DREAMS COME TRUE『LOVE LOVE LOVE』の歌詞の話。
歌詞の冒頭はこういう感じ。
ねぇ どうして すっごくすごく好きなこと
ただ 伝えたいだけなのに ルルルルル
うまく 言えないんだろう…
急に人生の本質をしゃべるんですけど、伝えたいこと伝えられないのって、人生あるあるじゃないですか? そうですよね。
さて、歌詞は、音楽と言葉による表現です。
だから「言えないこと」でも言わないと、それは歌詞にはなりません。
歌詞以外の方法で「言えないこと」を伝える方法もありますが、歌詞の手段の範囲の中でそれを伝えることに挑戦している曲もたくさんあります。
その「言えないこと」を伝えるための引き出し。それが今日のお話。
DREAMS COME TRUE『LOVE LOVE LOVE』歌詞
言葉にできないことを言葉にする
歌詞の冒頭をもう一度引用します。
きょう唯一の引用です。
この歌詞の一番の白眉は、なんといってもこの「ルルルルル」です。
ねぇ どうして すっごくすごく好きなこと
ただ 伝えたいだけなのに ルルルルル
うまく 言えないんだろう…
この曲は、「すっごくすごく好きなこと/ただ 伝えたい」というところから始まります。
だけど、主人公はそれをうまく口にすることができません。
言葉はお店で売っている服と同じです。それぞれ大きさと形と素材と質感があって、いまの自分の心のかたちに合うものをわたしたちはその都度、売り場の中から選びます。
中にはぴったり合うこともあるけれど、自分のかたちはその都度みるみる変わっていくから、完全にばっちり合うことばかりではありません。
そこを少しぐらい合わなくても妥協する手もあるし、コーディネイトでつじつまを合わせることもできます。
前者は言いたいことを少し矯めてありものの言葉の意味の中に収めるということだし、後者は言いたいことを別の言葉との組み合わせでもっと丁寧に説明することにあたるでしょう。
でもこの主人公は、どちらの手段も取りません。主人公が選んだ言葉は「ルルルルル」です。
少し話が変わりますが、わたしは先日、休業している路面店のブティックの前を通りました。
お店の前にはマネキンがあったんですが、マネキンは着るべき服がありません。でも、裸のままで置いておくのも忍びないと思われたのでしょう。マネキンには、白い無地の布が被せられていました。
この曲の「ルルルルル」は、その白い布と同じだな、と思ったのです。
主人公は「すっごくすごく好きなこと/ただ 伝えたい」けど、既存のどんな言葉を使ってもしっくり伝えることがかないません。
とりあえず「好き」とかっていう言葉を当てておくこともできるでしょう。きっとそういう曲もたくさんあります。
だけど主人公はそうしません。なぜなら、それがそのときの主人公のからだや気持ちに合わないからです。
そんな主人公が羽織る白い布の代わりになるのが「ルルルルル」です。
「ルルルルル」という言葉自体にはたぶんなんの意味もありません。
だけどここになんの意味も持たない言葉が置かれていること自体には大いに意味があるのです。
それは、ありものの言葉では伝えられないことを伝えようとしている、という思いです。
この曲は冒頭がサビのようにとても大きなインパクトがあって、冒頭がたくさんのひとの耳目を集めるところです。
だからアーティストとしては、できるだけたくさんのことをここで伝えたくなってしまうものだと思うんです。
しかし、そこへきて選ばれたのは「ルルルルル」という一見無意味な言葉選び。
わたしはそこに、この曲の魅力を感じます。ふつう言えないよ、こんなこと。
ということで、DREAMS COME TRUE『LOVE LOVE LOVE』でした。
前回のHoneyWorks feat. Hanon×Kotoha『恋文』に続いて、言葉にできなさが歌詞の中でどういう風に描かれているかを見てきました。
“言えなさ”については他の曲でも魅力的なアプローチがあるので、また触れることができたらうれしいなと思っています。
https://music.apple.com/jp/album/love-love-love/595630352?i=595630353&uo=4&at=10lrtS