5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

YUKI『COSMIC BOX』

-時間と空間をループするボックス-
こんにちは。
COSMIC BOX
さて、今回はYUKI『COSMIC BOX』を取り上げます☆ 1ヶ月前に私、今年のうちに取り上げたいアーティストを考えてたんですが、そのうちのひとりがYUKIです。間に合ってよかったです♪
聴いてみると、がんがん攻めるコード進行と歌うのが難しそうなAメロがいきなり私たちを出迎えてくれますが、そゆのは残念ながら私の専門外。以前もリンクさせていただいたsunshowerさんがコードの分析を試みていらっしゃいますので、ぜひそちらをどーぞ。
さて、このブログではJ-POPの歌詞を読んでいきます。

月で生まれた人は 地球には戻れない

から始まるこの歌詞、サビの部分にはこう描かれています。

公園の砂場から 大気圏突入用のロケットに乗って
だれかが残したシャベルを コックピットにして 還ろう 還ろう

むむ? ってことは、主人公は月をスタートして、地球に帰ってくるっていう設定なのかな? なにそのナゾ設定。
…なんて思っちゃった私ですが、これはこれから私たちを迎えてくれるナゾの数々の最初にすぎなかったのですっっ。
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/user/phplib/view_0.php?ID=86826
構成はこちら→ABサビサビABサビ(間奏)サビサビサビアウトロ

たくさんの場面をつなぐもの

この曲の歌詞、場面がどんどん変わっていくところがすごく特徴的です。
さっきも引用した1行めは、

月で生まれた人は 地球には戻れない

でした。でもその次の行は、

母の故郷の惑星に降る 雪に頬うずめるのは難しい

と続きます。「母の故郷の惑星」は「地球」のことだと予想ができますが、地球にあるいろんなモノのうち、雪に未練があるのかな? なんて思っているとなんか違うみたい。

見たことのない海に 憧れてため息

と、雪への憧憬はどこへやら、今度は海かよ。そして、

巨大なモニター 同じ顔した 青い魚達が跳ねる

モニターを通して海を見ているのかな? なんて予感をちらつかせながらサビに突入し、そっからはもっと抽象的な言葉とロケットの世界です…。

ところで私、前回のポケットビスケッツRed Angel』、前々回のTHE BLUE HEARTS『情熱の薔薇』と、最近 歌詞の世界から名詞を取り出すのがマイブームです。

ってわけで、今回も試しに歌詞の世界から名詞を取り出してみました。

月、人、地球、母、故郷、雪、頬、事、海、ため息、モニター、魚達、…(後略)
そしたらびっくりしました。
サビ以外で、同じ名詞の繰り返しがひとつもないのです。
これは、とてもめずらしいことだと思います。たとえば主人公のひとがいる歌詞なら「私」とかって言葉が繰り返し出てきがちだし、ヒロインがいる歌詞なら「君」とかって言葉が出てきがちです。季節が冬なら「雪」が繰り替えて出てきたりするし、舞台が学校だったら「席」とかって言葉が繰り返し出てきたりします。
この歌詞はそうではありません。同じ言葉は2度と出てきません。
でもこの歌詞、まったく不可解かというとそんなわけでもないのです。振り回される感じはするけど、ちゃんと伝えたいことがひとすじあるのがわかってきます。
そのひとすじっていうのは、

月で生まれた人は 地球には戻れない

をいろんな角度から描いているってことです。

母の故郷の惑星

というのは、この歌詞でいうと戻るべき目標である「地球」のことです。
続く「雪」や「海」「魚たち」は、憧れの地球の象徴として描かれているように見えます。
だから主人公は、

公園の砂場から 大気圏突入用のロケットに乗って
誰かが残したシャベルを コックピットにして 還ろう 還ろう

ロケットに乗って、憧れの地球へゆこうとしています。描き方の切り口はたくさんあってカラフルだけど、要するに「月で生まれた人は 地球には戻れない」ってことを描いているんだと思うのです。

ところで歌詞には、図鑑型と物語型があると思います。

ひとつのものごとについて、いろんな角度から吟味して描いていくような歌詞の世界は、図鑑と同じつくりです。一方で、変わっていくなにかを追いかけながらその変化を描いていくのは、物語と同じつくりです。
その観点でいったら、『COSMIC BOX』は明らかに図鑑型です。
一つのものごとをいろんな角度から描く、図鑑型の歌詞はJ-POPにはそんなにありません。し、どっちかっていうと物語型の歌詞の方が人気のものが多いような印象があります。
でもね、世の中の歌詞はそれだけじゃないのです。図鑑型の歌詞にも楽しみがあるんだよ!っていうのを私はたくさんアピっていきたいです♪

時間×空間=時空間

さて、歌詞に戻りましょう。さっきは1番を見ていって、月から地球へと移動するイメージを味わったのでした。今度は2番を見てみましょう。
2番はこっちは1番からさらに磨きがかかっていて、文の区切りすら判然としないようなぐるぐるした歌詞の世界が紡がれています。

もしも恋に落ちたら 能力を失う

恋の話かな?

自制心 爆発してしまう ロボットみたいになれるなら

ざんねん! ろぼっとでした!

あなたと話した全て 忘れないでいるのに……!!

と思ったら記憶の話でした。ロボットじゃないの??
っていう感じ。読んでいる私たちは振り回されてばっかりです。
そもそも、2番は1番と歌詞の世界が違いすぎです。おさらいですが、1番はあちこちしつつも、

月で生まれた人は 地球には戻れない

を描いていたのでした。だから月からの目線で地球を見つめていて、サビではロケットに乗ってその距離を飛び越えようとしています。
2番にその距離の気配はありません。
代わりに2番に横たわっているのは時の流れです。
「もしも恋に落ちたら」は、未来を向いた表現だし、「あなたと話した全て 忘れないでいるのに……!!」は過去を向いた表現です。
こんな風に未来を向いたり過去を向いたり、1番じゃしてなかったですよね。
そして極めつけは「U・S・Bメモリー」です。なぜなら「U・S・Bメモリー」って過去を封じ込めて未来へ持っていくためのものだからです。
時間を飛び越える乗り物としての価値が「「U・S・Bメモリー」」にはあります。
それって、1番でいうと「ロケット」と同じです。
私は気づいちゃいました。
空間を移動する乗り物が「ロケット」、そして時間を移動する乗り物が「U・S・Bメモリー」じゃん! 「U・S・Bメモリー」は、「ロケット」と呼応する関係にあるみたい!
この関係は表にしてみることができます。

個所 モチーフ テーマ
1番 ロケット 空間
2番 U・S・Bメモリー 時間

それに気づくと、ほかの点でも1番と2番に呼応関係が見つかります。
たとえば1番のサビ、最後は「還ろう」を繰り返しています。空間の軸をさかのぼる表現です。
ってことは、2番には時間の軸をさかのぼる表現があるのかな? って思うじゃないですか。
あるんですよ!2番のサビに!

時計は逆戻り

って部分が。ここまで見つけてしまって、私の予感は「やっぱり!」に変わりました。
この曲、時間と空間をシンクロさせて描いてるのです。時間の進行は、空間の進行といっしょです。

還ろう≠帰ろう

ところで「還ろう」は「帰ろう」じゃありません。違いはどういうとこ?
私が使ってるMacの変換メソッドは、同音異義語の使い分けを提示してくれます。辞書を引くよりも簡潔なので引用すると。

帰ろう
人が本来の場所にもどる。
還ろう
まわり巡ってもとにもどる。

こうなります。「帰ろう」だとまっしぐらに地球を目指す感じがしますが、「還ろう」だと弧を描いて地球を目指してる感じになります。
そして言外に、地球からまた出ていって、また地球に戻って、というループを感じます。
この「還ろう」のループ感(しかも逆回り)が、この曲にもうひとつの大きな軸をつくってるみたい。
「還ろう」はもちろん空間のループです。だとすると、呼応する時間のループもあるはずです。
探してみると、

また明日も 逢えるのに
どうして いつも さようならが きらいになるんだろう?

ここがまさにそういう感じです。「また明日も 逢える」っていうところが、ちょうど時間のループだ!

曲も最後になると、時間と空間が渾然一体になってきます。
この部分が、私の中でこの曲のハイライトです。

瞳に映るのは いつか見たはずの 燃える夕焼け

夕焼けは空気がないと見られません。夕焼けを見ている主人公は、もう地球に立っているか、地球のすぐそばに来ているはずです。
地球のそばに来るということは、つまり主人公は空間的にさかのぼってきているということです。
そして、それが「いつか見たはず」ということは、時間的にも過去に遡っているということでもあります。
時空間の「還ろう」は、ここでひとつのものになったのでした。

つながリンク

さて、前回の曲とのつながりを見つけてみましょう。
前回は、ポケットビスケッツ『Red Angel』を取り上げました。今回の曲との共通点は、“逆に回る時計”です。

Red Angel』の2つめのAメロを引用します。

昨日から 時計の針さえ 逆に進んで
吹くはずの ない色の風に ちょっとだけあせる

ここに“逆に回る時計”が登場してます。『Red Angel』はちょっとダークな近未来が舞台。その世界の中で、逆に回る時計はなんだか不吉なイメージを放っています。
それからその直後にある「吹くはずの ない色の風」と照らし合わせて考えると、もしかしたら逆に回るこの時計は、“ありえない”ってことを意味しているのかもしれません。時計が逆に進むことがあり得ないのと同じように、こんな色の風なんか吹くはずない、って意味とも捉えられます。
そんな意味をちらつかせているのが、『Red Angel』に出てくる“逆に回る時計”なのでした。

一方『COSMIC BOX』には、2番のサビのところに“逆に回る時計”が登場します。

横たわる天の川 本当は長い旅路を辿ってきたんだ
時計は逆戻り 隣の席のあの娘 ズル休み

Red Angel』では時計はたぶん脇役でしたが、『COSMIC BOX』では主役を演じています。
この曲、1番では

月で生まれた人は 地球には戻れない

から始まって、空間を逆戻りすることをテーマにしているみたいでした。そしてそれに呼応する2番では、時間を逆戻りすることをテーマにしているみたいでした。その、「時間を逆戻りする」ことを短く表現したのが、「時計は逆戻り」なのでした。
同じモチーフも、『Red Angel』のように名脇役として出てくることもできるし、『COSMIC BOX』のように主役を張ることもできる、のでした♪



この歌詞、取り立てて引用してないとこもきらっと光るフレーズでいっぱいです。
公園の砂場から大気圏に突入できちゃうっていうギャップ。どんな日常からだって遠くに行けちゃうんだよ?って言ってくれてるみたいで、私にとっては勇気づけられる歌詞でもあります。
ところで、ふじぽんてるさんって方が、この曲のピアノカバーを公開されてます。これがすっごく前に前に出てくる演奏で、私 好きなんです。前から椎名林檎のカバーとか聴いてたけど、『COSMIC BOX』はすごくかっこいいです。

COSMIC BOX

COSMIC BOX

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(2015/04/14加筆修正)