桜とさよならの世界のつくり方
こんにちは。私の住んでいる地域でも桜の花が咲き始めました!
今回は森山直太朗『さくら(独唱)』を取り上げます。
さくら さくら 今、咲き誇る
刹那に散りゆく運命と知って
さらば友よ 旅立ちの刻 変わらないその思いを 今
サビはこんな感じ。桜と別れをクロスさせたテーマの曲です。3月4月の桜が咲く季節は、出会いとともにたくさんのお別れがありますからね。
でも、この曲をじっくり読んでみると、単にそれが時期的に合わさるからだけではなくて、もっと深い場所で桜と別れが関連し合っていることがわかってきます。いっしょに追いかけてみましょう。
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/song/17129/
構成はこちら→AA-B-サビ-A-B-サビ-サビ
刹那→いつか→永遠
この歌詞、まずレトリックがハンパないです!
どこをとってもすごいなって思う点でいっぱいのこの歌詞ですが、たとえば、サビを引用してみましょう。サビのメロディ、この曲には3個所あります。一気に引用します。
さくら さくら 今、咲き誇る
刹那に散りゆく運命と知って
さらば友よ 旅立ちの刻 変わらないその思いを 今
さくら さくら ただ舞い落ちる
いつか生まれ変わる瞬間を信じ
泣くな友よ 今惜別の時 飾らないあの笑顔で さあ
さくら さくら いざ舞い上がれ
永遠にさんざめく光を浴びて
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散る道の上で
歌詞の2行めを見てみてください! 2行めの最初はそれぞれ「刹那」「いつか」「永遠に」です。ぜんぶ時間に関係する言葉になってる!
しかも単に時間の言葉を選んでいるだけではなくて、出てくる単語がみんな位置づけの違う言葉になっているのがすごいところ。ひとつめのサビから順に見てみましょう。
「刹那に散りゆく」の「刹那」っていうのはすごく短い、一瞬の時間を表す言葉です。散りゆく桜の花びらを見て、その短い命に思いを馳せている感じ。
では、2番のサビはどうでしょう。「いつか生まれ変わる瞬間を信じ」の「いつか」っていうのは、さっきとは異なる時間を指しています。もっとずっと遠い未来を視界に入れている部分です。
最後のサビ「永遠にさんざめく光を浴びて」はどうでしょう。「永遠に」は点を示していたこれまでの2つとは違い、期間を示す言葉だと思うのです。図で表すと、こんな感じ。
この曲の中では、この3つが刹那→いつか→永遠、って順に出てくるのだから、まずは「刹那」でいまの居場所を確認して、次に「いつか」で目指す場所を定め、そして「永遠」で道程を歩む、そんな順番のストーリーが思い浮かびますね。
それ→あれ→これ
この曲のサビにはもうひとつ、大きな特徴があります。3つのサビをもう一度引用してみます。
さくら さくら 今、咲き誇る
刹那に散りゆく運命と知って
さらば友よ 旅立ちの刻 変わらないその思いを 今
さくら さくら ただ舞い落ちる
いつか生まれ変わる瞬間を信じ
泣くな友よ 今惜別の時 飾らないあの笑顔で さあ
さくら さくら いざ舞い上がれ
永遠にさんざめく光を浴びて
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散る道の上で
1つめのサビには「その」っていう指示語があります。
これ、2度めのサビでは「あの」っていう指示語に変わっています。
そして3度目のサビでは、場所は少しだけ変わりますが「この」っていう指示語が出てきます。
だからサビには3つの異なる指示語が使われてる、ってことになります。
さっき、3つのサビには刹那→いつか→永遠、っていう流れがあるって気づきました。今回の指示語もひとつの表にまとめてみたら、こんな感じになるはずです。
切り口 | 1つめのサビ | 2つめのサビ | 3つめのサビ |
---|---|---|---|
時間 | 刹那 | いつか | 永遠 |
指示語 | その | あの | この |
「その」っていうのは、話し手よりも聞き手に近いものごとを指して使う言葉です。だから1つめのサビは、君の刹那について歌っているということです。
それに対して「あの」っていったら、話し手からも聞き手からも遠いものごとを指す言葉です。だから2つめのサビは遠いいつかについて歌っている、ということができそう。
最後のサビに出てくる「この」は、いまの居場所に近い言葉です。ここ、つまり永遠について歌っているはずです。
でも、最後のだけよくわかりません。「ここ」でかつ「永遠」って、何を示しているのでしょう。
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散る道の上で
3つめのサビから、それは推測できます。「この場所で」の次の行に「道の上で」があります。副詞を揃えてあるのでたぶん「この場所」=「道の上」なのでしょう。
ん? 道の上と永遠…なんか似てる。
道っていうのはどこかとどこかをひとつの線にして結んでいます。点ではないから1次元です。そしてさっき図を書いたように、永遠も線で表せました。つまり、こんなふうにまとめることができます。
“いま”は永遠の途中です。そして、“ここ”は道の上です。
1つめと2つめのサビは、考えてみたら不安定です。
1つめのサビは「その」(つまり自分の手に負えない、相手の領域)についての連だし、「刹那」(つまり、次の瞬間が読めない領域)についての連だからです。
それに2つめのサビは逆に、ものすごく遠くに思いを馳せています。「いつか生まれ変わる瞬間」は、本当に来るのか分からないほど遠い先のことだし、「あの」笑顔なんて実在するかもわかりません。主人公が想起している遠い場所は、客観的に見ても確実な場所なのかといったら、そんなことはないのです。
けれど、3つめのサビは違います。3つめのサビには、安定があります。
「この場所」っていったら現在立っているは確かな場所だし、それは今後も確かな場所であり続けてくれます。
それに「永遠に」は現在も過去も未来も全部覆ってくれる、最も大きくて確かな時間の言葉です。
こんな風にこの歌詞は、時間の表現も指示語も駆使して、ひとつの大きな物語を紡いでいるんですね。
友との別れは桜との別れ
この曲は、友との別れと桜との別れがリンクしています。
さくら さくら 今、咲き誇る
刹那に散りゆく運命と知って
さらば友よ 旅立ちの刻 変わらないその想いを 今
1番のサビを引用しました。ここでは前半の2行分が桜との別れを、最後の1行が「友」との別れをそれぞれ描いています。ばらばらの別れがひとつの歌詞に入るなんてことはあんまりないでしょうから、きっと桜との別れと「友」との別れはシンクロしているんでしょう。
私はこの歌詞を見て、主人公は「友」と死別したのかな?と思いました。
きっかけになりそうなところを引用してみます。
どんなに苦しい時も 君は笑っているから
挫けそうになりかけても 頑張れる気がしたよ
1番のAメロです。
「頑張れる気がした」のが過去形で綴られるのに、「君は笑っている」が現在形で綴られるのはどうしてでしょうか? この部分、「君」は写真の中にいるのだと私は考えています。
写真の中の、生きていたころの「君」のことをこの歌詞は歌っているように読めます。
でもお別れ済みだとすると、サビの歌詞が気になります。
さらば友よ 旅立ちの刻 変わらないその思いを 今
別れてしまってからだったら、もう「さらば友よ」なんて言ってる場合じゃないような。
私は成仏のことを思いました。本当は死んでしまっているのに未練が残ってしまって、生と死の間に境界線が引けなくなっているみたい。
泣くな友よ 今惜別の時 飾らないあの笑顔で さあ
2番のサビでは、笑顔の前に「あの」がついています。あんなに主人公を励ましてくれた笑顔なのに「あの」だなんていう距離を感じさせる指示語がつくあたり、別れが着実に進んでいることを予感させます。そして、
さくら さくら いざ舞い上がれ
永遠にさんざめく光を浴びて
さらば友よ またこの場所で会おう
さくら舞い散る道の上で
最後のこんなサビで、ついにお別れが確実なものになるのだと私は思いました。「永遠にさんざめく光を浴びて」ってところがとても死別っぽいです。「永眠」という言葉もありますし。
ここで、前の節で使った表を再び思い返します。
切り口 | 1つめのサビ | 2つめのサビ | 3つめのサビ |
---|---|---|---|
時間 | 刹那 | いつか | 永遠 |
指示語 | その | あの | この |
このとき、3つめのサビで主人公の世界はやっと安定したことを私は考えました。
死別のことと絡めて考えると、「安定」とはどういうことでしょう。
私は、死者がちゃんと成仏し、生きるものとの境界がきちんと引かれた状態が「安定」なのだと思います。
そして、単語で見ても、物語の全体を見ても、ちゃんと最後のサビのところで安定が生まれゆくのが今回わかりました。
この曲は、時間の言葉からも、指示語からも、そんなストーリーをきちんと支える緻密な歌詞でできているんだなぁと私はつくづく感じたのでした。
つながリンク
前回はサンボマスター『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』を取り上げました。
森山直太朗『さくら(独唱)』との共通点は、歌詞の構成です。とてもよく似ているのです。
比較しやすくするために区切り方をちょっと整理すると、
曲 | 構成 |
---|---|
世界はそれを愛と呼ぶんだぜ | AA-B-サビ-AA-B-サビ-C-サビ-サビ-アウトロ |
さくら(独唱) | AA-B-サビ-A-B-サビ-サビ |
と、こんな感じです。これだけだったら大して似ていません。
でも、構成するそれぞれの要素の中身は、実はほとんどいっしょです。表にまとめるとこんな感じ。
部分 | さくら(独唱) | サンボマスター『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』 |
---|---|---|
A | 主人公と「君」の場面の設定 |
主人公と「君」のこと |
B | 「あの日」の思い出 |
「昨日のあなた」 |
サビ | タイトルを入れつつメインのテーマ |
タイトルを入れつつメインのテーマ |
A | 「君」の未来 |
主人公たちの「いずれ」 |
B | 「移りゆく街」 |
「昨日のアナタ」 |
サビ | メインのテーマだけどちょっと変える |
メインのテーマだけどちょっと変える |
サビ | メインのテーマだけどまたちょっと変える |
メインのテーマだけどまたちょっと変える |
ほらねそっくり!
みんなもこんな感じで歌詞を書けば、サンボや森山直太朗みたいにヒットするかもしれません。
成功したら私になんかおごってね。
というわけで、森山直太朗『さくら(独唱)』でした。
この記事は2014/04/05に大幅に書き換えました。修正前は歌詞の世界がループしてることとか書いてたのですが、冗長かと思って消しちゃいました。
読みやすくなってたらいいなと思います。いい文章を書きたい。
https://itunes.apple.com/jp/album/sakura-du-chang/id76055700?i=76055705&uo=4&at=10lrtS