構成ばっかりで読み解く『青空』
こんにちは。最近こちらでは、週末になると天気が崩れてしまいます。青空の週末が恋しいです…。[asin:B00511I67W:image]
というわけで今回は予告通り、Salyu『青空』を取り上げたいと思います。
あなたを足さないとね 私は空っぽだってこと
飾らぬ微笑みに触れた時 気付いてた
もどかしい 懐かしい
素直さがあふれる
あなたが好き
あなたが...
ヤバい超さわやかー♪
メロディも伸びやかでポップですぐに歌いたくなるようなやさしさだし、歌詞も素直で伝えたいことがすぐに伝わってくる歌詞だし、このダイアリーで取り上げるとこあるの?って気持ちになってしまいそうな素直さがあふれてます。
でもね。この歌詞、単に素直なだけじゃなくて、ちゃんと読んでみるときっちり組み立てられていることがよくよく分かるのです。今回はそういうところを取り上げましょう。で、いちいち感動しましょう♪
歌詞はこちら→http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND113020/index.html
構成はこちら→A-A-B-サビ-A-A-B-サビ-(間奏)-B-サビ-アウトロ
1番と2番の呼応がキレイ!
さて、構成を見てみると分かりますが、最初の4連ぶんが1番。続く4連ぶんが2番になっています。それぞれA-A-B-サビ、っていう構成になっていて、完全に同じカタチで組み立てられています。
で、1番と2番はいろんな意味でキレイに対応するようにできています。
たとえば歌詞の中で、文が一度 区切られている部分(終止形の部分)を取り出してみましょう。まずは1番から。
それだけで得意になってた
今でも鮮明に覚えてる
しばらく離れてた気がした
飾らぬ微笑みに触れた時 気付いてた
ふむふむ。じゃ、2番はどうでしょう。
心が沈む日もあるけど
迷ってた過去も誇れるよ
軽やかなステップを踏み出す
無邪気に嬉しい自分が少し恐いけど
1番ではほとんどが過去形。2番ではぜんぶ現在形になっていますね♪
1番を最初から見てみましょう。
足元の影法師を
ひとつ ふたつって飛び越えて
それだけで得意になってた
公園のシーソーから
母に見せてもらった空
今でも鮮明に覚えてる
たとえば最初の連のここ。飛び越える影法師。公園のシーソー。母に見せてもらう空。この辺の小さなエピソードのひとつひとつは、それとなくごく幼いころのイメージを想起させます。それが1番の最後には「あなたが好き あなたが…」と続くわけですから、主人公の過去の記憶が現在の「好き」っていう気持ちにつながっているってことがよく分かります。1番は、過去の思い出が現在の気持ちにつながることを描いているんですね。
1番で唯一の現在形「覚えてる」も、そうやってみて見ればどうも、すごく過去を向いた単語だってことに気づきますね。1番は過去を素材にして、それを現在の気持ちに結びつけてあるってわけです。
一方、2番はそんなことありません。
時々選んできた道を
間違ったって思えて
心が沈む日もあるけど
間違いのその先で
あなたが待っててくれたから
迷ってた過去も誇れるよ
道を間違えたり、心が沈んだり、でもあなたが待っててくれたり。これはぜんぶ、現在の主人公にまつわるエピソードです。正確にいえばこれはぜんぶ経験してきたことでしょうから過去のことになるのですが、公園のシーソーとかのエピソードと比べたらずっと最近のこと。1番が子ども時代の話なら、2番はおとな時代の話です。だから、2番は文末がぜんぶ、現在形で紡がれているんだ!
せっかくなので、AメロだけじゃなくてBメロも比較してみましょう。1番のBメロはこんな感じ。
澄み渡る様な青空に
風通しの良いあの気持ち
しばらく離れてた気がした
タイトルでもある「青空」が出てきます。ここでは母に見せてもらったような澄み渡った青空が絵画のように描かれています。澄み渡っているならきっと晴れていて、雲なんてほとんどなくて、母のような安心感のある青空であることでしょう。
さて、2番はどうでしょう。
羽がはえたように心が
軽やかなステップを踏み出す
あなたのリズムと呼応して
2番のBメロです。ここで「リズム」なんて単語を出してくるあたりもとってもテクニカルです。リズムって時間にまつわる単語ですよね。2番は現在を描いているから、時間にまつわる単語も実感を持って捉えやすいんだと思います。
1番は記憶の向こうにあるものだから、写真のような青空がモチーフ。2番は現在を感じさせるシーンだから、カラダに働きかけるようなリズムが出てきます。こんな風に、1番と2番は現在と過去のきれいな対比で結ばれているのでした。
じゃあ、3番は?
さて、私はBメロ2コを比較して満足しちゃっていますが、本当はBメロまだ最後に1つあるんですよね。ここではそこから先を3番と呼ぼうと思います。3番はどんな歌詞なんでしょう。
澄み渡る様な青空に
風通しの良いこの気持ち
もう失くさずにいれる気がして
なぁんだ。1番とだいたい同じじゃん。
…じゃなかった(汗)。
1番のBメロをもう一度おさらいしておきましょう。
澄み渡る様な青空に
風通しの良いあの気持ち
しばらく離れてた気がした
なんと。2行めの「あの気持ち」が「この気持ち」になってる。しかも3行めの文末が「気がした」だったのに「気がして」に変わってる。
1番の時点では、風通しの良い気持ちは子どものころの気持ちだったんですよね。だから「あの」という遠称の指示代名詞が使われていたんでしょう。
でも3番に至ると、その気持ちはもう主人公の身体に染み渡って自分のものになっているみたい。だから同じ「風通しの良い」気持ちだけど、「この気持ち」と近称で呼べるようになったんでしょうね。
文末が変わっているのも、同じように考えればつじつまが合いそう。1番の時点では風通しの良い気持ちは過去の気持ちだったけれど、3番の時点では過去の気持ちでもあるし、現在の気持ちでもあります。だから「気がして」と動詞を連用形にして、時制が分からないようにしてしまったんですね。そうすればひとつの言葉で両方を示すことができるからです。
英語だったらこんなに都合のいいことはしづらいから、たぶん名詞で表現するとかになるんでしょうねー。手あかの付いた表現をするのは癪ですが、日本語って便利です☆
ところで、3番はサビの部分も1番とかとは微妙に違っています。
1番のサビは、
あなたを足さないとね
私は空っぽだってこと
飾らぬ微笑みに触れた時 気付いてた
こういう感じなのに対して、3番のサビは
あなたを足さないとね
私は空っぽだってことを
知るたび 心は愛おしさに震えた
こういう感じ。
それぞれ行は文のかたちが同じです。1行めには目的語、2行めと3行めには主語がそれぞれ置いてありますね。表にまとめてみると、こんな感じになります。
1番 | 3番 | |
---|---|---|
1行め(目的語) | あなた | あなた |
2行め(主語) | 私 | 私 |
3行め(主語) | (私) | 心 |
3行めの主語は特に書いてありませんけど「気づいてた」の主語にあたるのは文脈から考えればきっと「私」なのでしょう。とすると、1番と3番のサビはいろいろ違うところも多いけれど、だいたいは同じなのだということが分かります。3行め以外。
ところで、私が注目したのは「心」です。「心」って、この歌詞の中で別の部分にも登場しています。私はその中で、2番のBメロに注目しました。
羽がはえたように心が
軽やかなステップを踏み出す
あなたのリズムと呼応して
ここ、1番の同じメロディの部分は「澄み渡るような青空に」になっています。つまり「心」と「青空」が同じメロディに乗っているというわけ。
ここでさっきの表に戻りましょう。
1番 | 3番 | |
---|---|---|
3行め(主語) | (私) | 心 |
ここでは、「(私)」と「心」が同じメロディに乗っています。ということは。
たぶん「私」と「青空」は対応する関係にあるんじゃないかと私は思います。最初は空って母に“見せてもらった”ものだったけれど、最後には自分自身が空と呼応する存在だと感じられるようになった、っていう世界なのかもしれないですね。
つながリンク
前回はhttp://d.hatena.ne.jp/hacosato/20111105/aozoraを取り上げました。今回のSalyu『青空』との共通点はもちろん、青空です。
若旦那『青空』では、
晴れ渡った青空 優しい風が 何事もなかったように 受け入れてくれた
あなたが青空 あなたの声が胸に沁みる 心の空まで
という部分に「青空」が出てきました。泣いたり笑ったり忙しい主人公に対して、青空でもある「あなた」の安定感が印象的です。
一方で、Salyu『青空』においては、
澄み渡る様な青空に
風通しの良いあの気持ち
しばらく離れてた気がした
とかってところで「青空」が出てきました。青空にひも付けられるような「風通しのよいあの気持ち」については、これまで割と字数を割いて考えてきましたね。その感情はどうやら、歌詞が進むに連れて自分のものになったみたいです。
ところで、この2曲には根本的な共通点があります。それは、どちらも図鑑型だってことです。
若旦那『青空』の場合、サビの
あなたの笑顔 世界で一番美しいなんて言われたら
Wow oh
恥ずかしいけど 悔しいけど 嬉しくて笑っちゃうよ
というメッセージからはまったく外に出ません。同じメッセージを研ぎすませていくって点ではキレイな図鑑型。
Salyuもそれは同じです。
あなたが好き
あなたが...
というメッセージが根幹にあって、それを表現するための青空が出てきます。このメッセージは終始ぶれないので、Salyuのほうもやっぱり図鑑型です。
青空って曇り空とかと違って、安定感のある空です。雲が多少もくもくすることはあっても、雨が降りそうなわけでもなく、太陽は太陽の速さでしか動かないし、すごくゆっくりで、安心して見ていられるような空です。そういう点で、青空ってたぶん図鑑型の歌詞と相性がいいんだろうな、と私は思います。
前回、若旦那『青空』について、図鑑型と物語型の二面性がある、なんて語ってしまったから、今回のまとめがキレイにまとまらないじゃないですかー!
というわけで、それは私のせいなのですが、前回のその点についてひとつ。
基本的に、若旦那『青空』は図鑑型なのだと思います。ただ、図鑑としてフィックスされて描かれている、テーマは“変化”でもあります。変わりつつあるところを写真に収めて、それを図鑑として眺めているような、そういう世界をつくっているんだろうな、と私は歌詞を見て思いました。その点ではカミナリグモ『ローカル線』とまったく同じです。あれも図鑑だけど、動きますよね。それは動くところを図鑑にしているからです。
今後、そういうタイプの歌詞が出てきたときに、改めておさらいできたらいいな、と思っております。 ↑クリックするとサビまで聴けるようになります♪