「あなた」がいることが不変の証だとしたら、「あなた」の不在が変化の証ということになります。でも、この歌詞が描かれている時点で「あなた」がいるのかいないのかがとてもあやふやです。「あなた」は出てきたりいなくなったりしています。どうしてこんなにこんがらがっているのでしょう。
私は考えました。この曲、実は主人公がふたりなんじゃ?
私の妄想、まとめるとこんな感じになります。
登場人物は、タイトルに合わせて3人です。「あたし」ちゃん、「自分」ちゃん、そして「あなた」です。
3人はとても仲良しです。でも、実は女子のほうはふたりとも残る男子に恋心を抱いています。そして、片方の女子が抜け駆けを試みるのです。
さらにここがとても大事なところ。この歌詞は、あたしちゃんと自分ちゃんが1連ずつ交互に歌っています。
…という設定で、この歌詞を改めて見てみましょう。
もしもあなたがいなくなったら
あたしはどうなってしまうだろう?
持ち上がらない位に首をもたげて泣くのかなぁ
もう一度1連から引用します。1連の主人公はあたしちゃんです。あたしちゃんは3人でいつまでも仲よくいたいというスタンスです。でも永遠に一緒にいられるなんてことは現実としてはありえません。例えば「あなた」が卒業してしまうとか、そういう事情があって、この3人でいっしょにいられるのもあとわずかな時間だということが分かっているのだと思います。そういう状況を踏まえて、ぼんやりと未来を想像してみています。あたしちゃんはきっと、ほのかな恋心を「あなた」に打ち明けるつもりはないでしょう。そうしてしまったら、いまのような3人のバランスは崩れてしまうからです。
寒さに堪えきれずに 温もり求めた先に
あなたの指と腕がある
それでいい それだけでいい
2連の主人公は自分ちゃんです。自分ちゃんも「あなた」への恋心を抱いていますが、その気持はあたしちゃんよりもずっと強くて大きい感じ。自分ちゃんはひとりだと寒いし、不安だし、温もりが欲しくなってしまうのです。それは「あなた」という温もりです。つまり、自分ちゃんはその気持ちを「あなた」に打ち明けるつもりでいます。
毎日が昨日の様だったのに
何を焦っていたの?
3連の主人公はあたしちゃん。この部分はあたしちゃんから自分ちゃんへの問いかけになります。あんな毎日で幸せだったじゃない? いったい何を焦っていたの?というニュアンスが読み取れます。
変わらない街並み あそこのボーリング場
焦っていたのは自分で
煮詰まってみたり 怖がってみたり
繋いだ手を離したくない
それを受けての自分ちゃんの述懐です。きっと「あなた」は優しいから、自分ちゃんが手を繋ごうって言ったら優しく繋いでくれるのでしょう。手を繋いでもらった自分ちゃんは「繋いだ手を離したくない」って歌い、ずっとこのままふたりでいたいと願うのです。
2番も引き続き、引用しながら読んでみます。
「苦しい時は助けてあげる だから安心しなさい」
自由に舞う 声がする
それでいい それだけでいい
ここはあたしちゃんのターン。「苦しい時は助けてあげる だから安心しなさい」は「あなた」のセリフだと思います。それが「自由」だと表現されているのは「あなた」があたしちゃんにも自分ちゃんにも、どちらにもくっつかないからだと思います。そしてあたしちゃんは「あなた」のその自由なところを愛しています。
息を吸おうとする意志
真っ直ぐに あなたを見つめる為
ここは自分ちゃんのターン。きっと自分ちゃんは「あなた」のことを真っ直ぐに見つめて、3人のぬるま湯のような関係性を傾けようとしています。そこには強い意志があり、真っ直ぐな視線があります。これは、続くあたしちゃんととても対照的です。
育ってく小さな心を見落とさないでね
少しならこぼしていいけど
スカート揺れる光の中の
あの日に決して恥じない様に
自分ちゃんは真っ直ぐだったけれど、あたしちゃんはスカートを揺らしています。ここには直線と曲線の対比があります。あたしちゃんのいいところはこのしなやかさです。
「育ってく小さな心」とは、たぶん自分ちゃんの「あなた」への独占欲です。あたしちゃんは、自分ちゃんが「あなた」を独り占めしたい(あたしちゃんを排除したい)と思っていることにもちゃんと気づいています。気づいた上で「少しならこぼしていい」とまで歌っています。あたしちゃんは自分ちゃんに、心のなかの独占欲を、少しぐらいならこぼしてもいいよ、と歌っていることになります。
でもこの連の白眉は、なんといっても最後の一行。「あの日に決して恥じない様に」って!
「あの日」というのは、あたしちゃんがとても大切に思っている、変化のない過去の日々のことです。3人で仲よく過ごしていた日々のことです。だから、これから自分ちゃんが抜け駆けすることが仮にあったとしても、この3人の大切な想い出を傷つけないでね、と歌っているようにみえるのです。あたしちゃんの心のゆとりがハンパないです。
指折り数えた 芽吹いた日々と2人の
帰り道
最終連は、最後の部分だけ2行、Aメロが付け加わっています。この連の主人公は自分ちゃん。自分ちゃんが指折り数えて楽しみにしていたのは、あたしちゃんを排除したあとのふたりだけの世界でした。
その先のことは、この歌詞には直接は書いていません。けれど、
- 焦っていたのは自分で
- 煮詰まってみたり 怖がってみたり
のあたりから察するに、たぶん2人きりではうまくいかなかったんだろうな、と私は思いました。
卒業して旅立ってゆく「あなた」を、自分ちゃんは三国駅まで送って行きました。行きの道は自分ちゃんと「あなた」のふたりです。「あなた」は駅から電車に乗って遠くへと行ってしまって、自分ちゃんはひとりきりになって家へと帰ります。そこへ合流する人がいました。それがあたしちゃんです。歌詞の中の「2人の/帰り道」は、あたしちゃんと自分ちゃんのふたりだったのでしょう。
その帰り道のやり取りが、こうして歌詞になったのかな、と私は思っています。
というわけで、aiko『三国駅』でした。
J-POPって1曲はそんなに長くありません。5分だと長めって感じですよね。
すると、それだけの尺の中でなら伝えられる言葉の量も限られてくるから、必然的に歌詞はそんなに長大にはなりません。だからJ-POPの歌詞ってそんなに複雑にはならないのです。J-POPの歌詞の好きなところです。
そんな中で、登場人物が3人も出てきて、それぞれにちゃんとキャラクターがある曲なんて私はほとんど知りません。きゃりーぱみゅぱみゅ『ファッションモンスター』ぐらいかな?
hide with Spread Beaver『ピンク スパイダー』とか、家の裏にマンボウが死んでるP feat.GUMI『クワガタにチョップしたらタイムスリップした』みたいにたくさんの登場人物がいる例もありますけど、これはどちらも主人公は完全にひとりで、あとはいろんな登場人物が、それぞれ軽めの役割を与えられながらとっかえひっかえ出てくる感じ。重要な人物はあくまでせいぜい2人ぐらいな感じです。
そんな中、3人の人物をこの短い歌詞の中できっちり描き分けるaiko『三国駅』はスゴいなぁって私は改めて思いました。このダイアリーでは長いことaiko取り上げてこなかった時期もありますが、本当はもっとちゃんと読みたいな、って思ってるうちのひとりです。いつか読みたい『恋のスーパーボール』。
追記:私のタイミングに合わせて(違)kenzeeさんが『三国駅』を読んでいらっしゃいます♪ あとでじっくり見に行かなきゃ!次回予告:次回は川本真琴『桜』を読みたい! …のですが、忙しすぎて身動きがとれないです。大丈夫か自分!