5日と20日は歌詞と遊ぼう。

歌詞を読み、統計したりしています。

おかあさんといっしょ楽曲で音声学に入門するぜ! - 『たんぽぽちゃんとつくしくん』

こんにちは! 春ですね。

春といえば、おかあさんといっしょの楽曲で『たんぽぽちゃんとつくしくん』というかわいい曲があります。

この曲、1番にたんぽぽが出てきて、歌詞こういう感じです。

たんぽぽちゃん たんぽぽちゃん
きいろいぼうしの おんなのこ

わかる〜たんぽぽは女子だよね!

そして2番はこう。

つくしくん つくしくん
ちゃいろいぼうしの おとこのこ

わかる〜つくしは男子。

いやでもさ。

なんでたんぽぽは女子っぽくて、つくしは男子っぽいのかな。

色づかい? 慣習? それともジェンダー的な要請?

きょうはそんな疑問に、音声学を使って答えていくコーナーです。

ではさっそく見ていきましょう。

公式動画はないようなので、各自おかあさんといっしょを見てください(今年度もやってたよ)。

『たんぽぽちゃんとつくしくん』歌詞

音象徴

1番はこういう歌詞になっています。

たんぽぽちゃん たんぽぽちゃん
きいろいぼうしの おんなのこ
たんぽぽちゃん たんぽぽちゃん
ぽぽっていうのが かわいいね
ぽぽぽぽぽぽぽぽ たんぽぽ

この曲では、たんぽぽの「ぽぽ」という音に注目して、「かわいいね」と表現されています。

いやたしかに「ぽぽ」はかわいいよね。女子っぽいし、あどけない感じもある感じ。

でもそれって、なんで?

いい質問です!

そこで出てくるのが、音象徴です!(突然前のめり)

ブーバキキ効果の話をするぞ!

こちらの図をご覧ください。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e7/Booba-Kiki.svg/500px-Booba-Kiki.svg.png

このふたつの図形のうち、片方が「ブーバ」、もう片方が「キキ」という名前です。

どちらがブーバで、どちらがキキでしょうか?

…という問いかけをすると、大多数の人間が「左の図形がキキで、右の図形がブーバ」と答えることがわかっています。

これは日本語圏だけでなく、さまざまな母語のひとで同じ傾向を持ちます。また、大人でも子どもでも答えの傾向があまり変わらないことが知られています。

ja.wikipedia.org

なぜこんなことが起こるのかというと、言語学的には、言語音自体があるイメージを指しているからではないかと示唆されます。

それが音象徴です。

音象徴(おんしょうちょう)は、音そのものがある特定のイメージを喚起する事象を指す。語音象徴。

ja.wikipedia.org

いやでもさ。

すべての言語活動でそんなことが起きているはずはないのです。

もしそうだとしたら、世界中で同じものを指すことばは同じ響きになるはず。

でも実際にはぜんぜんそんなことありません。

日本語で「いぬ」と呼んでいるものは英語だと「dog」と呼ばれ、音声学的にも音韻論的にもまるきり別の単語です。

フランス語で「sœur」と呼ばれるものは日本語だと「あね」と「いもうと」に分かれるし、そもそも「あね」「いもうと」ってぜんぜん響きちがうくない?

というわけで、本質的に音象徴にはターゲットに入る現象と入らない現象があるのだと思うのですが、その境界線はいまひとつわかっていません。

しかしわたしは、おいしいものは食べるし、便利な学問は援用するのです。

今回は音象徴の観点から「ぽぽ」のことを考えます。

「ぽ」という発音、IPA国際音声記号)では[po]と書きます。

[p]の発音は、英語のpとだいたいいっしょです。唇を閉じてから開くときに、空気を送りこむことで発音されます。

こんなふうに、空気の流れを閉ざすことによっておこなう発音を破裂音といいます。

日本語の子音はいろいろあるのに、なんときょう取り上げる音はぜんぶ破裂音です。

それはおそらく、破裂音が、子どもにとって発音しやすいからです。

とくに唇を使った破裂音[p]や[m]や[b]は、喃語(赤ちゃんのばぶばぶいうことば)にもちょいちょい出てくる、とくに初期に発音しやすい音といえます。

この3つができると、あとは[a]の母音(たぶん赤ちゃんが最初に獲得する母音)を組み合わせるだけでパパ、ママ、マンマ、ばあば、アンパンマ、などが言えるようになり、多様なコミュニケーションに資することとなりますね。アンパンマンは偉大です。

次に[po]の母音[o]でいうと、こちらも喃語によく出てくる、発音の簡単な音といえます。

喃語段階で圧倒的に多く観察されるのは中母音~低母音で、高母音はほとんど現れないようです。日本語でいうと、「ア、エ、オ」にあたります。

yab.yomiuri.co.jp

というわけで「ぽ」の発音は、赤ちゃんでも発音のカンタンな、子どもらしさがよく出た音だといえそうです。

赤ちゃんに発音が簡単な音は赤ちゃんらしい音だと言い換えてもよいと思います。

しかし。

これが女の子らしいかというと、わたしが見た感じちょっと微妙です。

共鳴音と阻害音、という音の区分けがあります。

詳しくは専門書に譲るとして、それぞれの音が人名にどれぐらい使われているのかを性別ごとに分けてみると、下記のようになるそうです*1

音の種類男の子の名前女の子の名前
共鳴音35.6%67.3%
阻害音64.4%32.7%

男子は阻害音、女子は共鳴音が多いのですね〜!

そして、今回「ぽ」にも該当している破裂音はすべて阻害音に入ります。たんぽぽちゃんは男子の方やないか〜い!

引用元の本でもていねいにフォローされていますが、べつに阻害音になったからといって名前として魅力が劣るわけではありません。

また、適切/不適切のレッテルを付与するわけでもありません。

ただ大勢とはちがうのだなということがここでわかるのだというのがわたしの理解です。

まとめ:

  • 「ぽ」の音は赤ちゃんっぽくて幼い感じ。それはかわいいといえばかわいいけど、女子のかわいいとはまたべつ。
  • 阻害音が使われているので、その観点ではむしろ女子っぽくはない。

つくしくん

では、つくしくんはどうでしょうか?

2番はこういう歌詞。

つくしくん つくしくん
ちゃいろいぼうしの おとこのこ

そして最後はこういう感じ。

つくっていうのが たのしいね
つくつくつくつく つくし

1番の「ぽぽ」にあたる部分が、2番だと「つく」になります。

「つ」はIPAでは[t͜sɯ]と書くことが多いと思います。

これは、二重の意味で小さな子には発音がやや難しい音です。

子音の[t͜s]は破擦音というやつです。記号がふたつあることからも察せられるように、破裂音と摩擦音というふたつの音を組み合わせてなくてはきれいに発音できません。

破裂音は比較的簡単に発音できますが、それだと「てゅ」とか「ちゅ」に近い音になります。「つくし」が「ちゅくし」になったらいかにも赤ちゃんだぞ!

それから母音の[ɯ]の音は、先ほど引用したページにもあるように高母音というやつです。とくに難しいわけではないですが、赤ちゃんが発音できるようになるのは[a]とかよりはあとになります。やはりすこし大人向け。

また「く」の子音[k]は、口の中のかなり奥のほうで発音されます。破裂音の中では獲得が遅いはず。

というわけで「つく」は、「ぽぽ」に比べて、いろんな観点で大人っぽい響きがするといえそうですね。

「つく」が付くことば、なんかあったかな。「筑波大学」とかか…。たしかになんか大人っぽい。

音の種類男の子の名前女の子の名前
共鳴音35.6%67.3%
阻害音64.4%32.7%

先ほどの共鳴音と阻害音のくくりでいうと、「つく」は阻害音に該当します。破裂音だもんね。

ところで。

破裂音の閉鎖の度合いは、じつは子音によって異なります。

一般に、口の奥の方で破裂するほど、破裂が強くなることがわかっています。

なぜかというと…。

http://gc.sfc.keio.ac.jp/class/2006_14454/slides/12/img/101.png

↑この図を見て〜!

これ横顔のひとの口の中を輪切りにしたやつで、左側が唇、右側がのどの奥の方です。

で、ふわっと見ていただきたいんですけど、[p]や[m]だと左側の唇のところを閉じるわけですよね。

そうするとその右側で口の中全体の気圧が上がっていきます。これを開放して破裂させるのが破裂音です。

ところが[k](つくしの「く」)では、もっと口の奥の方を閉じています。そうすると気圧を上げられるスペースが[p]のときに比べてだいぶ狭いのです。

せまいけど、破裂させないと破裂音にならないので、[p]のときよりがんばって気圧を上げなければなりません。

これが赤ちゃんにとって[k]の発音がちょっと難しい理由です。

そして[k]のほうがより破裂音の破裂が強い理由になっています。

破裂音の破裂っぷりが強いということは、ですよ…?

音の種類男の子の名前女の子の名前
共鳴音35.6%67.3%
阻害音64.4%32.7%

阻害音の阻害っぷりが強いということになりませんか?(なりまーす!!)

ということで「つく」はかなり阻害音の阻害性が強く、男の子の名前らしさが強いといえそうです。

まとめ: - 「つく」は「ぽぽ」よりも大人っぽい - 男の子の名前らしさが「ぽぽ」と比べてより強い


というわけで音声学をからめて『たんぽぽちゃんとつくしくん』の曲を聴いてみました〜。たーのしー✨

先日お散歩してたらきれいなお花が咲いていて、春だなぁ〜こういう感情をじょうずに歌うのはおかあさんといっしょ楽曲だよなぁ、と思ってこの曲を思い出していました。

たんぽぽといえば『はるのかぜ』とかもすき〜〜。

わたしはただのワナビなので間違ったことを言っていたらご指摘ください(おそろしい……!)。

それでは今年度もよろしくお願いします。はやく安心して楽しくお勉強できる環境に戻るといいですね。

本日の参考文献はこちら。

「あ」は「い」より大きい!?—音象徴で学ぶ音声学入門

「あ」は「い」より大きい!?—音象徴で学ぶ音声学入門

  • 作者:川原繁人
  • 発売日: 2017/11/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
ビジュアル音声学

ビジュアル音声学

  • 作者:川原 繁人
  • 発売日: 2018/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

今回はあんまり使わなかったけど、辞書的に音象徴を扱うならこちらも!

日本語のオノマトペ-音象徴と構造

日本語のオノマトペ-音象徴と構造

  • 作者:浜野 祥子
  • 発売日: 2014/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

*1:川原繁人『「あ」は「い」より大きい!?—音象徴で学ぶ音声学入門』