5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

THE BLUE HEARTS『1001のバイオリン』

-その楽器は何をかき消すの?-
こんにちは。
STICK OUT
今回はTHE BLUE HEARTS1001のバイオリン』の歌詞を読みます。
earth music & ecologyのCMで宮崎あおいが「ヒマラヤほどーの♪」と歌っていたあの曲です。
『1000のバイオリン』が、オリジナルのようですが、私にこの曲を知らしめてくれたことにご縁を感じましたので『1001のバイオリン』のほうをタイトルにしました。
歌詞はこちら→http://www.uta-net.com/user/phplib/view_0.php?ID=48862
構成はこちら→A-BB-A-CB-A
https://www.youtube.com/watch?v=5akL0zIzvuAmovie

消しゴムが先。ペンがあと。

まずはこの写真を見てください。これはなにが写っているでしょう。

普通に答えるなら「ペンと消しゴム」ってところだと思います。
でも、この曲の主人公は、違う風に言います。
ところで、この歌詞の冒頭を引用してみます。

ヒマラヤほどの消しゴムひとつ
楽しい事をたくさんしたい
ミサイルほどのペンを片手に
おもしろい事をたくさんしたい

Aメロ全部を引用してみました。さっきの写真の問題とからめて、気づくことがあります。
さっきの写真は「ペンと消しゴム」でした。でもこの歌詞の中では、消しゴムが先で、そのあとにペンです。順番が違います。
消しゴムとペンがあったら、普通はペンを先に挙げませんか? なのにこの曲では消しゴムが先にきます。
どうして消しゴムが先なのかな。

ついでに簡単にGoogleでも調べてみます。

検索ワード ヒット件数
"ペンと消しゴム" 約142,000件
"消しゴムとペン" 約32,400件

*1
結果は圧倒的。「"ペンと消しゴム"」という順番の方がずっと多いです。
この曲でそれが逆になっているのには理由があるのかな。
というわけで、ペンと消しゴムについて考えてみます。

ペンはなにかを書くための道具で、消しゴムって書いたものを消すための道具です。消しゴムって書いたものを消すための道具ですから、書いてから消すって流れが自然です。さっきの写真で、「ペンと消しゴム」という語順が自然だったのは、たぶんそういう理由です。
でも、今回は消しゴムが先で、ペンがあとです。
つまり、この消しゴムを使って、書いたそばからなにかを消そうだなんて発想は、たぶんないのです。
書きたてのものを消すための消しゴムではありません。この消しゴムはなにを消すためのものなのかというと。
曲が始まる時点ですでに書かれている、なんらかの過去を消すための消しゴムなのです。
だからこの歌詞、いきなり消しゴムの話題から入るのです。そしてそのあとにはペン。
つまりこの歌詞、過去を消し去ってから未来へと向かうわけなのですね。

過去は溶ける。消しゴムで消える。

その根拠は、この歌詞のほかの部分でも確認することができます。
2つめのBメロの後半を引用してみましょう。

誰かに金を貸してた気がする
そんなことはもうどうでもいいのだ

引用した部分、金を貸してた気がしたのを思い出したのに「そんなことはもうどうでもいいのだ」とすぐに返します。
でも、本当に「どうでもいい」のならわざわざ歌詞に登場させたりはしないのです。
こういうわけの分からない表現が唐突に出てきたら比喩を疑う、っていうのがこのブログを書いてきた私の経験則です。

↑とか。
というわけでこの近辺で、この唐突な表現の解説をしてくれそうな部分を探してみます。

すると、直後の2行に気づきます。

思い出は熱いトタン屋根の上
アイスクリームみたいに溶けてった

と続きます。さっきの唐突な2行、解説は直後の2行でOKみたい。つまり、こんな感じ。

金を貸してたのは過去のこと だからそんなことはもうどうでもいい
思い出はトタン屋根の上 アイスクリームみたいに溶けてった

つまりここでもメッセージは共通。過去のことは、もうどうでもいいのです。溶けてしまったのです。消しゴムで消してしまったのです。

過去は消した。未来はどうだ。

さて、ここまで私は消しゴムばかりに注目していました。
今度は、ペンを見てみます。過去じゃなくて、未来を向いている部分はありそうでしょうか。

探すまでもなく、Bメロには魅力的な表現がたくさんあります。

夜の扉を開けて行こう

夜の金網をくぐり抜け

この辺りを見たら、主人公がこれまでの閉じた世界を破って、もっと開いた世界を向いていることがはっきりわかります。閉じていた“扉”を開くし、取り囲んでいた“金網”をくぐり抜けるし。
Bメロ2行めに出てくる「支配者」も同じような意味だと思います。「支配者」とはこれまで歌い手たちを閉じ込めてきた者たちです。でも歌い手はもう扉を開けることができます。支配者は眠っています。過去のしがらみから抜け出して、新しい世界へ歩みを進めています。

何度でも夏の匂いを嗅ごう

この深呼吸は印象的です。やっと手にした自由の空気を思う存分吸い込んでいるみたいで。
この曲、ペンを使って未来に向かって、すごく前向きな気持ちで自由を享受しようとしています。
そういう姿勢が歌詞のあちこちから伝わってきます。

ヒマラヤとミサイルと、1000のバイオリン。

この曲の中で、モノを置き換えるかたちで暗喩として機能している単語ってそんなにたくさんないと思います。でも、その数少ない暗喩、どれもこれも個性的で不思議で、そしてどこかでばっちり的確です。
私は何日間か電車の中で「〇〇ほどの消しゴム」って表現に合うようなモノを考えていました。
もっといい暗喩はないかなぁって思っていたのです。
そしていろいろと考えて、私は悟りました。
「“ヒマラヤ"ほどの消しゴム」は、そうそう超えられそうにないのでした。
たとえばサハラ砂漠や地球や銀河系のほうが、ヒマラヤよりもずっとずっと大きいのです。でも、大きいだけじゃだめなのです。地球ほどの消しゴム、丸くて使いにくそう。やっぱりヒマラヤみたいに、先端が尖っていないと。
ヒマラヤに大きさで劣っても、消しゴムとして魅力的なら問題ないはず。エアーズロック秋吉台東京スカイツリー、ペットボトル、孫の手、と、とがっていて消しゴムより大きそうなものを考えてみて、今度は別のことに気づきました。
それじゃ、不思議さや楽しさや、あれもこれも消してやるぜっていう気概がないよなあ、ってことに。
そうやっていろいろと考えるにつけ、ますますヒマラヤのよさは際立っていくのでした。単に大きいものとしてヒマラヤを選んでいるわけではないのです。
大きくて、不思議さがあって、消しゴムとしていい形をしていて、そういういろんな条件を整えた存在を、主人公は見出すことができてるんですね!

この曲にはもうひとつ重要な暗喩があります。
「1000のバイオリン」です。
これってどんな感じでしょう。
私は考えました。
クラシック音楽のコンサートとかの開演前に、音を調整するためにみんながてんでにバイオリンをかき鳴らし、ぎゅおおおおぉぉぉん!とひどく歪む空間に包まれた記憶があります。私にとって「1000のバイオリン」はそういったイメージがあります。
私が体験したのはせいぜい10のバイオリンですが、あれの100倍なら相当なトリップ感が味わえるんじゃないかと私は勝手に想像しています。
1000のバイオリンが鳴り響くと、空間が歪んで、これまで存在していたあれこれがみんな一度 無に帰すような、そういうイメージです。
バイオリンは、消しゴムと同じ意味みたいだな、と思ったのでした。

まとめ

前回は、Whiteberry『桜並木道』を取り上げました。今回のTHE BLUE HEARTS1001のバイオリン』との共通点は、「道」です。
『桜並木道』のほうは卒業の歌。一般に人生ってしばしば道に例えられます。この曲でも大雑把にいえばそういうくくりになるかもしれません。
とはいえ、

ガタガタの一方通行で見えない 100m先の景色 不安

なんて歌っちゃうあたり、ただの道じゃないのは一目瞭然。「シャカリキカリキ」で走ってる道も、実は先が見えなくて不安で、それでもやっぱり走っていっちゃうあたりにこの曲のいいところがあるんだと思います。
翻ってTHE BLUE HEARTS1001のバイオリン』、タイトルにもある「1000のバイオリン」が出てきた直後に「道」は出てきます。
しかも、その出てきかたがすごくて、

道なき道をブッ飛ばす

ときます。
まあ乱暴ないい方をすれば、この「道」も人生に例えられるものだとは思います。でも「道なき道」です。この「道」は道としてきれいに確立されたものではなくて、ましてや並木道なんでいう甘っちょろいものではなくて、もっと、他の人が通らないようなけもの道のことを指しているみたい。しかもそれすら「ブッ飛ばす」と歌っています。「道」がだれかのものであることを拒否するような鋭さがひりひりしています。歌詞を読んでいてもそうだし、歌い方としてもそんな感じ。
こうやって書いてみると、Whiteberryが甘ちゃんで、THE BLUE HEARTSが硬派な感じがしますが、たぶん、そんなことはないんだと思います。
だって『桜並木道』なんて、並木道のくせに「ガタガタ」で「一方通行」で「見えない100m先の景色」なのです。
きっとこの2曲は、そんなに隔たっているわけじゃないのです。
(2015/04/18加筆修正)

[asin:B002YLVC14:detail]
iTunesには『1000のバイオリン』しかない…。

*1:※hacosato調べ